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パワハラで心を壊された女性が行き着いた「仕返しをしなくてはいけない」という境地 そして彼女は裁判にかけられた――

TABLO / 2020年12月7日 8時30分

パワハラで心を壊された女性が行き着いた「仕返しをしなくてはいけない」という境地 そして彼女は裁判にかけられた――

写真はイメージです。

「仕返しをしなくてはいけない」

永野美和(仮名、裁判当時33歳)は大学卒業後、いくつかの職を転々とした後に名古屋にある医療機器メーカーで勤めはじめました。しかしそこは上司である「ワタナベ」という男のパワハラが原因で退職を余儀なくされてしまいます。

名古屋の医療機器メーカーを退職した後、彼女は東京へ出てきて別の医療機器メーカーに転職をしました。しかしそこでも、今度は上司の「ヨシダ」という男にパワハラを受けて休職をせざるを得なくなってしまいました。

2度のパワハラ、それは彼女の心に大きな傷を残しました。

名古屋に住んでいた彼女の姉は、会社に行けなくなった妹を心配して何度か東京へやってきています。

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「以前はよく一緒に出かけたりしていたのに、そういうことができなくなってしまっていました。複数の種類の薬をかなり大量に飲んでいました」

彼女が逮捕される約2ヶ月前には、姉の元に六本木警察から電話がかかってきたこともありました。

「妹さんを警察で保護しています。死にたい、と本人が言っています。このままでは1人で帰すわけにはいかないので迎えに来てください」

という電話でした。姉はすぐに東京へ向かいました。

妹の心が壊れていることはわかっていました。妹が通院している病院の医師からは、

「ADHD、アスペルガー症候群、そしてそれに伴ううつ病です。今すぐに入院をする必要まではありませんが、サポートは絶対に必要です。できればお姉さんが近くに住んでサポートしてもらえたら…」

という話もされていました。

ですが、姉には姉の生活があり事情がありました。医師の言葉に納得はしていたものの、すぐにそのとおりに動けませんでした。

このことで姉を責めることなどできません。

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会社に行けなくなってから、彼女の心の中にあったのは怒りだけでした。

なんで自分だけがこんな目に?

現実はあまりにも理不尽で、そして不可解でした。

怒りの感情が抱えきれなくなった時、彼女は犯行を決意しました。

「怒りを抑えるためにやらないといけない、と思いました。仕返しをしなくてはいけない、という強迫観念にとらわれてやりました」

彼女が犯行に用いたのは3通のスマートレターでした。彼女は持て余した怒りを悪意に変えてスマートレターで送りつけたのです。

1通目はかつて働いていた名古屋の医療機器メーカーの取引先へ向けて、当時自分にパワハラをした「ワタナベ」の名前で送付しました。

2通目は休職中の東京の医療機器メーカーに「死ね」と書かれたメモを同封して送りました。

3通目は東京のメーカーの取引先に向けて、やはり自分にパワハラをしていた「ヨシダ」の名前で送りました。

この3通のスマートレターにはそれぞれ小動物の死骸が詰め込まれていました。

 

心の壊れた妹を姉は救うことが出来たのか?

彼女は証言台で、スマートレターを送った時の気持ちをこのように語っています。

「嫌だったことが一気に蘇ってきて、『スマートレターを送らなくちゃ』って思いました。送ったら怒りは収まったんですが、でも時間が経つとまたふつふつと蘇ってきて…」

もしも逮捕されなければ、同様の犯行は際限なく繰り返されていたのかもしれません。

懲役2年、執行猶予3年。

裁判官がそう有罪判決を告げた時、傍聴席にいた姉は声を上げて泣き始めました。

わかっていたのに何もしてあげられなかった。

わかっていたのに助けてあげられなかった。

そんな、自分を責めるような気持ちがあったのかもしれません。

今後は妹を名古屋の実家に戻し、家族全員でサポートをしていくそうです。

今回の事件の被害者となった医療機器メーカー2社は、どちらもパワハラの事実は否定しています。パワハラがあった証拠も裁判では何も出てきていません。

名古屋のメーカーは

「退社の際に逆恨みのような言動があった」

と証言しています。

真実がどこにあるのか、それはもう当事者だけにしか知り得ないことです。(取材・文◎鈴木孔明)

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