殺人者となった元プロ野球選手・小川博 豪遊生活が止められなくなり借金を重ねた結果...|八木澤高明
TABLO / 2018年7月27日 12時31分
「ロッテに入ってすぐに取材に行ったことがあったけど、ぶっきらぼうなうえに、生意気な口の聞き方で、人との話し方をわかってないなという雰囲気だったよね。ずっとお山の大将で野球をやって来て、怖いもの知らずだったんじゃないかな」
大手スポーツ紙記者が証言するのは、元ロッテ投手で、2004年に殺人事件を犯し、服役中の小川博のことである。群馬の玉三郎と呼ばれるほどの精悍なマスクで、前橋工業時代には 三度甲子園の出場、青山学院大学を経て、ドラフト二位でロッテに入団。傍からみれば順風満帆の野球人生を歩んでいるはずだった。
入団翌年に一軍に上がった小川は、プロでもまれながら、1988年には初めて二桁勝利をあげ、奪三振王のタイトルも獲得する。その年の秋に、日本中が注目した近鉄とのダブルヘッダー、10・19の初戦で先発投手をつとめ好投した。
ところが、この翌年から小川の成績は急降下していく、前年からすでに右肩は悲鳴をあげていて、以前のような投球ができなくなっていたのだった。10・19から4年後の1992年に現役を引退。
一方で小川は、現役時代に味わった豪勢な生活が忘れられなくなっていた。最高年棒は2200万円。外車を乗り回し、夜は銀座に出ての豪遊。プロ野球選手としての生活は、小川の金銭感覚を間違いなく狂わしていた。
功労者であった小川はコーチや球団職員として球団に残った。ところが浪費癖はおさまらず、離婚による慰謝料や携帯電話を使ってアダルトサイトにアクセスしたことによる通信費などで、借金は2000万円近くにまで膨らんでいた。まともな金融機関からは金を借りられなくなり、同僚などにも金の無心をし、闇金からも借金をして、その催促が球団事務所にまで来るようになった。
借金まみれとなった小川の面倒を見続けてきた球団も、さすがにこれ以上守ることはできなくなり、小川は球界を去ることになったのだった。
「いつも笑顔で温厚だった」と近所の声
その翌年から、小川は埼玉県内の産廃処理会社に勤めて再出発を図った。会社では元プロ野球選手としての知名度から営業部長として採用された。2003年4月には自己破産もして、身辺整理もしたはずだったが、やはりプロ野球時代の浪費癖はなおらなかった。すぐにまた借金を重ねるようになり、闇金からの借金は百万円近くになった。
産廃処理会社では、月に40万円の給料を得ていたというが、会社の飲み会で使う予定だった金をギャンブルにつぎ込んでしまったことが、再び闇金に手を出すきっかけとなった。再就職後、小川は再婚した妻と会社近くのアパートに暮らし、近所の住民からは、いつも笑顔で温厚だったという印象を持たれていたが、心の中の闇はまったく変わっていなかったのだった。
2004年11月18日夜、小川は金の無心をするために埼玉県上尾市にある会社の会長宅を訪ねた。その日、会長一家は外出していて、家には住み込みで働いていた女性がひとりいるだけだった。その女性に金を無心すると、あっさりと借金を断られたことから、小川は逆上し、彼女を殴り倒して気絶させ、会長宅にあった現金175万円を奪った。
気を失っていた女性を車に乗せると、走って10分ほどの距離にある桶川市内を流れる元荒川に向かった。小川の右腕から放たれたのはボールではなく、罪の無い女性だった。女性は溺死し、二日後に釣り人によって水死体となって発見された。
小川は奪った現金で、3万円を返し、残りの金はギャンブルなどで使い果たした。事件発生から約1ヶ月後の11月22日、小川は逮捕された。
元プロ野球選手が、引退後の生活に困って、盗みなどを働くケースは、今でもよく耳にすることがあるが、日本のプロ野球史上、殺人事件を犯したのは小川のみである。今年もまた甲子園の季節がやってくるが、小川は時に甲子園の日々を振り返ることがあるのだろうか。(取材・文◎八木澤高明)
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