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ホームレス記事はなぜ炎上したのか 取材に欠けていた「当事者性」|久田将義

TABLO / 2020年11月17日 5時50分

ホームレス記事はなぜ炎上したのか 取材に欠けていた「当事者性」|久田将義

写真はイメージです(撮影・編集部)

cakesというプラットホームに「ホームレスを3年間取材し続けたら意外な一面にびっくりした」というタイトルが「クリエイターコンテスト優秀賞」を受賞したとの事。読んでみました。ジャンルが「エッセイ」となっていました。

夫婦のライターが3年間にわたり、ホームレスを取材しその時思った事を綴っていくというもの。ホームレスを通称「おじさん」と呼び、彼らの生活やホームレスの道具の扱い方の工夫など淡々とつづっていくのですが、その描写が「異文化に触れた一般人」枠から出ず、SNSでは「ホームレスをバカにしているのでは」といった辛辣な感想が眺められました。

この記事に対してはツイッターを中心に炎上。よほどの抗議が来たのか現在、運営から

「本記事は、ホームレスの方々のプライバシーに配慮し、掲載許諾をいただいた上でお届けします。著者とホームレスの方々との関係性についての説明が不足していたため、2020年11月16日11:28に本欄と本文の一部を修正しました。」

というただし書きが追加されていました。

参考記事:ネットで使用しない方が良い用語「マスゴミ」 日本でアメリカのような「分断」が起きないように | TABLO

「エッセイ」というカテゴリーで批判をかわしているかのように見えるのは僕だけでしょうか。「3年間取材し続けたら」という文言がタイトルに入っていますね。もちろん、コラムもエッセイも取材は必要ですから、この「取材」に対して特にケチをつけるつもりはないのですが、ちゃんとしたコラムニストはかなり、現場に行き取材しています。アウトプットの文体がコラムになっているに過ぎないのです。取材は取材です。問題は取材の中身です。

エッセイだから「取材が甘くても良い」ともしライター、運営が考えているのであればそれは違っているでしょう。

こういったホームレスや街の変わった人に取材する際は、まず懐に飛び込んでいく事が大事です。僕は僭越ながら「ワニマガジン社」時代に1人でムックを編集していた際、ライターに池袋のホームレス集団に潜入してもらい、彼ら生態や生の言葉をリポートしてもらいました。

また「実話ナックルズ」編集長時代には、新潟の生ける伝説「あげまん慶子さん」という女性に突撃取材しました。「慶子」さんは新潟のキャバ嬢の間では有名で、変人扱いされている方。「あげまん慶子です。携帯番号〇〇●●。私は神の力を持っています。私と遊べば運気があがります」(要するにフリーの立ちんぼだったのです)。といった主旨の文言を掲載したお手製のビラを制作していて、周囲からはバカにされていました。しかし、慶子さんの行きつけのバーの店主の話では印象は真逆。「あいつはいい奴ですよ。少し変だけど(笑)」と言ったものでした。詳細は「実話ナックルズ」か「ダークサイドJAPAN」(ともに大洋図書)に掲載してあります。

そして、さらに取材すると慶子さんの生い立ちが不幸なのが分かりました。だからこういった「あげまん慶子」に、変身し男性に運を与え続けているのか、と悟ったものでした。世間で笑われている彼女とは違った、可哀そうな経歴でした。これは書く側の情けとプライバシーの侵害から、掲載せずに僕の胸にしまっておきました。

慶子さんやホームレスのような人たち。「cakes」のライターさんがこわごわ見てみたり「私たちとは別世界」「たくましく生きているのに勉強になった」といったような事しか書けない。キツイ言い方をすればキレイ事では済まないのが現実の世界です。

当事者性。当事者は取材者はなれません。けれど当事者に近づく努力は必要です。そこで少しでも、読者に当事者の声や思いや人生が伝われば良い。そういう思いで恐らくノンフィクションライター達は、仕事をしているはずです。ちなみ「慶子さん」の記事は匿名で書いたのですが、元祖ルポライター竹中労の弟分もと言うべきルポライターであり僕の心の師である朝倉喬司さんからほめられたのは今でも嬉しく思っています。

関連記事:「この人」が存命だったらどんな政権批判をしていたのか 竹中労の伝説 権力に本気で牙をむいた反体制ルポライター | TABLO

人にはそれぞれ語れない人生があります。

例えば映画にもなった『ヨコハマメリー』さん。恐らく戦後の米兵相手をしていた女性だと思われます。20年前まで真っ白なおしろいを塗って立っていました。

同じような女性を京都で取材した事があります。立ちんぼの相場のお金を払い、話を聞きました。80歳と言っていました。九州出身の良い家柄で、波乱万丈の人生でした。そして巡り巡って、京都で立ちんぼをしていたのです。話があちこち飛ぶ中、辛抱強く耳を傾け、彼女の半生を聞き取ろうとしました。当事者である彼女に少しでも近づきたかったからです。

ホームレスも同様でしょう。彼らは彼らの人生があり、そこには傾聴すべき「物語」があるはずです。そこの視点が全く抜けている「エッセイ」。これはネット向きの文章だからそのような構成になったのでしょうか。ネット記事の場合、どうしてもcakesのようなテイストの記事がよく読まれる傾向があるのは確かなようです。が、そこに甘んじると炎上し、運営が断り書きを書かざるを得なくなる事もリアルな世界の冷酷な一面なのです。(文◎久田将義)

あわせて読む:ツイッタートレンド「裏社会の住人」とは何者か 誰でも裏社会の住人になる可能性がある|久田将義 | TABLO

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