『映画秘宝』はなぜ失敗したのか 権威化した人々がやるべき事|久田将義
TABLO / 2021年3月1日 16時0分
写真はイメージです(撮影・編集部)
『映画秘宝』(洋泉社→双葉社)はヤンチャな雑誌という事で売り出したはず。『キネマ旬報』などの老舗映画誌が評価する映画ではなく「俺たちが面白いと思った映画はこれだ」というコンセプトで発刊したのが『映画秘宝』だと捉えています。宝島社発行の『このミステリーがすごい』も同様。既存の受賞作品に対して、「こっちで独自で面白いミステリーを選んでしまおう」というテイストが『このミステリーがすごい』が出た当時の、僕の印象です。権威に逆らう。これが『映画秘宝』や『このミステリー』の原点だったと思います。
が、時を経るごとに逆に、これらは「権威」になっていった。これは致し方ないものです。気づいたら「このミス大賞」という当初は「賞」など関係ないところにあったはずの雑誌なのに、ミステリー界ではかなりの権威を持つようになりました。
『このミステリーがすごい』が権威になっていったと同じように、『映画秘宝』も権威になっていったと思われます。メディアの末席を汚すものから、この騒動・事件の論考をしてみます。
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2月27日、岩田元編集長のやらかしだと思われていたのが、編集部で働くフリー編集者の方からのツイート、内部告発と言っても良いのですが、実は創刊者の町山智浩さんや田野辺前編集長ら幹部からのフリー編集者への圧力があった事が明らかになりました。
よくまとめられていたのがロマン優光さんの「ブッチNEWS」の記事で、あれを読めば大体の事が理解できるのですが(註・1点だけ。僕の記述の中で元チーマーとありましたがチーマーではないです。あとは全部プロフィール、合っています)、ラジオのリスナーに対してツイッターのダイレクトメールで恫喝を送った岩田氏の精神(医学的という意味ではない。メディアの矜持という意味)について、少し触れておかなければなりません。
この問題は意外と、メディアの人間は興味を持っていて大手出版社の友人たちもこれについて話題にしています。あくまで僕の周囲の声に限りますが、騒動については全員「ありえない」というように呆れているのが実情です。
岩田氏はかつて、僕が在籍していたミリオン出版(現・大洋図書)にもいました。が、全く岩田氏の記憶はありません。これは60人くらい社員やアルバイトがいた会社ですし、部署も違っていたので致し方ないでしょう。
そこで元ミリオン出版の社員から聞いてみました。ミリオン出版は現在の九段下の自社ビルに移る前、市ヶ谷のビルに2フロア借りていました。上の階は『egg』編集部。下の階に僕が編集長だった『実話ナックルズ』編集部。それと『GON!』編集部などがありました。『GON!』は当初の「Z級マガジン」というおもしろ雑誌ではなく、部数低下のためエロ本化していました。90年代の雑誌は部数が低下すると、エロ本化するのが常でした。岩田氏は勢いのあった「GON!」ではなく、低下中の「GON!」に在籍していたようです。
「死にたい」とリスナーをDMで恫喝し『映画秘宝』が炎上 僕も以前DMを貰いました DM癖ってあるのでしょうか | TABLO
で、疑問なのが、僕は岩田氏が『映画秘宝』に移った時、名刺交換をしたのですが少なくとも僕の名前は認識していたと思うのです。「僕もミリオン出版だったんですよ」くらいは言っていいと思うのですが、記憶ではそんな言葉はなかったです。
今から思うと、嫌な思い出しかミリオン出版にはないのかなと同情をしないでもありませんが、『映画秘宝』編集長という肩書きに妙なプライドを抱いていたのかなとも感じます。別原稿でも書きましたが、『全裸監督』を絶賛していた『映画秘宝』に対して、専門家外からの指摘として僕の「映画秘宝が絶賛し過ぎているので要注意して視聴したい」旨のツイートにDMで「映画秘宝公式アカウント」から、
【何が、なぜやばいんでしょうか?
岩田拝
2019年8月12日 午前7:01】
というものを受け取っています。朝早いですね。僕は以前から『映画秘宝』が権威化しているのかな、もっと言えば調子に乗っているのかなと思っていましたので、それを吐露したのだと思います。実は、もう少し前から「嫌にはしゃいでいるな」ぐらいには思っていたのですが、2019年に既にツイートしていたんですね(今回の事が起きたから、記事化した訳でなく後出しジャンケンではないと受け取って頂ければ幸いです)。
そこで冒頭の指摘に戻るのですが、『GON!』で恐らく、イキイキと仕事は出来なかった。が、権威とになった『映画秘宝』の編集長として、変なプライドを持ってしまったのではないかと思っています。ある元ミリオン出版社員が「『映画秘宝デビュー』ですよ」と言いました。得心いきました。
そこから岩田氏の謝罪ツイートがアップされるのですが、前記したように『映画秘宝』で働いていたフリー編集者から町山さんら幹部の圧力があったと告白されてしまいました。
因みに町山さんについては、お会いした事はないながら、仕事ぶりはリスペクトしていました。別冊宝島もそうですし、ここ10年で言えば、例えば日垣隆氏や上杉隆氏との論争(と言ってよいやり取りでした)で、コテンパンにした事も含めて。
少し話がそれますが論争について。たびたびネット上では論破という言葉が使われますが、疑義を呈したいと思います。
論破問題は別の記事に書いたり話したりもしましたが、ニコ生黎明期に、僕も色々聞いていました、論争生主たち。滑舌が良く、相手に喋る隙を与えず、言葉のやり取りをする。口ごもる相手。そこで「はい論破」と言って終わっていました。ニコ生のコメントでも「カッコいい」みたいのも流れていました。今も「論破はカッコいい」という風潮があります。けれど、滑舌が悪く、冗舌でない人の言っている側が真実を語っているかも知れません。これだとアナウンサーが一番の論客という理屈になってしまいます。正直言って、「論破」はくだらないと思います。
閑話休題。
だからと言って、町山さんの過去の仕事ぶり、例えば上杉隆氏をやり込めたのに対しても、あーだこーだ言われるのは間違っています。「間違っている」という断言的な表現を使うのはメディアの末席を汚す者として、あまり使いたくないですが間違っています。自分の経歴すらハッキリと語れない自称ジャーナリストが語るニュースを信じられますか、という話です。
最後に『映画秘宝』の被害者の方に対する、対応は最悪です。それはカン違いした権威を持つものがやらかした典型的な例です。これを忘れてはいけません。オーソリティになればなるほど、腰を低くするべきという事を『映画秘宝』騒動を見て学ぶべきです。(文◎久田将義)
あわせて読む:『映画秘宝騒動』にひと言だけ言いたい あの「だいしゅきホールド起源事件」の様に綺麗に終息させましょ|春山有子 | TABLO
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