元ヤクザが書いた小説『死に体』(沖田臥竜著) 久々に心に突き刺さった作品|久田将義
TABLO / 2018年8月7日 12時39分
重いです。読後感。これは重い。
僕はここ十年で死刑反対論者になりました。きっかけは二冊の本でした。「宣告」(加賀乙彦著)、「絞首刑」(青木理著)。そして、「死に体」(沖田臥竜著)もそこに入るかも知れません。
三冊とも共通する事は「重い」。しかし、「死」とは何か。そして「死刑制度」とは何か。「ちゃんと向き合え」と顔をそむけるものに対して、筆者は現実をつきつけます。
筆者が、死刑制度についてを描きたかったのかは分かりません。ヤクザの生き方、ヤクザを取り巻く人間、恋人、親分、兄弟たちの関係性に重きを置いて描きたかったのかも知れません。が、僕には死刑制度とは何か考えろというメッセージが込められている気がしました。
主人公は死刑囚です。そしてヤクザでもあります。主人公、(ここではフルネームでなく呼び名の「杏」としておきます)の「杏」の一人語りで物語は進んでいきます。筆者は渡世に一時席を置いていたため、「杏」の語りは読む者にヤクザのリアルを突きつけます。
そして読めば読むほど、「このヤクザは実はいい人なのではないか」と思ってしまいます。しかし、死刑宣告を受けている事から、二人以上殺人を犯していると推測できます(物語の後半に何人殺めたのかは出てくる)。とてもいい人ではありません――。報道では「極悪人」扱いでしょう。実際、被害者や遺族の立場であれば許されるものでは決してありません。
が、「杏」を知る者にとっては一人の人間なのです。ヤクザとて、一人の人間である事に変わりはないと読者は感じる事でしょう。
杏の情けなさ。杏の非常さ。杏の愚かさ。杏の哀しさ。引いてはヤクザの哀しさ。
読者は「杏」を助けたたいと思うかも知れません。また、凄腕弁護士も弁護を引き受けてくれます。
「杏」は助かるのか。「杏」の死刑は執行されるのか。最後まで「どうなるのか」が分かりません。もしかして、助かるのではないか――。僕はそう思って最後のページを開いていました(結末はネタバレになるのでここには書きません)。
それにしても、と思います。「杏」は一体、どのような殺人事件を起こしたのでしょうか。(文◎久田将義)
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