東京で緊急事態宣言 私がなぜ「コロナ楽観・経済重視論」を主張するのか 小林よしのり氏の考えに共鳴する理由│中川淳一郎
TABLO / 2021年4月23日 6時0分
小池都知事、三度目の緊急事態宣言を出すか。写真は一回目の時(撮影・編集部)
このたび、TABLO編集長の久田将義氏からこんなメールをいただいた。ここではザックリとコロナに対する「慎重派(人命尊重派)」と「楽観派(経済重視派)」の違いについて書く。恐らくTABLO読者の皆様からすれば「バカじゃね?」と私のことを思うだろうが別にそれでいい。コロナについてはもう政治的思想にも似ており、生半可なことでは互いに理解できることはない。よって私も理解を求めたいわけでもない、あくまでも下記で紹介する久田氏からのメールでの依頼に応えただけの話である。
TABLOについては概ね「慎重派(人命尊重派)」の論調であり、私は「楽観派(経済重視派)」。私自身、普段からいわゆる「党派性」というものは「一切ない」スタンスである。その都度直感で判断するものだから、「ブレてる」と言われることもある。だから、現在一部のリベラルを除き、ボコボコに叩きまくっている車椅子のコラムニスト・伊是名夏子さんに対しては「あなたの言いたいことは分かる」というスタンスを取っている。意外に思う人もいるだろうが、そこは先週売りの「週刊新潮」で明確に記している。さて、久田氏からいただいたメールを紹介する。
“中川さんが展開しているコロナについてのお考えを、今週末あたりに頂ける事は可能でしょうか。実は僕も吉田豪君も過去に小林よしのりに名指しとイラストで悪く書かれた事があり、それはそれで全く構わないのですが、勉強のため中川さんのようなお考えのご意見も掲載したいというのが僕の本サイトのコンセプトであります。”
なるほど、久田氏と吉田氏と相反する私の考えも聞いておこう、というフェアなオファーである。誠にありがたい。ここに至るまでの流れをザックリと振り返ってみる。
●久田将義・吉田豪vs小林よしのり勃発
2020年4月12日に吉田豪氏が小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言』(週刊SPA!連載)のコマの一部をツイッターで紹介。その後4月20日の久田氏と吉田氏の生配信で「【久田将義×吉田豪】小林よしのり先生の不思議なコロナ論」
https://www.youtube.com/watch?v=UNneeK2pwJw が登場(いずれも内容は後述)。この中継を受け、小林氏は5月に『ゴーマニズム宣言』で「吉田豪という臆病者」という回を執筆した。
久田氏は小林氏にニコ生出演オファーを電話とメールで出したものの、拒否されている。
それに対して久田氏は『小林よしのりさん、とことんダサイですね。事務所に名乗って僕が直電して出演依頼しましたが、ブログで逃げ口上。そんな事なら始めからイキらなければいいのに。「わしは不良だから」とか。笑えますよ』とツイートした。
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そこから先は分からないが、久田氏にとっては個人的に親交のある(連載させていただいているのだから当たり前だが)私に「(小林氏と考えの近い)中川さんの意見を聞かせてほしい」というオファーをくださったというわけだ。
なお、吉田氏がツイッターにUPした「ゴー宣」のコマに出たセリフは以下の通り。
「死ぬのは基礎疾患のある高齢者だけだぞ。だったらインフルエンザと変わらんじゃないか!」
「インフルエンザは『高齢者の最後の命の灯を消す病気』といわれるが、新型コロナも同じだ。これで死ぬのは寿命だろう」
「寿命が来た老人を延命させるために、自粛自粛で若者の活力を奪い、経済を失速させて、倒産・失業を増やして、また自殺者3万人の世の中にするのか?」
「コロナは神様の警告だ。まずはこの程度の安全なウイルスで警告を与えてくれた神様に感謝しなければならない」
●2020年4月20日、久田将義と吉田豪のコロナに対する捉え方と小林よしのり評
番組中で吉田氏はこれらを読み上げ、久田氏は「長谷川豊と同じ」と述べた。「人工透析患者は死ね」発言で知られる長谷川豊氏(以後謝罪・改心)にたとえたわけだ。ここから先は私の意見に入る前に、お2人の中継動画の発言を紹介する。
「一理はあるが、命よりもまずはお金をなんとかしないというのは、意識高い系の人はお金が前に立っている。経済は当然重要だが、脅えるよりも経済重視となると、『老人はどうせ死ぬんだし』という発想の先は『障害者は救わないでいい』、と同じ発想」(吉田)
「同じだね」(久田)
「経済的な意味がないなら、という発想になるので怖い」(吉田)
「逆張り的なことを言うじゃないですか。炎上を狙ってるのかもしれないが。(そんな論に)耳を貸したくない。逆張りいらない。真っ当な人と話をしたい。逆張りに見えます。そういうのはいらない」(久田)
「日本だけがコロナに凄いという論を書くらしい。本当に?」(吉田)
「死亡者の人数が少ないと言いたいのでしょうが、小林さんって感染学の人でもない。それでも分からない人が多い。研究者でもない人が研究者でもないことを言う。『世紀末』ではないが、真っ当ではない。真っ当な人が通じる世の中になってほしい。(中略)軽々しく言うものではない。嫌いですね」(久田)
「怖いのが、自粛が続いて、経済的にドーンと落ちて、やっぱりよしりんの主張正しいんじゃね? という声が増えたら怖い。現状は違うが2-3ヶ月で変わったら空気が怖い」(吉田)
「いつ『よしりんいいこと言ってる!』となってもおかしくない。この発想が主流になったら世界から孤立する」(吉田)
「さすがにならないと思うけどね。政治家あたりが釘刺すと思うけど」(久田)
●「小林よしのり一派」は一体何を考えているのか
これがまさに私が本稿を書いている2021年4月22日のほぼ1年前の4月20日の話である。お2人が言うように、小林氏の発想は主流にはなっていない。2020年4-6月のGDPは前年同期比マイナス28.4%、完全失業者数は2020年1月の約150万人から2020年1月は194万人になった
https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/covid-19/c03.html#c03-1。
これだけヤバくなってもやはり「人命の方が大事」という状態なのに緊急事態宣言発出を求める声が70%を超えているわけで、小林氏の意見はまだまだマイノリティで久田氏と吉田氏が心配するような状況にはなっていない。
「世界から孤立する」という発言は出てきているが、各国でこの手の考えは出まくっているし、スウェーデンはノーガード戦略で当初から異端であり続けている。アメリカの共和党系の州はマスクを外すよう呼びかけたり、アメリカやオーストリアでは「マスクを焼くイベント」が行われたり、欧州各国では自粛・ロックダウンに反対するデモが発生している。テキサス・レンジャーズの試合では、キャパ4万人の球場が大入りでマスク装着率は低い。いずれもワクチン接種率は日本よりも高いものの、比較にならないレベルで被害の多かった国だ。
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小林氏の2020年4月段階の意見は、テレビ番組がしきりと喧伝した「コロナはヤバ過ぎます」「PCR検査をして隔離しなくては感染拡大します」「ロックダウンに匹敵することをしなくては感染は収まりません」「出歩いては行けません」「我慢のゴールデンウィークです」から見れば完全に暴論である。
で、あれから1年。
同じことやってないか?
これに対して『羽鳥慎一モーニングショー』(テレビ朝日系)で2021年4月22日、玉川徹コメンテーターは「(PCR検査をとにかくやれ!を含め)ずっと同じことを僕は言い続けていたのに政府が対応せず虚しい」といった趣旨の発言をした。ツイッターの声を見るとこれに同調する声が多かった。
実は私も2020年5月までは久田氏、吉田氏、玉川氏とまったく同じ意見だったが、以後「これって大したことないんじゃないか……」と思うようになっていったのである。「宗旨替え」したわけだが、その根拠はまさに「直感」「実感」とでもいうもので、結果的に2020年に約3400人、2021年に入ってから約6000人が亡くなったウイルスに「世間が振り回され過ぎた」と感じてしまうのだ。実際に自分の知り合いで陽性者は1人。死者はゼロ。人であふれかえる渋谷や新宿の街を歩いていて、突然「うぎゃー、コロナが苦しい!」なんて言い出す人を見たことはない。この1年半以上一度も病院に行っていない。散々宴会をしまくっている身なのにまったく陽性にならないばかりか、この16年間私は一度も風邪さえひいていない。
唯一苦しかった病気は2015年8月の「扁桃周囲膿瘍」という細菌性の喉の病気で、これは3週間喉が痛く呼吸が苦しく喋ることさえできないもの。固形物が食べられずひたすらゼリーを食べる生活だった。55kgあった体重が50kgになるほどだった。同じ病院に2回行ったところ「夏風邪ですね」と薬を処方されたがまったく治らない。それで別の耳鼻咽喉科医院に行ったところ、医師は「うわっ! アンタ、扁桃周囲膿瘍だ! なんでここまでヒドくなるまで病院こなかったの! 明日まで放置していたら窒息して死んでいたよ!」と言い、喉の奥に注射を刺した。12ml入りの注射の中に緑の膿がドカドカと入ってきた。
医師は「うひゃー、こりゃすごいわ。ちょっと、今日全部取るのも危ないので明日もう一度来てください。でも大分楽になったでしょ?」と言われた。確かに喉の痛みは激減した。呼吸の通りも良くなった。そして適切な薬を処方してもらい、翌日も同じ医院へ。再び膿を取ってもらったが、この日は血も混じり緑度合いは減っていた(写真参照)。これで完治したのだが、要するに1軒目がヤブ医者だったのだ。「喉が痛い」と言ったら「はい、夏風邪ですね」で終わりだったのだ。
こんなヒドい経験をしているだけに、「人間いつ死んでもおかしくない」「コロナよりヤバい病気はたくさんある」という考えているほか、20代・30代の知人は5人自殺している。いずれも原因は鬱病である。こうしたことから「世界各国はさておき、日本では騒ぎすぎじゃないか?」と考えるようになった。
今年1月6日段階の死亡者数は10歳未満と10代は0人、20代2人、30代10人、40代32人、50代97人、60代293人、70代839人、80代以上2141人の合計3470人。これを見て「寿命が来たんじゃないの?」と考えるのが私の実感である。今年は増えているが、これも昨年来るはずだった寿命が手厚い看護により、1年越しで訪れたのかもしれない。そして若い命を奪う鬱病の方がよっぽどヤバくないか、とも思う。これはもう一人一人の価値観の違いであり、我々は少数派。だから「コロナはヤバ過ぎます」と考える人に対して改宗を迫る気も一切ない。そしてそう考える人もいちいち私を説得してもらいたくない。
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「お前のせいで誰かが死んだらどうするのだ!」形式の批判もまったく心に響かない。人間は新型コロナ以前から誰かに何かを感染させて殺しているかもしれない。昨年愛知県で多数登場した「オレコロナ!」と叫び、周囲にうつそうとした男は論外だが、体の不調がない人間が自由に動き回って何が悪いのか? と思うのである。それなのに「コロナはヤバ過ぎる」と考える人々の恐怖が自治体の首長に伝わり、そこから政府に伝わり緊急事態宣言発出に至る。
過去2回の宣言ってどんだけ効果あったの? 「まん防」の効果は? 海外のロックダウンの効果は? そうしたものの総括がないまま、世間の「空気」によって緊急事態宣言は発生する。
吉田さんと久田さんは心配する必要はない。世間は小林よしのり氏の主張が正しい、という方向にはなっていない。仮に同氏の主張が正しいと感じていても、それを公言すると人でなし扱いされるからするわけがない。
昨年の超過死亡は約マイナス9000。高齢人口が増えているのだから例年毎年2万人死者は増加していたのだから2020年に関しては実質的に3万人減ったこととなる。恐らく2021、2022年はドカーンと死者が増えることだろう。これについては小林氏が「ゴー宣」で述べたように、「寿命が来る」からである。
●結局「最後の一滴死亡」が多かったというデータも、お互い干渉しないのが幸せ
東洋経済オンラインに4月21日に掲載された『コロナ死亡患者の4割が「元々寝たきり」の波紋 療養型病院は注意!札幌市のデータが示すこと』という記事は、神奈川県の阿南英明・医療危機対策統括官と厚生労働省DMAT(災害派遣医療チーム)事務局の近藤久禎次長の対談だ。近藤氏のこの発言は、小林氏の昨年4月の仮説と合致している。
“クラスター発生病院で感染した死亡者のうち72%は「寝た切り状態」だったことがわかりました。これは期間中の札幌市内の全死亡者(223人)の45%に当たります。
つまり、コロナ死亡患者の多くは、さっきの5類型でいえば、➃「最後の一滴死亡」に当たるということです。通常の年でいえば肺炎やインフルエンザで亡くなったケースです。今、第4波に向けて国のコロナ対策は高齢者施設に目が向き始めていますが、亡くなっているのは療養型病院だということを指摘しておかねばと考えました。”
「最後の一滴死亡」とは「元々状態がよくなくて最後の死因がたまたまコロナだった死亡」ということだ。
私は小林氏主宰のコロナ関連イベントにも呼ばれるように「よしりん一派」であるのは事実だ。1年経って私(47歳)より少し年上の久田さん(53歳)と吉田さん(50歳)がコロナに対してどうお考えなのかは分からないが、折り合わないとしてもそれはそれ。このTABLOというサイトを盛り上げたいという気持ちは同じなので、お互いコロナについて考えが合わなくてもそこは干渉しないで言論人たるもの、自分の主張を好き放題すればいい。
結局「人は何らかの理由で死ぬ。高齢であればあるほど死ぬ確率は高まる。『コロナ死でなければ良かったね♪』といった状態になっているのはバカげている」というのが私の考え。これはこの1年3ヶ月の「大変だ祭り」で確固たるものになったし、これから以前の私のようにコロナを怖がり過ぎる側にまわることはないだろう。(文@中川淳一郎 連載「俺の平成史」)
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