パクリ疑惑騒動の『カメラを止めるな!』をいまさら観に行ってみて思う事|久田将義
TABLO / 2018年8月24日 11時0分
各識者が絶賛という事もあって、期待を膨らませて映画館に行きました。行列が出来ていました。若い男子たちが「2ちゃんでパクリ騒動やってたよな」と話しているのが聞こえ、「こういう話題で盛り上がるのも製作者側は不本意だろうな」と同情します。
内容は上田慎一郎監督が「小劇団に着想を得て」映画化にしたと言っている通り、たまに小劇場に観に行く僕としては、「なるほど劇団ぽい」なと思いました。プロットやキャストの演技も劇団らしい感じでした。「普通に面白いB級映画」という感想です。皆さん、ハードル上げすぎなので「低予算の面白いB級映画」を観に行くという感覚で行った方がよいかと思いました。総じて面白いです。
問題はこの映画に対して、和田亮一氏が2011年劇団「PEACE」が元ネタだと言って、訴訟騒ぎになった事です。
公開当時、和田亮一氏は鑑賞後、「面白い」「自分たちの舞台がこういう形になってよかった」と絶賛、上田監督とエールの交換をしています。
が、「フラッシュ」と「note」において、和田氏の態度が一か月で急変します。「原作として劇団と自分の名前を入れて欲しい。訴訟も辞さない」と。これは、余りにもこの作品がヒットしたからだと推測せざるを得ません。二館だけの上映で一か月くらいの公開期間だったら、こういう事はなかったと思います。
和田氏の主張は「原案でなく原作としてエンドロールに入れ、認めて欲しい」というものです。
出版界を例に取ります。僕も漫画原案を手掛けた事があります。が、「原案」というクレジットに特に違和感を抱きませんでした。つまり、「こちら側の気持ち次第」だと思います。感情のもつれが一番の要因ではないでしょうか。
著作権問題は難しいです。一応25年くらい出版界の末席を汚した身としては著作権、編集権、発行権、反論権などは頭に入れておかなければならないルールです。
執筆者が書いた記事やインタビュイーなどの発言には、著作権が生じます。執筆者の所有物、つまり知的財産です。
例えば「実話ナックルズ」で取材費をお出しして、連載をして頂いた記事が、違う出版社から単行本として出版された例があります。
これには何の問題もありません。
が、あるとしたら電話でもメールでも一言「あの連載さー、A社から出すからよろしくねー」くらいの声がけはあった方が良いでしょう。これも感情の問題です。
僕は一応そのライターには極めて柔らかく「一言、言って頂ければ」と電話をしたら、問題が大きくなってしまい、出版社の編集長とライターが高そうな日本酒を持って会社まで来た事がありました。そこまでしなくても良いのですが、法的に問題はないので「こちら側の気持ち」の問題になります。
多分、和田氏は感情的になっていると思われます。このまま訴訟までもっていくのでしょうか。弁護士に聞いてみました。
「演劇の場合、脚本が著作物と考えられています。したがって、今回の映画が、その『原作』の脚本とどれだけ類似しているか、ということが著作権侵害かどうかになり、アイデアが似ている程度では、著作権侵害は難しいと思います。つまり、もとの脚本を『翻案』したと言えるか(イメージ的には「原作」と言えるか)、ということが争点と思われます」
マーティン・スコセッシ監督、マット・デイモン、レオナルド・ディカプリオ主演「ディパーテッド」はトニー・レオン、アンディ・ラウ主演「インファナル・アフェア」の「リメイク」です。また香川照之・西島秀俊主演の「ダブルフェイス」は「インファナル・アフェア」を「モチーフ」にしていますが、「ディパーテッド」より「インファナル・アフェア」の再現性が高いと思いました。
という例・慣習を見ると、「モチーフ」「リメイク」という表現で落ち着く可能性もありますが、前記したように一番の問題は「感情」です。和田氏の振り上げた拳をどこに持っていくのか、が重要になっていくのではないでしょうか。(文・久田将義)
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