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身代金目的ではない少年少女の不気味な誘拐 フィリピン・ミンダナオ島、「イスラム国」が跋扈する島から

TABLO / 2018年9月28日 20時0分


 椰子の木の向こうに広がる凪いだ海は、油を流したようにべったりとしていた。目の前の草っ原では、水牛が草を食んでいる。のどかという言葉以外に、形容する言葉が見つからない。

 私はフィリピンのミンダナオ島にいた。
 時間が止まったような光景とは、裏腹に政府軍とISとの戦闘が、盛んに報じられたことを覚えている人も多いだろう。フィリピンとイスラム教の関係は、カトリックの歴史より深い。15世紀にマゼランがこの地にやって来るまで、フィリピンではイスラム教がすでに浸透していた。

 スペインの植民地化というのは、今日まで続くスペイン系や華僑の大財閥による地元住民への搾取とともに、宗教的な対立を生み出すきっかけとなった。ISはこの数年の間に突然生まれたわけではなく、数百年に及ぶ宗教対立の末に生まれたのだ。

 ミンダナオ島ではISとの戦闘ばかりでなく、不気味な事件の噂を耳にした。たまたま乗ったタクシーの運転手言ったのだった。

「道路端で遊んでいる子どものところにワゴン車がやって来て、有無を言わさず乗せて連れ去れるんですよ。どこかの病院へ連れて行き、臓器を抜き取るんです。内臓を抜かれ死んだ子どもの遺体には三万ペソ(日本円で約7万円)の現金を入れられ、連れ去った場所に戻すっていう話です」

 フィリピンではスラムの住民が臓器を売る話をニュース映像などで見たことはあったが、子どもが殺害され、その臓器が売り飛ばされていることは初耳であり驚きを覚えずにいられなかった。
 実際にフィリピンのニュースサイトを検索してみると、何件もの記事が出て来る。そのうちの一つは、ジャーナルオンラインというニュースサイトに掲載されていた。記事はこう伝えている。

『殺害されていたのは4歳の少年で、3月19日に自宅から数メートルの距離にあるバスケットコートで遊んでいるのが目撃されたのを最後に行方がわからなくなっていた。それから三週間以上経った後、少年の家族が一匹の犬が腐った人間の足を咥えているのを目撃、犬に近づいてみると腐った少年遺体が発見されたのだった。少年の内臓は抜き取られていたことからも、少年は誘拐され、臓器売買に利用されたと推測されるが、地元警察は誘拐ではなくて何者かに暴行されその場で死亡し、野良犬が少年の内臓を食べ尽くしたのではないかと違った見方を発表している。現在、死因に関して、詳しい原因を調査中である。"
 
 私はミンダナオ島北部のカガヤンデオロ市から、海を隔ててマレーシアと向かい合うザンボアンガを結ぶハイウェイが通る海辺の町にいた。このハイウェイ沿いで誘拐事件が頻発しているという。のどかな海辺の町の光景とは裏腹に、このハイウェイをクラクションを騒々しく鳴らしながら、日本製のランクルやハイエースなどのワゴン車が通り過ぎていく。

「あれはムスリムの車だよ。容赦なく飛ばしていくから危なくて仕方ないんだよ」

 この日私を案内してくれたヨヨイと呼ばれている青年がどこかムスリムのことを蔑むような口調で言った。
 ジプニーと呼ばれる米軍のジープを改造したことが起源の乗り物で、被害者の家へと向かった。5分ほど乗っただろうか、ヨヨイが運転手に声をかけると、ジプニーはキィーツとブレーキ音を立てて止まった。

「ここですよ」

 とヨヨイが指差したのは、ハイウェイ沿いの掘っ立て小屋だった。幼児誘拐の被害者というと身代金の要求がつきものであり、立派な家に住んでいることをイメージしてしまうが、この地で発生している幼児誘拐は、身代金を要求するものではなく、連れ去り、殺害したうえで臓器を抜き取るもの故に、貧富の差は関係なく、子どもであれば誰でも良いのだ。ハイウェイ沿いで遊んでいる子どもたちが、特に狙われて連れ去られているのだという。私が訪ねた被害者の家は誘拐犯にとって好都合なのだった。[つづく](取材・文◎八木澤高明)


つづきはこちらから

日本人にとって決して無関係ではないイスラム国 フィリピン巨大建設プロジェクトの闇

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