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「少年法とは何か」を考えさせられた『綾瀬女子高生コンクリート殺人事件』の犯人を追跡|久田将義

TABLO / 2018年7月24日 11時17分

「何でそんな事聞くんですか?」
 その男性は今までの紳士的な態度を崩さずに、しかし口調をガラリと変えて僕に問い質しました。
 何とも言えない目付きでした。睨むでもなく、視線を真っ直ぐこちらに向けていきます。目の奥から暗い光線が出ているかのような錯覚。ゾッとしました。
 ヤクザの恫喝とはまた違う、冷めた殺意みたいなものです。

 彼は人を一人殺していました。出所後、某駅前の喫茶店で、ある事件についてインタビューをしている時に、僕はどうしても気になったので尋ねてみたのです。

「ところで、貴方はなぜ人を殺したのですか?」

 すると、表情が一変し冒頭の答えが返ってきました。眠そうな目なのですが、何とも言えない迫力みたいなものがありました。なぜトロンとした目になるのでしょうか。
 「市川一家四人殺人事件」で永山則夫以来の二十歳未満の元死刑囚、関光彦(執行)は『19歳』(角川書店・永瀬隼介著)の中で「人を殺すと眠くなるんですよね」というような事を言っています。きっと、その男性もそういう心境だったのではないでしょうか。
 約20十年前以上、東京・足立区で末だに忘れられない凄惨な殺人事件が起きました。拙著「生身の暴力論」(講談社現代新書)で指摘しましたが、「1980年代後半から1990年代前半まで少年犯罪の季節」でした。


 「綾瀬女子高生コンクリ殺人事件」は一人の女子高生をいきなり拉致監禁し、一ヶ月以上に渡って集団で暴行を加え死に至らしめた事件です。犯人たちは少年だったため、主犯を抜かして既に出所していました。
 当時、僕が編集長を務めていた『実話ナックルズ』では派生誌『ノンフィックスナックルズ』と共に、彼ら犯人の足取りを辿りました。こんな残虐な事件を僕は許せなかったし、もう一度総括したかったのと、犯人の少年たちと話をしてみたかったのです。
 また、テレビ朝日では元少年の一人にインタビューを試み成功していたのも大きかったです。
 さらに「新潮45」では「名古屋アベック殺人事件」の犯人に、接触していました。

 色々な伝手を使って、主犯Mと同房だった冒頭の人間とアポイントを取る事が出来、話を聞けました。あのような残虐な犯行を犯した、Mとはどういう人物だったのか。
 僕は暴走族の少年たち百人以上に取材・接触してきました。その度に聞きました。「綾瀬女子コンクリ殺人事件はどう思うのか」と。主犯は足立区の暴走族に入っていたという噂もあったからです。調べてみると集会に出たくらいでしたが......。

 Mは刑務所の中では、極めて大人しく、原書で「シャーロック・ホームズ」を読もうとしたり、英語の勉強に熱心だったようです。あれから数年、既に出所しています。
 一時、ある暴力団に入ったと知り合いのヤクザから聞いていました。で、そこの人間にも"あてて"みましたが、知らないと言います。「もし、そうなら噂だけでも伝わると思う」とも言っていました。

 ちなみに、主犯Mより先に出所したKは微罪で再逮捕されています。懲りていない訳です。

 こんな事でいいのか?そう思いました。

 確かにもう「終わった事件」かもしれません。しかし、未だにネットでは話題に上ったり、綾瀬事件のメンバーにある芸能人が加わっていた等の噂が上がりました。ネットによる被害者となったスマイリーキクチさんは、約十年にわたって、犯人扱いされてしまいました。

 あの事件の取材を思い起こすと決まって、冒頭の人間の目が記憶の中に甦ります。人が人を殺める。人間としてある一線を越えた人の目は、ああなるのでしょうか。

 この事件を調べていくうちに、なぜか大宮西署のニーヨン(二課、四課)の刑事が弊社を訪ねて来ました。(文◎久田将義 連載『偉そうにしないでください』)

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