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AbemaTV 加藤浩次の「番組内ハラスメント」をじっくり考えてみた|吉田豪

TABLO / 2018年9月7日 17時0分


 AbemaTV『極楽とんぼKAKERUTV』でハラスメントを受けたと、その番組のゲストとして呼ばれた女性が告発して話題になっています。


https://note.mu/_momoco_/n/n13f540d53052


 彼女が出演したのはその番組の『"狂犬"加藤が酔ってます!本音スッキリ生暴露3時間SP』という企画で、彼女は「それまで番組のことはまったく知りませんでしたが」「これだけ知名度の高い人の番組からのオファーは、平たくいうと『ラッキー』と思った」ので出演を快諾。

 スタッフからは「加藤氏はこの世界の第一人者なので、酔っていても番組は進行できる、ざっくばらんにおしゃべりしてください」と説明されたので、「彼の出演番組をちゃんと見たことはありませんが、そんな私でも知っているレベルの有名タレントさんです。なるほど、お酒を飲むといっても進行に支障が出るほどではない、もしくは、酔っているように見せても実はそれほど酔っていないのだろう」と思って安心していたとのこと。

 共演のカンニング竹山も、過去にネット番組で一緒になったときは「非常に紳士的に接して」くれたし、「加藤氏が朝の情報番組で長年、司会をしていることぐらい私も知っています。竹山氏もいろんなバラエティ番組で司会をしたりコメンテーターをしたりといった姿を見たことがあります」ということですっかり信用していたら、酔っ払った加藤浩次とカンニング竹山から「公開いじめ」を受けた、という記事でした。

 それを読んで、かなりデリケートな問題だからなるべく触れないでおこうとは思いながらも、あまりに「加藤浩次はひどすぎる!」「こんな番組は許せない!」「『スッキリ!』を降板しろ!」的な意見ばかりがTLに流れてきたので、ボクは「加藤浩次のこと、極楽とんぼのこと、『極楽とんぼKAKERUTV』のことをよく知らずに、加藤浩次が酔っ払う企画に出演したのが最大のミスだったんじゃないかって気がします」とツイッターでつぶやきました。

 すると、この女性から「すごいド直球の自己責任論でびっくりしました」とリプライがきたので、「自己責任とかじゃなくて、いまでこそ加藤浩次は『スッキリ!』の真面目そうな司会者だけど、もともとは狂犬と呼ばれていたような人で、あの企画は彼の狂犬ぶりを復活させるのがテーマだから、事前にWikipediaぐらいはチェックしておくべきだったんじゃないかと」と返答。

 これは事務所無所属で、たまにテレビに呼ばれる素人枠という意味では彼女と近い立場の人間としての意見ですけど、ボクもテレビはほとんど見ないから知らない番組に呼ばれたときはWikipediaぐらいは調べるし、知らない共演者も調べるんですよ。今回の件は、そうすれば防げた事故だったと思うんですよね。

 実際、番組のWikipediaにはこう書かれています。「加藤が収録前からアルコール類を飲んでおり、放送中もアルコール類を飲みながら番組に参加する。加藤の狂犬ぶりを甦らせ、本音をはかせる趣旨の企画」と。

 だから、ボクは「狂犬キャラを求められた加藤浩次は期待に応える仕事をして、『スッキリ!』の司会者だと思って安心して出演したゲストは傷ついたという、不幸な事故なんだと思ってます」とつぶやいたわけです。そう、これはお互いにとって不幸な事故だったんですよ。

 彼女は、自分が出演するコーナーの冒頭、酔っ払った加藤浩次がイケメン評論家を名乗る50代ぐらいの女性を「クソババア!」と罵倒するのを目の当たりにして恐怖を感じ、「私にとってこれは『面前DV』のようなものでした」とも書いていました。

 ただし、このイケメン評論家と加藤浩次の罵り合いはこの番組ではお馴染みのもので、2人は当たり前のように取っ組み合いになったりのバトルも繰り広げたりしていて、要はプロレスだったわけですよ。「主に加藤氏、竹山氏の罵声もヒートアップしていきました。立ち上がって大声をあげ、平手で机を叩いて大きな音を立てました(卓上のジョッキがガシャンッと音をたてるほど)」というのも、つまりはそういうことだったんです。


https://abematimes.com/posts/4794396


 続いて、プライバシーを守るため仮面を付けて活動をしている彼女に、酔っ払った加藤浩次やカンニング竹山が「仮面を取れよ!」と迫ってきたことにも恐怖を感じ、「彼らがしたいことは"いじめ"だったと私は解釈しています」と彼女は言っていました。これがタイガーマスク相手でもそう言えたのか、的なことも言っていたんですが、まさにこれは初代タイガーマスクの覆面を小林邦昭が剥ごうとするような展開を打ち合わせなしでやった、一方通行なプロレスだったと思われるわけです。芸人仲間やテレビ慣れしたセクシー女優、評論家なんかだと上手く対応できたかもしれないけれど、彼女にそれを求めるのは酷だった、てことなんだと思います。

 この番組の総合演出は極楽とんぼの盟友・マッコイ斎藤。アドリブ性の高い、平気で相手にいろいろ仕掛けたりもする、どこまでが現実でどこまでが仕込みなのかわからないギリギリの演出を得意とする人で、被害者の女性はこれを完全にガチだと受け止めちゃったわけです。

 もうちょっとこの件の背景を説明してみましょう。

 極楽とんぼはテレビで人気がありながらも、もともと学園祭で下半身を出して公然猥褻で書類送検されるようなコンビでした。それがO6年の淫行騒動によって山本圭壱が事務所を解雇され、事務所に残された加藤浩次がピンで活動を続けていくことになります。『スッキリ!』の司会者という、狂犬らしくない仕事をやり続けたのは、そういう流れだったわけです。これは、山本圭壱が戻ってくる場所を守るため、事務所と交渉するための発言権を得るためでもあったとも聞きます。

 自分まで不祥事を起こしてはまずいから狂犬キャラを消していって、すっかり愛妻家キャラになり、朝の顔になったわけですよ。

 その苦労が実って2016年、10年ぶりにコンビ復活&事務所復帰。しかし、この10年の間にテレビのコンプライアンスはさらに厳しくなっていました。さすがに地上波で山本圭壱はまだ使いづらいから極楽とんぼとしての仕事はほとんどなくて、ようやく手にしたコンビ復活後初のレギュラー番組がAbemaTVの『極楽とんぼKAKERUTV』だったわけです。山本圭壱の本格復帰と、すっかり朝の顔として毒っ気が抜けたように思われている加藤浩次の狂犬ぶりを蘇らせるのが、この番組の目的だとボクは認識しています。

 ついでに言うと、カンニング竹山も昔は番組でズボンを脱いでうんこをしようとして強制退場させられるような芸人でした。もともとキレ芸の人だったのが、相方の中島忠幸が亡くなり、ピンで活動していくうちに真面目なコメンテーター的な仕事が増えてきたけれど、いまでもAbemaTV『土曜 The NIGHT』とかではキレたりゲストを説教したりしています。

 この2人のかつての姿をマッコイ斎藤が引き出そうとする番組に、2人を真面目な司会者やコメンテーターだと思いこんでいる女性がゲストで来ちゃったら、そんな不幸な事故はないんですよね......。プロレスを知らない人をリングに上げて、目の前に酔っ払ったタイガー・ジェット・シンとアブドーラ・ザ・ブッチャーがいたら、それは怖いに決まってます。彼女の心境はそんな感じだったんでしょう、きっと。

 彼女にちゃんと説明しなかったスタッフが悪いという意見も多くて、それは確かにそうだと思います。ただ、これは彼女が考えるような騙し討ちだったわけじゃなくて、おそらく番組スタッフや出演者は「加藤浩次といえば狂犬」「カンニング竹山といえばキレ芸」というのが世間に共通認識だと思っていて、『"狂犬"加藤が酔ってます!本音スッキリ生暴露3時間SP』というタイトルにもしているから、わざわざ詳しく説明しないでもわかると思ってたんじゃないかと思うんですよ。でも、芸人仲間やテレビによく出る評論家とかならともかく、いまはそんな過去を知らない人も増えてきていて、それが今回のケースだったんじゃないかと。

 これをあえて例えてみるなら、こうなります。地上波でエロ番組が放送しにくくなったいま、ネット番組として伝説の番組『ギルガメッシュないと』が復活。そこのゲストに招かれた女性が「こんないやらしい番組だとは思わなかった!」「セクハラです!」と本気で激怒。スタッフや出演者側は「『ギルガメ』はそういうものだってことを、みんな知ってるはず」と思っていて、でも番組が終わってからかなり時間も経って、『ギルガメ』を知らない人が増えてきて、「ギルガメッシュという古代メソポタミアの王様の名前を付けた番組がいやらしいと思うわけがない!」「そもそも、こんないやらしい番組をネットとはいえ放送すること自体が間違っている!」という意見のほうが正論っぽく聞こえる時代になっていたという、それに近い出来事だと思った次第です。(文◎吉田豪 連載『ボクがこれをRTした理由』)

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