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消えた都市伝説「あげまん慶子」を探して コロナ禍と共にいなくなる謎の女性たち

TABLO / 2021年3月10日 10時0分

消えた都市伝説「あげまん慶子」を探して コロナ禍と共にいなくなる謎の女性たち

新潟の繁華街では有名人だったアノ女性を探しに行ってみた。

「約20年前の事だから、最早誰も知らないだろう」

そう思いながらも、新潟県一の繁華街の古町に降り立ちました。当時は繁華街の住民なら誰でも知っていると言ってよい有名人がいたのです。
「あげまん慶子」という女性です。

当時僕はワニマガジン社に勤めていた新人編集者でした。『アクションカメラ』という雑誌を出していた出版社です。企画でライターさんと全国の風俗街を回っていました。新潟にも出張しました。その際、キャバクラに行きました。何か面白いその土地の情報がないのかを確かめに。
「ねえねえ、この辺りで面白い話ってない?」とライターさんが聞きます。すると即座にキャバ嬢たちが「慶子じゃない?」「そうそう『あげまん』ね。『あげまん慶子』」と口々に話し出します。
「あ、あげまん慶子?」そのインパクトあるネーミングに思わず僕らは耳をすまします。情報を精査すると

 

・自ら「あげまん」と名乗っている「慶子さん」という女性がいる
・手製のビラを作って自転車で繁華街や駅前を「はい、あげまんでーす」と言いながら配っている
・ビラの内容は、「私とすれば運が上がります」(以下自粛)と携帯の番号が書いてある。新潟出身の元首相田中角栄氏もあげたという
・公衆電話(当時はまだ結構ありました)や男子トイレにそのビラが貼ってある
・ビラではなくマジックで公衆電話に携帯の番号が書いてある

 

ざっとこんな感じです。その時は僕らはビラを収穫。さっそく電話をかけると「はい、あげまんでーす」と中年女性っぽいハスキー声の人が出てきました。「あげまん」が屋号みたいなので可笑しさをこらえながら「ビラを見たんですけど」と言うと、「いくら持ってんの?」と言います。「あまり持ち合わせがないんです」と返事をすると「じぉあ、一万円で運勢を占ってあげる」との事。とは言え、取材時間が限られていたのと、ちょっと怖いので切り上げて東京に帰りました(取材の主旨とは違うので)。

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それから僕は、ミリオン出版(現・大洋図書)に移籍しました。そこで初めて編集長になりました。『ダークサイドJAPAN』という誌名の雑誌でした。立ち上げなので、かなり攻めた内容だったのですが(おかげがで二件の訴訟を抱えました)校了近くなって3ページばかり余っている事に気づきました。「何か面白い事ないかな」と会社で考えているうちに、ふと数年前にすれ違った「あげまん慶子」という名前を思い出しました。

時計を見ると午後3時ころ。「新潟まで車で4時間とすると、夜7時には着くな」。思い立ったらすぐ行動に移る癖のある僕はカメラ、ICデータ、ノートなど最低限の取材道具をカバンに詰め、車で関越道に乗り、一路新潟を目指しました。「あげまん慶子さん。まだいるかな」。考えてみれば、会えないかも知れないのに結構無謀な取材です。

新潟に着いたら既に夜になっていました。あんなに有名だったあげまん慶子さん。
しかし、トイレにも公衆電話にもビラがありません。公衆電話にマジックで書いてあった携帯のナンバーも薄れています。この町での彼女の存在のように。

古町の繁華街に立っていたキャッチに聞きますが、「見ないな」と言います。色々、聞き込んでいるうちに「隣の駅で見た」という話が入ってきました。そこでタクシーで隣の駅に行ってみると、辺りは真っ暗でとても「慶子さん」が上げる相手がいそうもありません。
仕方なく古町に戻り途方に暮れていると、バーがありました。「今回の取材は失敗だ。明日速攻で帰ってネタを探そう」と考えてバーのドアを開けます。ダメ元でマスターに「この辺りで、『あげまん慶子』っていう人、知りませんよね」と聞いてみます。

すると! 奇跡が起きました。

マスターが
「ああ、慶子ならよく来ていましたよ」と言うではありませんか。作ったような話ですが実話です。
けれど最近は見ないそうです。あまりに派手なので警察がうるさくなったとの事。考えてみれば、風営法に抵触しているんですよね。ただマスターが大変親切で、慶子さんの写真を貸してくれたのと電話番号を教えてくれました。丁寧に御礼を言って店を後にします。携帯にかけると留守電でした。そこでこちらの社名、名前を言って返信を待つ事にしました。

元から泊まる予定ではなかったので、サウナで慶子さんの電話を待つ事に。うとうとしていると携帯が鳴りました。寝ぼけまなこで電話を取ります。数年前と同じハスキーな声で「慶子ですけど」とぶっきらぼうに言います。
そこでこちらが取材した旨を話すと「ダメだ」という返事。「東京から色々取材が来ていて忙しい」とも言っていましたが恐らく、V&Rに出演していたか、『裏モノAPAN』(鉄人社)で体験取材した事を言っているのでしょう。取材時期が重なっていたと思われます。

「そうですかぁ」とガッカリしながら「取材NGなのは分かりましたけど何か理由でもあるんですか?」と聞いてみます。すると、「ご主人様が出来てその人の許可がいる」というような事を言います。記憶が定かではないのですが、そのご主人様には「神の力」みたいのがあってそれに従っていると言っていた気がします。とにかくご主人様が重要人物だという事は分かりました。
が、なぜご主人様が凄いのかを一時間近くにわたって話すのでほとんど、インタビューは成功の様相を呈していました。
そういった記事を『ダークサイドJAPAN』にペンネームにして埋め草的に掲載しました。すると、心の師匠であるルポライター朝倉喬司さんが「これ書いた奴、面白いな」と仰って下さったので大変嬉しかったのを覚えています。

そしてそれから20年。実は『実話ナックルズ』(大洋図書)になってから(その頃、僕はこの雑誌の編集長になっていた)新入社員に「運を上げてもらってきて」と、新潟まで取材に行ってもらっていたのです。で、どうやら柏崎方面に拠点を移した、というのが最後の情報でした。
柏崎には実は別の取材(目白の田中角栄邸から柏崎の実家まで3回曲がれば着くか実証)で行っていたので、やはり古町に行く事にしました。

「東京・目白の田中角栄邸から新潟の生家まで3回曲がったら着く説」を実験してみた

まるっきり変わっていました。あれほど賑やかだったアーケード街は夜7時というのにほとんど人がいません。「緊急事態宣言、出ていないよな」とタクシーの運転手に尋ねます。
「コロナ禍になってからこんな感じですよ」と言います。あれ、そうだっけ。情報の宝庫、キャバクラに行こうと思ってもそれらしき看板が見当たりません。
「この辺りで一番賑やかな通りってどこですか」と聞くと「すぐそこを右に曲がったあたりです」との事。その通り、右に曲がってみるとほぼ人通りがありません。

どうなっているんだ古町。「慶子さん」どころか人がいない。案内所があったのでキャバクラを探していると奥から人が出てきました。
「すみません。ずいぶん昔の話なんですけど『あげまん慶子』て女性知りませんか。一時凄い有名だったんですけど」。すげなく首を振られました。実はその前にらタクシー運転手にも何回も「あげまん慶子さんて知りません?」と聞いてはいたのですが、皆一様に首を振るばかりでした。
で、「賑やかさだったら駅前の方が良いですよ」というタクシーの運転手に言われたので新潟駅前に行きました。そう、ここの公衆トイレにもビラが貼ってあったのです。駅舎は面影がありましたがトイレは、キレイになっていました。

ですよね……。
「慶子さん」の面影、足跡など。何にもありませんでした(交番の警察官にすら聞きました)。
また、前回「慶子さん」の行きつけの店もなくなっていました。名前は特徴的なのでもちろん覚えていて、検索をかけまくったのですが引っかかりませんでした。コロナ禍だし飲食は厳しいのかなとも思います。あの親切なマスターもどこかで商売をしているのでしょうか。

諦めて東京に帰る事にしました。車で来ていたので夜になると関越の越後湯沢あたりの道路が凍る可能性もあります。慶子さんで思い出すのが、「横浜メリー」さんです。1980年代後半あたりからそう呼ばれた白塗りのご年配の婦人が横浜の繁華街で立っていました。それが横浜メリーさんです。『GON!』(ミリオン出版・大洋図書)でも取材を試みていたと思います。戦後の立ちんぼ(パンパンと呼称されていた)の名残りとされています。ドキュメンタリー映画「ヨコハマメリー」では生い立ちを追っていました。

同じように京都の高瀬川では80歳の立ちんぼの女性の話を聞きました。生まれた九州から紆余曲折を経て、この土地に立っているのだと聞きました。

慶子さんもそこまでの御年ではないにしろ、なぜ自らを「あげまん」と称したたのか。なぜ占いに凝るのか。なぜ神の力を信じるのか。実は前回の取材である程度、把握していたのです。が、これはプライバシーにかかわる上、不幸な身の上話でしたので僕の心にしまっておくつもりです。

バーのマスターが言っていました。

「皆、あいつの事おかしいとか色々言うけどいい奴ですよ」

多分、それが本当なんだろうと思います。

人に貴賎なし。

コロナ禍で様相が一変した新潟の古町。賑やかな場所には暗所というものがあります。ハレとケ。きらびやかな繁華街のダークサイドに生きる人達もいます。そこにも人の息吹があります。コロナはそういった息吹さえもなくしてしまった気がします。(文・写真@久田将義)

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