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少年Aと足立区 かつて陸の孤島だったこの土地に都会の漂流者は引き込まれていく|八木澤高明

TABLO / 2018年8月1日 12時20分


 2016年2月、元少年Aが足立区内の団地で生活していることが『週刊文春』によって報道され、大きな話題となった。
 あの陰惨な事件から20年近くが過ぎ、すでに33歳の大人となった彼が暮していた団地は、足立区と埼玉県草加市との境にある。
 その団地へと向かってみた。人々にどのように記憶されているのか、この目と耳で確かめてみたかった。

 団地のある足立区北東部は、筑波エクスプレスが開通するまで、陸の孤島と呼ばれ、甚だ交通の便の悪い土地であったが、近年リフォームされたこともあり、若い夫婦なども増えているという。その人の流れの中に紛れ込んで元少年Aは棲み着いたのだった。

 元少年Aが暮していた棟は、団地の北端で、毛長川という川のほとりにある。周囲には公園もあり、のんびりとした空気が流れている。

 元少年Aが暮らしていた棟の近くで、住民と思しき男性がベンチに腰掛けていた。挨拶をしてから、気になっていたことを聞いてみた。
「少年Aが住んでいて大騒ぎになりましたが、住民の出入りは以前からあるんですか?」
 男性は、屈託もなく話してくれた。

「うちの部屋の上にも、ひとり男が住んでいてね。三ヶ月ぐらい前に引っ越してきたと思ったら、つい最近いなくなっちゃったんだよ。動きがおかしくてね。カゴ付きのオバさんが乗る自転車を自転車置き場に置かないで、わざわざ部屋まで持って上がるんだよ。あれはきっとやましいことがあるんだろうな」

 40年以上、この団地に暮しているという男性は、住民によるトラブルは少なからず発生しているという。

「まず家賃が安いだろ、だから下っ端のヤクザが多くて、堂々とした顔して歩いているよ、この前も、少年Aが住んでいた棟の近くでヤクザ同士の喧嘩があったばかりでさ」

 陸の孤島と言われてきた故に、都市の中の漂流者たちを、呼び寄せるのがこの団地だった。世の中を震撼させる事件を起こし、日本社会の日陰を歩かざるを得ない少年Aがこの地へと来るのは必然だったようにも思える。

 少年Aは1997年に児童二人を殺害し、三人に重軽傷を追わせ、逮捕された後、医療施設に送致。2004年に仮退院し、四国や東京都内、神奈川県内を転々とし、この団地へと流れてきた。

 4年ほど前から、少年Aが都内にいるのではないかという噂は、ところどころで囁かれていた。そのうちの一つは東大和市の団地にいるというもので、近隣のスーパーマーケットで働いていたという。

 元少年Aはこの団地から消え、どこへと流れていったのか。住民たちの間でも話題になったようで、団地に暮らす女性が言う。

「支援する人がいて、部屋の手配とかしているって話ですけど、さすがにもう東京にはいないって、今度は越谷に行ったって噂が出てますよ」

 今後の潜伏場所は、やはり人の動きがある都市近郊のベッドタウンということになる。隣近所の人間関係が濃密な、田舎に潜伏することはまずないだろう。

 団地周辺を歩いていてさらに不気味な話を聞いた。元少年Aが暮しはじめたと思われる2015年夏前後から、団地周辺では、猫や鳩などの動物を殺害する猟奇事件が頻発していたという。

 小動物を殺していたのが元少年Aだという確証はない。ただ彼がこの団地を去ってからというもの、そうした事件は起きていないという。(取材・文◎八木澤高明)

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