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プロボクシング村田諒太選手の敗北 暗雲立ち込めていた試合前のいざこざと妙な実況中継

TABLO / 2018年10月25日 19時0分


 去る10月21日、WBA 世界ミドル級チャンピオンだった村田諒太選手がラスベガスでの敵地防衛戦で指名挑戦者のロブ・ブラント選手に大差の判定負けを喫し王座から陥落しました。

 日本国内では「まさかの敗北」というトーンで報じらていますが、ブラントは23勝(16KO)1敗と言う強豪選手で、キャリア唯一の敗戦は井上尚哉選手の参加で日本でもお馴染みになったWBSS(ワールドボクシングスーパーシリーズ)における、一階級上のスーパーミドル級トーナメントで喫したもの。ブラントは村田にとってはプロキャリアでもっとも手ごわい対戦相手でした。

 この試合が決定する過程で、実はちょっとしたドタバタがありました。村田選手のマネージャーであり、日本のプロボクシング興行では絶大な権勢を誇る『業界の天皇』帝拳プロモーション(以下帝拳)の本田明彦会長が、一旦はブラントとの対戦を拒否する姿勢を見せていたのです。

 世界チャンピオンは本来タイトル獲得後に認定団体が決定した上位ランカーとの指名防衛戦をクリアする必要があります。当初、村田陣営が指名試合の対戦相手としてリストアップしていたのはアイルランドのジェイソン・クイグリー選手でしたが、WBAの世界ランキングが8月時点で10位と低かったことから、WBAは指名戦としての承認を拒否、2位のブラントとの対戦を指令しますが、あくまでクイグリー戦をしたい帝拳はWBAのオーダーを拒否する姿勢を示し、両者は対立状態となります。

 指名試合の交渉が進捗しないため、WBAは村田×ブラント戦の興行権の入札を行いますが、帝拳サイドは不参加。興行権はブラントサイドが、わずかファイトマネー総額20万ドルで落札します。本田会長は国内マスコミに対し「ブラントはつまらない試合をするので、対戦する意味がない」(サンケイスポーツより)などと放言し、表向き強気の姿勢をアピールしますが、指名試合拒否でタイトル剥奪か? という局面に追い込まれました。

 村田選手がいるミドル級は世界的なスター選手を擁するプロモーター達がチャンスを巡って鍔競り合いをしている階級です。国内やWBCの軽量級でなら絶大な政治力を発揮する帝拳も、ことミドル級となると単なるアジアのローカルプレイヤーに過ぎず、村田選手もアメリカで人気があるわけでもなく、そうそう認定団体やライバル達に睨みは効きません。
 ここで帝拳のとれる選択肢は「WBA の指令どおりブラントとの対戦」か「タイトルを返上してノンタイトル戦としてクイグリーと対戦」となります。ですが日本国内では『世界王者』という肩書きはスポンサー集めやテレビ中継(今回の中継は有料ネット媒体の DAZN)の為には絶大な効力があり、世界タイトル返上は現実的ではありません。
 帝拳サイドはブラントと再交渉し、アメリカでの自前の興行での対戦を選択しました。村田陣営にとってブラント戦は、はじめての『やりたくないけどやることに追い込まれた試合』だったのです。

 そして露骨に対戦拒否姿勢を示していた本田会長の危惧そのままに、村田はブラントにいいところなく完封され、海外での商品価値は一旦地に落ちました。ブラントにあの試合内容ではゴロフキンやカネロといったスター選手の名前を出しても、期待感は生まれないでしょう。

 試合前ブラントは、

「村田は"ちょうどいい相手"としか戦ってこなかった選手。試合は(格下とばかり対戦してきた)いじめっ子をいじめる作戦でいく。村田は後ろに下げさせれば9割は守ることしかできない」(デイリースポーツより)

 と語っていたそうですが、まさにその通りの試合展開になりました。


おかしな解説をする山中慎介氏


 ラウンドごとの採点では、ジャッジ三者のうち二者が村田が右ストレートをヒットした5Rを除いて全てのラウンドをブラントに与える119-110、残り一者が4R も村田につけて118-110 というほぼフルマークの大差負けでした。

 にもかかわらずDAZNの日本語実況は「ブラントのパンチはガードの上」「ブラントは後半疲れる」と接戦であるかのように事実を捻じ曲げ、解説の元WBCバンタム級チャンピオン山中慎介氏は実況時の採点で3~7R と12Rを村田がとっていると発言。インターバルで印象とかけ離れた山中氏の採点が出るたびに私は何度も唖然としました。

 二元中継をしていた東京のスタジオは、判定結果が出た後はお通夜状態となり、ほぼ機能停止。村田選手に過度に感情移入した情緒的な中継姿勢は、有料放送の番組としてはあまりにお粗末でした。繰り返しになりますが、そもそもが強敵相手の試合なのです。山中氏は村田にとっては高校の先輩で帝拳ジム所属だったということを理由に「厳しい解説は出来ない立場だった」と慮るファンもいるようですが、そんなことは視聴者には何の関係もありません。解説者の仕事は専門家として正しい見解を伝えることであり、仲間の応援ではありません。

 さらに試合後には日本のボクシング評論の大御所である矢尾板貞雄氏がスポーツ紙の連載コラムで『ブラントのような打っては逃げてを繰り返すスタイルは、米国では好まれない。それも考慮して私の採点はドローだったのだが』(サンケイスポーツより)と、贔屓の引き倒しみたいな記事を書いててこれまた唖然。

 村田選手自身が試合後完敗を認めて敗因を的確に自己分析しているのに、なぜに周囲の人間が事実を捻じ曲げるような発言をするのでしょう?


言いたいことも言えない業界なんですか?


 帝拳主導で来年日本でのWBO総会の開催を画策しているとの噂もある本田氏ですが、このところ世界戦でタオルを投入したセコンドに激怒して担当から外したり、ドーピング違反の疑いのある選手の試合を推進したり、大差負けしたブラントに対して「対戦する意味が無い」と放言したりと問題のある行動が増えています。

 帝拳所属の尾川堅一選手がラスベガスでの世界戦で一旦は勝利しながら、試合後ドーピング違反により資格停止を食らうと言うスキャンダルもありました。これらの問題にも主要メデイアや評論家からの帝拳に対する批判はほぼ皆無です。

 地上波テレビや衛星放送のWOWOWに加えてネット中継のDAZNも抑えて日本国内ではガリバー的な存在となっている帝拳に忖度しなければ記者は勤まらないということでしょうか?

 ボクシングメディアや評論家の仕事は人気選手の試合のたびにお祭り騒ぎをしたり落胆したりすることではなく、事実を伝えることではないでしょうか? 私にはプロボクシングもアマの山根問題と大差ないレベルに思えます。(文◎ボクシングブログ『HARD BLOW!』管理人 旧徳山と長谷川が好きです)

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