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日本人にとって決して無関係ではないイスラム国 フィリピン巨大建設プロジェクトの闇

TABLO / 2018年9月28日 20時1分

こちらからの続きです

身代金目的ではない少年少女の不気味な誘拐 フィリピン・ミンダナオ島、「イスラム国」が跋扈する島から

行方不明となった少女(筆者撮影)


 ビニールシートが掛けられただけの粗末な屋根、傾いた小屋の中からひとりの女が現れた。
 家の中には私たちが入って話を聞くスペースがないので、家の横に植わっているバナナの木の葉影に私たちは腰を下ろした。

 彼女の名前はデジリー、年齢は39歳だと言った。当時3歳の娘が何者かに連れ去られた。小太りの彼女は娘が行方不明ということもあるのだろう、顔には暗さを宿していた。

「娘の名前はチャリズと言います。5年前に彼女は連れ去られました。その日、父親に連れられ、ここからほど近い海岸にいたんです。父親が仲間と酒を飲んでいて、目を離している隙にいなくなってしまったんです」

 夜11時頃のことだというが、それっきり彼女の消息は途絶えてしまった。

「事件からしばらく経ってから警察がここへやって来て1枚の紙を見せました。それは指名手配書でした。その紙にはひとりのムスリムの名前が書いてありました。すぐに犯人も捕まると思ったのですが、警察からはその後まったく音沙汰もありません」

 その後、見ず知らずの男がこの家を訪ねて来て、娘の所在を知っていると告げたという。

「その男はムスリムで、娘はムスリムの若い夫婦の元で育てられていると言うのです。その男が『18万ペソ払えば、連れて戻してやる』と。私は金を何とかかき集めて、その男に渡したんです」

 それっきり、男からの連絡は途絶えた。そして2年前には、警察によるチャリズの捜索も打ち切られてしまった。
 果たしてチャリズはどこへと消えてしまったのか、はっきりとしたことは言えないが、身代金を要求する連絡が無い事などから、臓器売買目的で連れ去られてしまった可能性が高いのではないか。

 現地で取材を進めていくと、臓器売買目的で連れ去られた子どもは、マニラに連れて行かれるケースと、海を渡ったマレーシアへと送られる場合があるという。
 マレーシアでは臓器移植が認められているが、臓器移植希望者に対して、ドナーの数が少ないのが原因で毎年5千人以上が移植を受けられずに亡くなっているという現実がある。それ故にこの地で連れ去られた子どもたちはマレーシアに売り飛ばされることも十分に考えられるのだ。

 ミンダナオ島南部とマレーシアの間には、国境線が引かれているが、それは全く障壁にはならない。ボルネオ島のあるマレーシアは宗教がイスラム教ということもあり、歴史的にもミンダナオ島と繋がりが深く、かつては海峡をまたいでスールー王国というイスラム王国が存在した。スールー王国はフィリピンを侵略したスペインに対しても闘いを続け、アメリカによって併合されるまで独立国であり続けた。

 スールー王国が他国との貿易において主要な産物としていたのは奴隷だった。スールー王国はムスリムではない人々が住む地域に侵入し、連れ去ると奴隷として売り捌いてきた。

 臓器売買ではないが、かつては日本人のジャーナリストがミンダナオ島のイスラム武装組織に身代金目的で誘拐される事件も起きている。そして、近年でも身代金目的の誘拐事件が頻発している。 

 ムスリムの影響力が根強いミンダナオ島で2017年にISは蜂起した。昨年のうちに政府軍が勝利宣言を出したが、今も掃討作戦は続いていて、出口の見えない戦いは続いている。
 そんな状況の中、フィリピン政府は鉄道の敷設などの開発を進めている。当然ながら、巨大プロジェクトには日本政府も一枚噛んでいる。そうした動きは、フィリピン政府に不信感を持つイスラム過激派を刺激するだろう。今後日本人が誘拐などの標的にされることは間違いない。[了](取材・文◎八木澤高明)

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