特殊詐欺事件裁判で明らかになった「受け子」の報酬 使い捨てにされる彼らに下る刑の重さとは?
TABLO / 2019年1月15日 11時43分
唐川聖也(仮名、裁判当時21歳)は地元の網走の高校を中退後、土木や漁業関係の仕事を転々としていましたがどの仕事も長続きしませんでした。
「目標が何もなくて働くのがイヤでした」
と彼は供述しています。
何をしたかは裁判では明かされませんでしたが未成年時に少年院に2回入っていました。成人しても定職に就かず暴力団事務所に出入りするようになっていた彼にある日、転機が訪れました。
「今、受け子を探してる。東京に来ないか」
組事務所で兄貴分としている男からの誘いでした。受け子、というのはいわゆる特殊詐欺の現金を受け取りに行く役柄のことです。
「兄貴分の信頼を裏切りたくなかったです。善悪の区別もついていませんでした。お金欲しさもありました」
彼は、友人を伴い上京してきました。
被害者となったのは78歳の、夫と二人暮らしをしていたおばあちゃんでした。
「家にいたら警察を名乗る人から電話がかかってきました。『捕まえた詐欺グループのリストに旦那さんの銀行口座の情報がありました。まだ逃げている犯人がいるので、口座を悪用されるかもしれません。すぐにでも口座の停止手続きが必要なので、いまから金融庁の中村という者を向かわせるので中村にキャッシュカードを預けてください』と言われました」
電話からしばらく経った後、『金融庁の中村』を名乗る男が訪れてきました。
中村は偽名で、もちろん金融庁の職員でもありません。この男は、網走から上京してきた唐川でした。
被害者は家の中に彼を入れましたが、名刺を出さないこと、ネクタイをしていないことなど不審な点が多々あったためキャッシュカードを渡すのを拒みました。
しばらくキャッシュカードを渡すように説得され続けましたが、拒み続けると中村は帰っていきました。その後、被害者は110番通報し、玄関の防犯カメラ映像などから彼は詐欺未遂の容疑で逮捕されました。
朝早く市場で働く母親
「事前にトークマニュアルも渡されてたし、大丈夫だと思ってました」
実際にそのマニュアルで、一緒に上京してきた友人は受け子として150万円の現金を騙しとることに成功していました。友人が成果を挙げていることに焦りなどもあったと思います。それが演技の綻びにつながったのかもしれません。
報酬は騙し取った現金「100万円以下なら5万円、それ以上なら10万円!」という約束でした。
事件の全体像を彼は把握していませんでした。何人の人間が事件に関わっていて、誰がどんな役割を果たしているのか、ほとんど知らされていません。
特殊詐欺事件で逮捕される可能性が最も高いのは被害者と接触する受け子です。そのため詐欺グループは受け子には情報をほぼ渡しません。受け子は何も知らないまま、最も危ない橋をわずか数万円の報酬のために渡らせられるのです。何も知らない受け子が捕まったところで詐欺グループの中枢にいる人間が捕まることはないので、グループには何の損害もありません。受け子などまた数万円の報酬をエサにどこかで勧誘してくればいいだけの話です。
何も知らない受け子でも特殊詐欺に加担した者への判決は重たいのです。この事件では執行猶予付きの判決でしたが、初犯でも実刑判決が下されることもあります。そんな情報ももちろん知らされません。
網走にいる彼の母親は市場で働いています。早朝のまだ薄暗い時間から仕事に出かけていくそうです。事情はわかりませんが父親はいません。
彼女は法廷に来ることは出来ませんでしたが、裁判所に上申書を提出しています。
「本当は人の気持ちのわかるいい子なのでやり直せると信じています。生活を改めるよう指導もしていきます」
という内容です。
彼が本当に人の気持ちがわかるのなら、被害者の気持ちも考えられるはずです。息子が使い捨てされるだけの受け子にさせられて逮捕された時の母親の気持ちも考えられるはずです。
今回の裁判をきっかけにしっかりと自分の人生を見つめ直して本来の自分を取り戻してほしいものです。(取材・文◎鈴木孔明)
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