ミリオン出版消滅 戦後ゾッキ本の流れが「GON!」に継承されたサブカルの歴史|藤木TDC
TABLO / 2018年9月21日 16時0分
ミリオン出版の社名消滅のニュースはネットで知って一瞬ドキッとしたが、実際はグループ合併で発行雑誌への影響は少なそうで下請けライターとしては一安心。それに関するニュースや呟きの中で「ミリオン出版」=「サブカル」というような認識も見えたので、なぜそうなのかという歴史的背景を補填しよう。
ミリオン出版の親会社である大洋図書はもともと故・小出英男氏が創業した小出書房が母体で、「ガロ」の青林堂(長井勝一)、「漫画ゴラク」の日本文芸社(夜久勉)、「シネアルバム」やビニール本販売で有名になる芳賀書店などとともに戦後、ゾッキ本と呼ばれる特価書籍の販売で事業を確立。その手のゾッキ業者の集約地は上野・御徒町間で、大洋図書が編集部門として設立した大洋書房は昔は御徒町に編集部を置いていた。
60年代にエロ実話誌ブームというのがあり、双葉社の「週刊大衆」や実業之日本社の「週刊小説」などが創刊された週刊誌ブームをうけて、弱小出版がエロ度を強くし隔週や月刊で「週刊○○」とか「実話○○」などのザラ紙雑誌を多数発行した。いわば戦後のカストリ雑誌が進化した高度成長時代バージョンと考えてもらえれば。
その実話雑誌ブームの時代に作られたのが大洋書房で、この路線で強かったと言われるのが日本文芸社と新樹書房。大洋書房は新樹から長峰洋一郎氏という有能編集部長を引き抜いて立ち上げられた。ちなみにこの長峰洋一郎氏はTBSのアナウンサー長峰由紀氏のお父上である。
60年代から70年代にかけ大洋書房・大洋図書・三洋出版などの版元名を使い分けて大量の実話エロ雑誌を発行した大洋書房は70年代に大手労連に加盟し組合活動を先鋭化。私が仕事した80年代90年代にも、大洋書房は春先になると編集部内に「要求貫徹!」などと筆書きした大げさな横断幕を掲げてただならぬ雰囲気をかもし出していた。
ちなみに大洋書房は90年代の「マスカットノート」発行時代が全盛期。この雑誌がいかに世界中に影響を与えたかは私の本「ニッポンAV最尖端」(文春文庫)の第1章を読んでいただけると。
この労組結成をうけて親会社の大洋図書がノー組合の編集部門として新規に設立したのがミリオン出版だった。カストリ、高度成長、労働運動、まさに昭和の歴史そのもの。
当初、ありきたりなグラフ雑誌やSM雑誌を出す普通のエロ出版社だったが、80年代に大八木八大編集長が入社してグラフィック路線が開花、「SMスナイパー」や「URECCO」が注目されるのはそれ以降のこと。当時の若手編集者は「オレ達も何かやってやる」みたいな熱気がすごかった。
その一方でオシャレ路線と噛みあわずに独自のジャンクカルチャーを追求していたのが比嘉健二編集長で、大八木路線(のちに「URECCO」「EGG」の中川一晃編集長が継承)と比嘉路線のアウフヘーベンがミリオン出版の黄金期なのである。
で、「URECCO」や「GON!」などの路線が柱になってくると「SMスナイパー」や「Cream」などの強いエロ雑誌の存在がタイアップや広告営業の障害になってきたので、それらを隔離して作った編集部門が「ワイレア出版」。社長の織田竹蔵はもと「さくらんぼ通信」の編集者である。これは白夜書房で末井明氏の作るパチンコ雑誌が柱になったら、エロ部門を「コアマガジン」として分離したのと同じ図式。
その後三和出版が分裂して一部編集部が移ってきて作られた編集部門の「大洋図書」ができたり、グループ傘下に多くの編集会社が参集していたのがこれまでの大洋グループの構造。しかし全体的に雑誌が売れなくなって広告営業の影響力が小さくなると編集部門を分割しているのも意味がないので集約するのが今回のミリオン出版合併の意味じゃないかと推測します。
このように見てくると、「GON!」「実話ナックルズ」に至るカストリ-実話エロ雑誌の背景がわかってくるのでは。
ちなみに「実話ナックルズ」が柱だったミリオン出版、「ヤクザ」「ホスト」「暴走族」の三大アウトロー業界には「ミリオン出版」が異常に名前の通りがいいので、これが「大洋図書」に変わると前記の業界に取材アポかける時にやりにくくなるのではと関係者は言っておりました。(文◎藤木TDC)
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