姫乃たま、地下アイドル卒業は涙なくしては語れない"もうひとつ"の理由があった!|Interview 後編
TABLO / 2018年9月14日 17時1分
たまちゃん、どうして......
初めて舞台に立った日からちょうど10年となる2019年4月30日に「地下アイドルの看板を下ろす」と宣言した姫乃たま(https://note.mu/himenotama/n/nd5fd5c94a2d9)。前編では自分の活動が「地下アイドル」の定義に当てはまらなくなってしまったことを明かした姫乃だが、それとは別に「姫乃たま現場」である問題が生じていた......。
──姫乃さんの現場で起きたいくつかの問題とは一体どういうことなんでしょうか?
姫乃:私の現場は地下アイドルの中でもちょっと特殊で、ファンのみなさんもほかの地下アイドルのファンに比べると毛色がちがうというか。元々アイドルが好きだったっていう人もいるんですけど、私が書いた文章を読んで興味を持ってくれた人も多くて。そういう人でも気軽にライブが楽しめるように、途中から楽曲も意識的にオタ芸とかコールを入れたりしなくてもいい方向にしていったのもあって、現場そのものがほかの地下アイドルと様子が違うんですよ。ファン層は30代後半から50代前半くらいの独身男性がメインで、女性もそのくらいの年齢の方に加えて、10代20代の女性がいる感じです。
──比較的落ち着いた雰囲気のファン層というイメージですね。
姫乃:基本的にすごく紳士ですね。私が言うのもなんですけど、運がいいことに私のファンの人たちってすごく賢くて、センスも良いんです。ファン同士も仲がいいし、私とも仲がいい。距離はすごく近いのに、ファンの人たちのおかげで、いわゆるガチ恋問題も昨年末まで一切なかったくらいです。
──すごく平和な現場というか。
姫乃:そうですね。ガチ恋ファンがいるとファン同士もギクシャクするし、私とファンともギクシャクするってわかってるから、そうならないようにファンの人たちが上手く距離感を保ってくれてたんです。「姫乃たま現場」のコミュニティが壊れないように、ファンの自浄作用がすごい働いていたんですね。だから、みんな「これ以上踏み込んではいけない」みたいな線引きができていたし、ガチ恋にもならずにいました。
──でも、ガチ恋問題が起きてしまった?
姫乃:はい。身の危険を感じるくらいのガチ恋ではあったんですけど、それが地下アイドルを辞める直接的な原因ではありません。ただ、ガチ恋問題が起きた時に私の中で「地下アイドルを辞める」という選択肢が生まれたのは事実です。でもそれは怖いから辞めたいということではなくて、危険だから活動が続けられなくなるかもしれないと本気で感じた瞬間に、地下アイドルを辞める時は自分の意思で辞めたいって思ったんです。
──実際にガチ恋の問題が起きた時はどのように対処したんですか?
姫乃:いやー、ガチ恋してしまったファンの人もすごく混乱していて、会場で迷惑をかけてしまうようなこともあるくらい周りが見えなくなっていたんですね。もちろん私とも全く話が通じない。「ガチ恋ってこんなになっちゃうんだ......」ってすごくビックリしました。まあ恋してる時の人間なんて多かれ少なかれ、おかしいんですけど......。でも、私の場合、事務所に所属していないので、ファンを出禁にするのってすごく難しいんですよ。
──たしかに、出禁を伝えるというのは運営サイドからでもかなり躊躇するし、ましてやアイドル本人からとなったら、相当難しいですよね。危険なこともあるかもしれない。
姫乃:拒否するのが一番危ないですからね。それでそのときは、関係者の人が協力して、話をつけてくれたんですよ。自主的に出禁になるっていうことで決着したみたいで、その後もファンの人たちが定期的に話を聞いたりケアしてくれているみたいです。本当に私のファンの人たちって、それくらいレベルが高くて、自浄作用もあるんですよ。
──そのガチ恋問題自体は解決したということですね。
姫乃:個人的にはまだ戦々恐々としてますけどね......。それより、その後に別のガチ恋問題が出てきたんです。これが今回の一番の問題でした。実は数カ月前に、あるファンの人からツイッターのDMで「他界したい」(ファンをやめること・現場に行くのをやめること)って送られてきたんです。ツイッターでファンとDMのやりとりをするのは暗黙の了解でルール違反になっていて、私のファンも送っちゃいけないのを知っているので、送られてきた時点で緊急事態だったんです。
突然ファンからのダイレクトメッセージ
そこには「他界」の文字があったのだが
──それは驚きますね。
姫乃:私の中の鉄則としては「他界したい」って言って気を引いてくるファンって本当にどうしようもなくて、地下アイドルの女の子たち全員に声を大にして言いたいんですけど、わざわざ気にかけることもないし、目の前にいる人たちを幸せにするのが地下アイドルの仕事だと思ってるんですね。と、言いつつこういう例外を設けるのは本当にどうしようもないんですけど、私も人間なので許してもらいたいのですが、そのファンの人がとてもじゃないけど送ってはいけないDMでわざわざ「他界したい」って伝えてくるような人じゃなかったんですよ。それでちょっと普通じゃないなって思って理由を聞いてみたら、それが本当に予想外のことで......。
──どういう理由だったんですか?
姫乃:私の女の子のオタクに恋をしたんだけど、その子と上手くいかないから、つらくてもう現場に行きたくないって言うんですよ。
えーーーーーーー!!!!!!!? って感じですよ。
それを聞いて、なんとも情けない気持ちになってしまって......(ここで思わず涙が溢れる姫乃たまちゃん)。第一私自身が理由じゃないし、私は地下アイドルとしては正統じゃないけれど幅広く面白い仕事をしてきたつもりでいて、これまでそれを一緒に楽しみながら、大変な時も乗り越えて一緒に成長してきたと思っていたのに、「そんなことで他界しちゃうの?」ってすごくショックだったんですよ。私のやってきた仕事とか、それに対する自負や、ファンへの想いとか、全部私の勘違いでなんでもなかったのかってすごくショックでした。
──まさかの「女オタオタ問題」だったっていう。
姫乃:ファンの女の子は水商売をやっている子で、自分でもほかのオタクに対してちょっとボディタッチが多いって気にしてたみたいなんですよね。とは言え、男性ファンの人たちは大人なのでそんなことで勘違いする人もいないだろうと放っといてたら、聞けばほかにも彼女に言い寄っているファンの人たちがいたみたいなんです。その子が彼氏がいるって公言しているにもかかわらずですよ。ファン同士が普通に恋愛するのはむしろ大歓迎なくらいなんですが、これは問題あるなと。
──なるほど。
姫乃:思えば、女オタオタ問題って別の形で前からちょっとあったんですよ。以前、ファンの女の子がライブ会場で酔っ払って潰れてしまって、ファンの人たちがみんなで介抱していたら、それがどうやらほかのアイドルのファンから「酔っ払った女オタに群がっている」って思われていたらしくて。ほかの現場で「姫乃たまの現場は女オタオタが多い」っていう悪評が立っていたみたいなんです。そうなったら今度は「女オタオタが多い現場に通っているって思われたくない」っていう女の子が出てきて......。
私はかなり楽観的で、女の子がはしゃいでて可愛いなあ、介抱してあげるファンの人たち優しいなあくらいにしか思っていなかったので、そういう風に悩んでいる人がいることに気づけなかったのが、本当に申し訳なかったです。それで女オタオタ問題に気がついて、これから私が気を遣っていかないとなあと思っていた矢先に「他界したい」っていうDMが来たんですよ。
──なかなか難しい状況ですね。
姫乃:もう私ひとりの手に負いきれなくなっちゃったんですよね。それで、女の子に言い寄ってるって名前があがったファンの人たちにヒアリングをしたら「反省してます」ってことにはなったんですけど、女の子のほうにも話をきいたら、「現場にはしばらく行かないほうが良いですよね」ってことになってしまって......。
私の意図しないところで誰かがコミュニティーからはじき出されるのは不本意ですし、そもそもそれって根本的にはなんの解決にもなってないですよね。今回はそれぞれに話をすることで表面的には鎮火したけど、またほかの女の子が来たらどうするの? もしその子に彼氏がいるのに好きになっちゃったらまた私が話すの? っていう。そんなことでなんとか保たれてるコミュニティって何? って話ですよ。
僕たちを癒してくれるアイドル
保証された癒やしがもたらすものとは
──想像していなかったこととはいえ、ショックではありますよね。
姫乃:また名前が上がった人ほど、熱心なファンだったりするんですよ......。これはなんかあるなと思って女オタに恋をしてしまったファンの人たちにいろいろと話を聞いてみたら、みんな驚くほど恋愛していないんですね。話も面白いし、センスもあって、コミュニケーションも普通に取れるのに、まったく恋愛をしていない。もちろん人生において恋愛がすべてではないですけど、話を聞く中で「たまちゃんとは付き合えないから」っていうのが何回かワードとして上がったんです。今回の件ってその想いが、DMを送ってもいい、彼氏もいて恋愛禁止じゃないファンの女の子に向いちゃったってことじゃないですか。
地下アイドルとファンの恋愛については、地下アイドルそのものの魅力と問題に繋がるので今回は一旦置いておきますが、それはあまりにも姫乃たまのファンコミュニティーの中で世界が完結し過ぎているんじゃないかって疑問に思ったんです。恋愛対象も、やりきれない気持ちを持って行く場所も、世界にはもっとたくさんあると思うんですよ。
──姫乃たま現場がすべてになってしまっていた、みたいな。
姫乃:私はファンの人たちに「癒やしを与える」ことをテーマに活動してきて、ここ数年は特に私自身もファンを癒やすことに癒やしを見出していた部分があったんですけど、結局与えられることがわかっていて享受する癒しってすごくレベルが低いんですね。私のそういう行為が、結果的に幸せにしたかったファンの人たちの視野を狭めてしまったんです。
──姫乃さんへの疑似恋愛の感情が別の形になってしまったっていう。
姫乃:もちろん地下アイドルを応援する楽しみの中に疑似恋愛的な魅力があるのは事実ではあるけど、私と実際の恋愛はできないんですよ。ファンの人たちに対して私はひとりなんです。でも、実際の恋愛ができないということは悲しいことでもあるけど、私が恋愛をしないという意味でもあるわけです。だから、疑似恋愛的な要素だけで満足してしまうタイプのファンの人たちは外の世界を向く必要がなくなってしまうんです。
私が地下アイドル辞めて、恋愛もするかもしれない、絶対に癒しを与えてくれるわけではないひとりのただの人間であることをちゃんと提示しないと、熱心にアイドルを応援できるような愛情の深い人たちほど、一生ちょっとボディタッチされただけですぐに恋に落ちちゃうのかって心配で......私は長い目で見たらファンの人たちを幸せにできてなかったことに気づいてしまったんですよ。
──なるほど。
姫乃:一部のファンの人たちの中で姫乃たまが占める割合が多すぎているような気がするんです。そういうコアなファンの人ほど、女オタオタ問題に関わっている状況に気づいて、握手で癒やすというような即物的な交流しかできていなかったから、彼らが成長できなかったのかもしれないって反省しました。だから、ファンの人たちが成長するためには私が地下アイドルの看板を下ろして、1人の人間であることを見せないといけないなって。そこにタイミングよく10周年が来たんです。
──姫乃たまは恋愛もする人間なんだよ、って。
姫乃:結婚するかもしれないし、恋愛するかもしれないし、急にいなくなるかもしれないって可能性があることにショックを受けてもらいたい。ファンの人がすごくかわいくて、大切だから、「いつまでも姫乃たまばかり見ていたら、いつか人間としてダメになっちゃうかもしれない」ってことに気づいてほしい。私もできる限りみんなの生活をよくしたいけど、もしも私が事故かなんかでいなくなってしまったら、あの人たちはどうなっちゃうんだろうって心配で......。
「note」で地下アイドルを辞めるって声明文を書いたときは、まだ女オタオタ問題のヒアリングや整理がついていなくて、このことは告白できなかったんですけど、実はアイドルを辞めるいちばんの大きな理由は「女オタオタ問題」だったっていう(笑)。
──「女オタオタ問題」って字面にすると、あれれ?って感じもしますね(笑)。
姫乃:いやー、本当ですよ。そもそも人のプライベートな問題が絡んでいるので話すべきか悩んだのですが、女オタオタ問題って割とどの現場にもあるわりにすごく複雑なので、私は地下アイドルを辞めることでしか解決できなかったけど、何かいい考えのヒントになればと思って今日は話しました。
私の現場は特殊だから、地下アイドルにありがちな問題にひっかかるとは思ってなかったんですけど、ファンの人たちのコミュニティって恋愛が絡むと想像以上に脆弱で、そこに9年間気づけなかったのは自分でも情けないです。私が宣言したことで、ファンの人たちも考えるきっかけになったらと思います。まあ娯楽なので、そこまで真剣に考える必要はないんですけど、娯楽じゃ済まなくなってしまった人は考えてみてもいいと思うんです。
──アイドルではなく1人の人間だということを示して、ファンのみなさんを現実に引き戻すという感じですね。
姫乃:言ってみれば、私がファンにかけた洗脳を解きにいくわけですから、すごく残酷だと思います。私自身も16歳から地下アイドルをやってきて、麻痺していないつもりだったけど、実はかなり特殊な世界に身をおいていたことをここ数カ月で急激に目の当たりにしているんです。一気にアイドルの魔法が解けている感じがします。
──アイドルとファンとが一緒に現実に戻っていく、みたいな。
姫乃:自分もまだちょっと混乱しているし、ファンの人たちはもっと混乱していると思います。でも、ここで1回コミュニティーを破壊して、またそこから新たに再生していけば、コミュニティーはずっと強化されるし、その先にはもっと楽しいことがあると信じてるんです。みんなの「どうしたらいいかわからない気持ち」を向けるためにも来年の4月30日の公演はあります。私とファンのみんなで一緒の方向に進んで行けば、またその後の活動も広がって見えてくると思います。ファンの人たちにはどうか、この混乱を乗り越えてもらいたいです。
──さて、地下アイドルの看板を下ろしたその後の活動はどうなっていくのでしょうか?
姫乃:すでに今の時点で活動自体は地下アイドルではないので、特に大きくは変わらないかと思います。困っている地下アイドルの子がいたら力になれたらいいなあとは思いますね。同業者じゃないからこそ話せることもあると思うので。今はみんな吉田豪さんのところに行ってるのかもしれないけど(笑)。ツイッターでもなんでも、話しかけてくれれば、こっそり話は聞いてあげられるので、地下アイドルの女の子たちには気軽に話しかけてほしいです。
──そして、2019年4月30日には渋谷区文化総合センター大和田さくらホールで地下アイドルとしての最後のワンマンライブとなりますね。
姫乃:735席ですよ......ただただ不安です(笑)。そこに向けて、またファンの人たちと一緒に盛り上がって行きたいですね。ファンの人たちと私とで同じ方向を向いて、もっと揺るぎないコミュニティーを作って行きたいです。あと、もう地下アイドルとして活動するのも終わりなので、アイドルらしいことはなるべくやっておいたほうがいいのかなって思ってます。
──楽しそうですね。
姫乃:全然具体的には考えてないですけどね(笑)。とにかく、さくらホールの最後のライブはとてもいいものになると思うので、楽しみにしていてほしいです。(インタビュアー◎相羽真 / 写真◎編集部 / ロケ地◎ネイキッドロフト)
ひめの・たま
1993年2月12日、東京生まれ。
16才よりフリーランスで始めた地下アイドル活動を経由して、ライブイベントへの出演を中心に、文筆業を営んでいる。音楽ユニット・僕とジョルジュでは、作詞と歌唱を手がけており、主な音楽作品に『First Order』『僕とジョルジュ』等々、著書に『職業としての地下アイドル』(朝日新聞出版)『潜行~地下アイドルの人に言えない生活』(サイゾー社)がある。[オフィシャルサイト http://himenotama.com/ より]
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