「地下アイドルを卒業」宣言した姫乃たまがTABLOだけに全てを語った180分|Interview 前編
TABLO / 2018年9月14日 17時0分
ひめの・たま
1993年2月12日、東京生まれ。
16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。[オフィシャルサイト http://himenotama.com/ より]
初めて舞台に立った日からちょうど10年となる2019年4月30日に「地下アイドルの看板を下ろす」と宣言した姫乃たま(https://note.mu/himenotama/n/nd5fd5c94a2d9)。その真相を聞きました。
──noteに公開した「2018年8月18日 パノラマ街道まっしぐら(地下アイドル卒業と記念公演のお知らせ)」という文章は、各方面で話題になりました。その決断に至った背景として、ファンとの関係性にも触れていて、なかなかデリケートな部分もあるのかな、って。
姫乃:いやー、実はちょっと、かなり複雑なんですよね......。地下アイドルを辞めるべきだと思ったのは、私が「地下アイドル」の定義に当てはまらなくなってしまったという理由と、「姫乃たまの現場」に発生してしまった問題とふたつの原因があって、前者はわかりやすいのですが、後者に関しては感情的で複雑なトラブルなのでnoteにも書けませんでした。あの文章自体を自分のファンにだけ向けて書いたわけではないということもありますが......今日は全部話します。
──なるほど。「地下アイドル」の定義というものについても、後ほどお訊きしますが、今回は地下アイドルとして活動を始めたことのお話から聞かせていただきたいなと思っていまして。
姫乃:そもそも私が地下アイドルに初めて触れたのは、知り合いに連れて行ってもらったロフトプラスワンでの地下アイドル系ライブでした。今から10年くらい前で、「地下アイドル」という単語はあったけど、出演している女の子たちもまだ「地下アイドル」という言葉を知らないくらいの勃興期でしたね。
──アイドルブームが大盛り上がりする寸前くらいのころですね。
姫乃:そこで見た光景が本当に衝撃的で。普通の女の子たちがステージで踊って歌うと途端に輝いて見える姿もすごかったし、普通のサラリーマンみたいな人が椅子を振り上げてオタ芸をしている姿もすごかった。今やったら怒られちゃうけど、当時は椅子を振り回しても怒られないくらいコアで統率のとれた文化だったんですね。
──今、現場で椅子を振り回したら、相当ヤバいですね。
姫乃:(笑)。それだけいろんな人が参加する大きな文化になったんですよね。私はアイドル志望だったわけではないので、ただ単に「すごいなあ」という感じで観ていたんですけど、そのイベントに出ていた女の子が「出てみない?」って誘ってくれたんです。それで興味本位でステージに立ったのが初めてです。
──それが2009年ですよね。
姫乃:2009年の4月30日。高校2年生になったばかりの16歳のときでした。そういう感じで始まったから、当時からそこまで自分がアイドルとして売れたいとかやっていきたいという気持ちはなくて。どちらかというと、オタクの人たちとアイドルになりたい女の子たちに興味がありました。でも、1回だけステージにあがってそれで辞めようと思っていたら、偶然見ていた関係者の人に「うちのイベントに出てみない?」って誘われたんですよ。それがファンの人が投票する勝ち抜き戦のイベントで最短で半年くらい出続けないと優勝できないシステムで。
──結構長い期間をかけて戦いますね。
姫乃:そうなんです。3段階のリーグ戦になっていて、いちばん上のリーグで3カ月連続で1位になると賞金10万円がもらえるシステムのライブイベントだったんです。誘ってもらえたのが嬉しくて1回出てそれっきりでよかったんですけど、これが最初の出演でいきなり2位になったんですよ。それで「おっ、いけるじゃん」みたいな気になってしまって......。
──アイドルとしての素質があるかも? みたいな。
姫乃:いやー、でもこれってカラクリがあるんですよね。集客力だけで勝ち負けが決まらないようにお客さんは1人2票持っていて、自分の推しているアイドルだけじゃなく、もう1人にも投票しなくちゃいけないんですよ。推しだけに投票すると人気だけで決まっちゃって盛り上がらないから。それで、ファンの人たちは自分が勝たせたい女の子と、いちばん勝ちそうにない女の子に入れるわけです(笑)。
──人気がありそうな女の子に1票入れると、自分の推しが負けちゃうかもしれないから。
姫乃:にゃはは、そうです。弱そうな子に入れておけば、推しが有利になりますよね。だから、私はただ単にいちばん勝てなさそうだったから2位になっただけなのに、勘違いして「これ次は勝てるかも?」って思って勝ち抜き戦に出ていたら、そのままズルズルと活動をここまできちゃったっていう。
実は「ライター」としては
かなりの正統派デビュー
──そこから約10年ということですよね。
姫乃:高校生のときから大学在学中も、放課後はほとんどライブに出ている生活でしたね。多い時は最大で1カ月に25本くらいライブに出ていたと思います。でも、その一方で17歳くらいのときからエロ本でライターをするようになったんですよ。たしか、ワニマガジンの『Chuッ』だったと思うんですけど、「地下アイドルはヤレるのか」みたいな特集で取材を受けたんですよね。
──なかなかパンチが効いた取材ですね。
姫乃:見出しが過激なだけで、内容は「地下アイドルはどんな活動をしているの?」みたいなちゃんとしたやつでした(笑)。イベントに出ていた10人くらいの地下アイドルに取材してたんですけど、私はまだ高校生だったからというのもあって、イベンターさんも気を遣って雑誌には載らなかったんですよ。ただ、それで逆に編集部とカメラマンさんが気にかけてくれて「あの小娘はどうしてるんだ?」ってワンマンライブを見に来てくれたり、ブログとかも見てくれたりして。それで「文章書けそうだな」って思ってもらえて、エロ本の読者ハガキに答えるページを担当することになったんです。
──意外なところから、まさかのライターデビュー。
姫乃:80年代、90年代のサブカルライターだったらまさに王道のパターンですよね(笑)。とはいっても、アイドルは本来エロとは切り離さなければいけないわけで、その時点で地下アイドル業界の中で異質な存在になりつつあったんだと思います。でも、それによって周りの地下アイドルの子たちから「あの子は私たちとジャンルが違うから敵じゃないよね」って思われるようになって、勝ち抜きバトルなんかをしているとどうしてもギスギスしちゃう瞬間があったので、ラクになったんです。
──それから地下アイドルとライターとの二足の草鞋になるわけですよね。
姫乃:最初『ChuッSPECIAL』で連載をしてて、休刊してからは同じワニマガジンの『Yha! Hip & Lip』でも連載をしてたんですけど、エロ本が休刊していく現状がすごく悲しくて、エロ本に対する想いをはてなブログに書いたんですよ。そうしたら1日に100万アクセスが何日も続くくらいにたくさん読まれて、それがきっかけでサイゾーとかコアマガジンとか、いろんな出版社のみなさんが連絡をくれて、いろんなところで連載するようになって、大学入ってすぐくらいのときかなあ。一気に月の連載が10本くらいになりました。
──ライターとしてはかなり順調ですね。
姫乃:たしかに「ライターとして食える」状況になりました。そんななかで、基本的にはエロ本の中でコラムを書く仕事が多かったんですけど、サイゾーの編集者の方が地下アイドルの現状について書いてくれないかって持ちかけてくださったんですよ。元々地下アイドルになりたい女の子のメンタリティーに興味があったし、コアな世界で起きていることを文章で翻訳して世間に伝えるということにも興味があったので、是非やりますということで始まったのが『姫乃たまの耳の痛い話』(おたぽる)という連載で、後に『潜行』という単行本になりました。
──このあたりから、いろんなメディアが地下アイドルを取り上げる機会も増えてくるんですよね。
姫乃:私としては、わかりやすい魅力的な部分だけじゃなくて、地下アイドルの女の子とファンの人たちの人間臭い面白さを伝えたかったんですけど、それってタブーに触れるみたいな、ちょっとサブカルチャー的な切り口だったんですよね。でも地下アイドルって単語が有名になるにつれて、マスメディアでは「地下アイドルは貧乏で悲惨だ」とか、「オタクは犯罪者予備軍だ」とか、私の意図とは違う特に味わいのない使い捨てみたいなキャッチーさで取り上げられることも多くなっていって......。私がどう意図していたとしても、メディアで地下アイドルの現状を発信していたのは事実なので、そこにはちょっと負い目も感じていました。
──そして、小金井のライブハウスでの傷害事件では、地下アイドルが間違った形で報道されることもありました。
姫乃:被害者の女の子は地下アイドルではなかったのですが、ライブハウスでファンから被害を受けたという事件の印象からか、地下アイドルだって報道されて......。連日、地下アイドルとファンがあたかも危ないもののような形でばかり報じられるのを見ていて、これまで文章でこの業界について発信してきたわけだから、責任を持って彼女が地下アイドルでないことも含めて地下アイドル業界への誤解をちゃんと伝えていかなきゃと思って、あの時はマスメディアからの取材依頼は全て受けて話をしました。同世代の女性として事件自体がショックだったのもあって、あの時期にテレビに出るのはすごく怖かったです。結局、向こうのいいように編集されたりもして、何度も落胆しました。最終的に地下アイドルをルポで伝えていくのは面白いけど、地下アイドル自体の人数が多いのでどうしても偏りがあると思って、統計的な視点で地下アイドルを分析した『職業としての地下アイドル』(朝日新書)という本を書いたんです。
自分が定義してきた「地下アイドル」
そこから次第に外れてゆく自分...
──ある種、地下アイドルをやりながら、地下アイドルとは何かを伝えていく役割も担うようになった、というか。
姫乃:だからこそ、本当の意味での地下アイドルでなくなってしまったという気持ちが大きくなってきたんですよね。
──それこそ地下アイドルの定義に当てはまらなくなったというか。
姫乃:私は自分の本の中でも、地下アイドルの定義として、「マスメディアよりもファンの人が目の前にいるステージを中心に活動している」「チェキを撮っている(だからファンの人と距離が近い)」「技術よりも人間的魅力が上回っている」などの要素を書いてきました。チェキに関しては物販における大発明過ぎて、最近はシンガーソングライターの人もバンドもやっているので、地下アイドルだけの定義としては古くなっちゃっているとは思うんですけど。
──でも、ステージよりもメディアに出ることが増えてしまった。
姫乃:マスメディアに出て地下アイドルについて話したり、文章で地下アイドルについて書くっていうのは、なんというかもう「地下アイドル」ではないですよね。しかも自分が定義してきた「地下アイドル」から外れるわけです。定義の中でも「技術的な部分よりも人間的魅力が上回る」というのは最も重要なところだと思うんですけど、ライターとしての姫乃たまの割合が大きくなってきていて、出演するイベントもライブよりトーク形式のものが増えていたので、これもちょっと違う気がしていました。そういう状態のまま地下アイドルとして活動するのは、ほかの地下アイドルの子たちにも申し訳ないし、肩身が狭くなってきたんですよ。
私は地下アイドルとしては正統派ではないのに、ライター活動をしてメディアに出ることが多いから、地下アイドルのアイコンみたいにされるのは違うんじゃないか、って。そう思いながら、地下アイドルの看板を下ろすタイミングを見計らっていたところで、10周年が来たので、これはちょうどいいかな、と。しかも、10周年の2019年4月30日が平成最後の日だったっていう。これはたまたまなんですけど......年号って元旦で切り替わるのかと思ってました。
──そして、10周年の日に地下アイドルとして最後のワンマンライブを行うのが渋谷区文化総合センター大和田さくらホールという、あまり地下アイドルっぽくない会場で。
姫乃:最初は恵比寿のリキッドルームっていう案もあったんですよ。でも、地下アイドルって渋谷WWWでやって次にリキッドルームでやって、その次に赤坂ブリッツで......みたいな流れがあるから、去年渋谷WWWでワンマンライブをしたので、ここでリキッドルームをやるとまだ地下アイドルの文脈の中に入ったままだなっていうのがあって。だから、地下アイドルから外れるという意味ではさくらホールはちょうどいい会場だと思いました。
──客観的に見て自分が地下アイドルではなくなったから看板を下ろすというのは、とても明確ですよね。
姫乃:そうですね。別に地下アイドルがイヤになったとか、嫌いになったとかではないです。まだまだ私でも地下アイドル業界の力になれることがあれば協力していきたいと思っています。この前も、自分が卒業した大学でアイドル論について講義をするというお仕事があったんですよ。150人くらいの大きな教室での講義だったんですけど、アイドル志望の子とか実際にアイドル活動をしている子も聴講していて、講義の後に相談に乗ったりもして。それも、地下アイドルとして居座らなくていいだろうと思えるきっかけでした。現役のアイドルの子たちの力になりたいという気持ちが芽生えてきたので、そういうことができればいいなとも思います。
と、ここまでが、地下アイドルの看板を下ろすひとつの大きな理由なんですが、決定的な理由はほかにあって......。実は自分の"現場"に起きてしまったいくつかの問題が、地下アイドルを辞める決断に至った大きな原因なんです。
自分の活動が「地下アイドル」と呼ぶには相応しくなくなってしまったがゆえに、「地下アイドル」という看板を下ろすことを決断した姫乃たまだが、その決断の裏にはまた別の問題があったという。その問題とは一体何なのか──。インタビュー後編で真相が明かされる。(インタビュアー◎相羽真 / 写真◎編集部 / ロケ地◎ネイキッドロフト)
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