病気なら万引きしても仕方ないのか 元マラソン選手・原裕美子さんの判決公判に裁判傍聴人が感じること
TABLO / 2018年12月5日 19時58分
先日、群馬県のスーパーで菓子を万引きしたとして窃盗罪で起訴されていた陸上の世界選手権女子マラソン元日本代表、原裕美子さんの判決公判が開かれました。判決は懲役1年、保護観察付き執行猶予4年、というものでした。
万引きで逮捕 元マラソン選手・原裕美子容疑者(36)の背後に見え隠れする「クレプトマニア」という病
執行猶予中の再犯、それも判決からわずか3ヶ月後日の犯行です。それにもかかわらず再度の執行猶予判決が下されたことに驚いた方もいるのではないかと思います。
ですが万引きの裁判をいくつも傍聴していると、彼女のように執行猶予期間中の再犯でも再度の執行猶予判決を受けるケースに出会うことは珍しくありません。「クレプトマニア(窃盗依存性)」の診断書を病院で貰い、今後の治療を裁判所に約束すればこのような判決になることも多いのです。
法廷で自分がクレプトマニアであると主張し「今後は病院で治療する」と話す被告は本当にたくさんいます。1日で何件かの万引き事件の裁判を傍聴して、その日に傍聴した全ての裁判で被告がクレプトマニアだという主張を繰り広げていた、ということもよくあることです。
話を聞いている限りではとても病気とは思えない、クレプトマニアの診断基準を全く満たしていないような被告も多く見られます。それでも病院は診断書を出しています。
本当に彼らは皆「病気」のせいで万引きをしてしまったのでしょうか?
クレプトマニアが原因で万引きをしたと語る被告にある裁判官が語りかけていた言葉がとても印象に残っています。
「最近は万引きの動機を病気だって言う人がすごく多い。でも、本当に病気が原因でやってるような人ってごく一部です。病院から診断書をもらったことで『自分は病気だから仕方ない』って思ってまた繰り返す人もたくさんいます。あなたがそうだとは言わないけど。病気のせいにして自分のしたことときちんと向き合わないと必ずまた同じ過ちを繰り返します」
この裁判の被告は被告人質問で何度も、
「刑罰より治療を!」
というフレーズを言っていました。この人も万引きで執行猶予判決を受けた直後に再び万引きで逮捕された人でした。前回裁判でもクレプトマニアだと主張し、「病院に通って治療をするので、もう再犯は絶対に犯さない」と話していたそうです。
社会が罹っている「病気」
先日、80歳を過ぎたおじいちゃんの万引き裁判を傍聴しました。スーパーで惣菜2点、販売価格合計420円を窃取した、という犯行です。動機は「お腹がすいたから」。
食べ物を買うお金はありませんでした。彼は生活保護を受給していましたが、保護費のほとんどはお酒とパチンコで消えていました。こう書くと憤る人もいるかもしれませんが、友人も身寄りも全くいない彼が独りで1日を潰す手段はそれ以外に何もなかったのです。同じような動機で過去に何度も万引きで捕まっている彼への判決は懲役5年の実刑判決でした。
彼の犯行動機もある意味では「病気」だと思います。それは彼個人だけでなく、この社会全体が罹かっている「病気」です。
たかが万引き、そう思う人もいるのではないでしょうか。
以前、万引きの犯行現場を目撃したことがあります。スーパーの鮮魚コーナー、犯人は腰の曲がった小柄なおばあちゃんでした。氷水に浸けられている100円の生さんま一尾を、彼女は素早く周囲を見回した後に素手で掴みそのままポケットにねじ込みました。
人間が人間でなくなる瞬間を見たことがありますか?
その時のおばあちゃんの形相は、人間のそれとはとても思えませんでした。そのまま店外に出ていく彼女の後ろ姿をなすすべもなく見送りました。恐ろしくて足がすくんでしまったのを覚えています。
原裕美子さんは商品のキャンディを上着に隠しこむ時、一体どんな表情を浮かべていたのでしょうか。
彼女が本当に病気なのかどうか、それはわかりません。ただ、万引きをしてしまう、または万引きをせざるをえない苦しみから解放され、今後はもう万引きをしないでもいい人生を歩んでいけることを願っています。(取材・文◎鈴木孔明)
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