江東区森下と川俣軍司 かつてドヤ街であったこの町で4人を殺し、人質をとって立て籠もった男
TABLO / 2018年9月13日 11時45分
森下に残るかつてドヤだった建物
「うちの目の前は立ち飲み屋、その二軒となりは食堂で、当時は昼間っから人通りも多くて賑わっていたね。今じゃどこの店もやってないけどさ。うちも昔は簡易宿泊所をやっていて、東北からの出稼ぎの人を泊めたもんだよ。この辺りはちょっと騒がしいところだったから、若い女の人は歩けるような場所じゃなかったよ」
東京都江東区森下。かつて労働者向けのドヤが何軒も建ち並び、男臭かった町の面影を今では感じることはできない。私は町にある一軒のタバコ屋の女主人から当時の話を聞いていた。
かつてのドヤは、ホテルやマンションに代わり、町の中をベビーカーを押しながら若い主婦が歩くのは日常の景色となっている。今も数軒のドヤが残っているが、労働者の姿は無く、福祉と呼ばれる生活保護受給者たちが暮らしている。
「川俣軍司ね。ここはお世辞にもきれいな町じゃなかったけど、まさかあんなことが起こるなんて思いもしなかったよ。朝から晩まで大騒ぎでね。あの男が泊まった宿はもうマンションになっちゃっているから。もう何も残ってないよ」
今から37年前の昭和56年6月17日の白昼。すし職人など様々な職を転々としていた川俣軍司は、タバコハウスと呼ばれていたドヤを出て、前日受けたすし店の面接の結果を知るために新大橋通りにある電話ボックスに向かった。所持金は180円、荷物はカバン一つ、その中には魚を捌くはずの柳刃包丁が入っていた。
すし店のマネジャーから「不採用」との結果が伝えられると、電話ボックスを出て、森下駅の方角へと向かって歩き出した。進行方向からは幼稚園児を連れベビーカーを押した若い主婦が歩いて来る。その刹那、軍司はカバンから柳刃包丁を取り出すと、三人に向かって襲いかかった。
30秒ほどの間に女こどもばかりに刃を向け、四人を殺害、二人に重傷を負わせたうえに、33歳の主婦を人質にして中華料理屋「萬来」に立て籠った。
中華料理店に立て籠もると、説得に当った捜査員に対して、「俺には電波がついている」などと訳のわからないことをぶつぶつと話し続けた。
篭城から7時間後、突入した捜査員によって身柄を拘束された。事件発生当時から、下半身に何も身につけていなかった軍司は、中華料理屋から連れ出される際、口には猿轡をかまされ、白いブリーフを履かされたことから、人々に強烈な印象を残したのだった。
逮捕後の検査で、尿からは覚醒剤の反応が出た。昭和四十年代半ばから増えはじめた覚醒剤は、暴力団や在日朝鮮人グループの資金源となり、労働者を中心に広く蔓延し、通り魔殺人が度々起きるなど、当時、深刻な社会問題となっていた。
川俣軍司が覚醒剤に手を染めたのは、中学卒業後に東京のすし店で修行をするが挫折し、故郷に帰っていた時期のことだ。故郷である茨城県神栖市波崎町の実家から、車で30分ほどの場所にある銚子の歓楽街に入り浸り、知り合ったヤクザから買ったことがきっかけだった。
覚醒剤の常用が事件の引き金の一端となったことは間違いない。ただそれ以前から、暴行事件などを繰り返しており、前科七犯であることから、本人の素養に問題があったことは言うまでもない。
川俣軍司が身を寄せた森下のドヤ街跡から、立て籠もった中華料理店のあった通りに向かった。ちょうど、夕方の時間帯だったこともあり、幼稚園児を連れた母親とすれ違った。
何気ない日常というものが、事件のあった通りを歩くと、極めて尊いものに思えてくれるのだった。(取材・文◎八木澤高明)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
『くまもと伝統工芸品 復興一途 ~くまもとから会いにきました。~』<初開催>大丸京都店
PR TIMES / 2024年9月20日 17時15分
-
“ビールジョッキ8杯”飲みハシゴ酒…飲酒運転し親子2人をはね死傷 全盲で白杖持った息子に母親が付き添っていた最中に…運転の男が起訴内容を認める 大阪地裁堺支部
MBSニュース / 2024年9月18日 11時30分
-
「収入が少ない…」元妻・須藤早貴被告がデリヘル勤務を経て“紀州のドン・ファン”とめぐり会うまで【裁判員裁判】
NEWSポストセブン / 2024年9月17日 18時13分
-
紀州のドン・ファン元妻、事件前に《遺産目当てと言われた女たち5選》動画閲覧 検察側
産経ニュース / 2024年9月12日 13時1分
-
「私人逮捕系YouTuber」裁判で暴かれた“過激演出”の実態。“収益の総額”も明らかに
日刊SPA! / 2024年9月5日 8時51分
ランキング
-
1アイスクリーム店に放火未遂の疑い 従業員の21歳女を逮捕 調理場の段ボールに着火か 那覇市おもろまち
沖縄タイムス+プラス / 2024年9月23日 6時41分
-
2大阪府議補選は無所属森西氏が初当選 維新、議席死守ならず
産経ニュース / 2024年9月22日 23時45分
-
3次期知事選で「独自候補を検討」と兵庫維新、片山代表 斎藤知事の推薦は難しいとの見方も
産経ニュース / 2024年9月22日 22時52分
-
4「また全部だめになった」「心折れた」頻発する災害に焦燥の被災地、能登豪雨の現場を歩く
産経ニュース / 2024年9月22日 22時19分
-
5輪島の中屋トンネルに土砂流入 作業の3人が生還、同僚すすり泣き
毎日新聞 / 2024年9月22日 20時43分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください