ワクチンもPCRもなし 炎天下に立たされ続けた東京オリンピックの警備員たち 告発「わたしたちは人間ではないのか」
TABLO / 2021年8月8日 15時46分
写真はイメージです
7月23日、新型コロナの感染拡大に伴って発令された緊急事態宣言下で東京オリンピック2020大会が始まりました。不透明な資金繰りや大会関係者の差別発言など多くの問題が指摘され開会式直前にも小山田圭吾氏やのぶみ氏の辞任といったゴタゴタがあった中、多くの人の「中止するべきだ」という声を無視して強行されたオリンピック。大会が始まってから報道は日本人選手の活躍一色に染まっていますが、その裏側はどうなっているのでしょうか。
炎天下、誰も来ない駐車場に立つだけの仕事
6月の後半からオリンピック施設の警備員として働いている方にお話を伺いました。都内在住の男性で、普段はスーパーなどの商業施設内でやはり警備員として仕事をされている方です。開口一番に口にしたのは「早く終わってほしい」という言葉でした。
「拘束時間が長いのがとにかく辛いです。オリンピック施設は24時間警備なのですが、それを2交代で回しているので12時間勤務になります。日勤の時はこの暑さの中で日陰もない場所でずっと立ってないといけないので…。交代で休憩は取ってますから12時間立ってるわけではないですけど『危ない』と感じることはたくさんあります。実際に体調を崩した警備員もいるみたいです」
オリンピック招致の際には「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」と嘘をつきながら、暑さ対策を何一つ講じてこなかったしわ寄せは選手のみならず警備員や関係者にも及んでいるようです。
「夜勤も入ることもあります。暑さに関してはマシなものの夜勤も辛いです。そもそも日勤と夜勤が入り交じるっていうシフトがすごく辛くて…生活リズムも何もあったものではないです。だからオリンピック警備が始まってからは常に寝不足の状態で働いてます。私は夜勤では関係者用の駐車場に配置されることが多いのですが、一晩立ってて車両が1台も出入りしなかったこともあります。『いる意味あるのかな』とか『俺は何やってるんだろう』とか考えはじめてしまうと、心が削られてくるんです。そんな駐車場なら夜間は閉鎖してしまえばいいと思うんですが、どうもそういうことはできないみたいです」
この炎天下での長時間拘束、そして日勤と夜勤が入り交じる勤務シフト、それは身体だけでなく心をも蝕むもののようです。車両が1台も出入りしない真っ暗な駐車場で1人ポツンと佇む警備員の姿には哀愁が漂っています。
今の時期に熱中症の危険があるのは当然として、感染が急拡大している新型コロナへの対策はどうなっているのでしょうか?
その点に関してもお話をしていただきました。
参考記事:河村たかし市長、メダル噛み以外にも初対面の後藤希友選手に「でかいな」「恋愛禁止なのか」とキモイ質問 | TABLO
【次ページ】驚くべき大会関係者のずさんなコロナ対策
ワクチンどころかPCRもなし? 警備員への酷すぎる待遇
「コロナへの対策は…何もありません。大会が始まる前は『大会に関わる警備員の8割にワクチンを接種させる』といった話がありましたが、いつの間にか聞かなくなりました。私はワクチンは接種してませんし、周りの隊員もほとんど誰も接種してません。他社の警備員も同じようなものだと思います。ワクチンどころか、私たちはPCR検査も一切受けずに勤務しています。テレビでは毎日のように大会関係者が何人感染した、というようなニュースが流れていますが、私たち警備員に関しては検査すらしていないのでその人数には入りません。海外から来た関係者と接する場面はあります。時には選手の方と接する機会だってあります。そのたびに申し訳ない気持ちになりますし『これでいいのかな』とも思います」
政府関係者は大会前から「バブル」という言葉を多用し「安心安全」とお題目のように唱えてきました。至る所に空いたその「バブル」の穴は何度も指摘されてきましたが、こんなところにも大きな穴が空いていました。「アスリートファースト」ももちろん大切なことですが、大会を裏で支える方々は新型コロナに感染しようとどうでもいいのでしょうか。その姿勢が、オリンピックを目指して努力してきたアスリートの方を感染させてしまうリスクに繋がるとは考えられなかったのでしょうか。「アスリートファースト」という標語が虚しく見えてきます。
警備員をはじめ、多くの関係者は新型コロナや熱中症の危険と常に隣り合わせのまま働いています。その待遇も伺いました。
「この前、ネットニュースの記事で『オリンピックの警備員は日当24,000円』というようなのを見て驚きました。どこの世界の話なんだろうって。一応オリンピック手当てというのは出てるんですが1勤務1,500円です。12時間拘束の2時間休憩なので実働10時間、日当にしたら12,000円くらいです。夜勤だって20,000円に届きません。もちろん会社によってある程度の差はあると思いますが、私はこれくらいで働いています」
大雨でも炎天下でもずっと持ち場にいなければならない警備員にどれくらいの日当が適正なのかはわかりません。しかし、一部で報じられているような高額の日当を貰えている警備員ばかりではないようです。
2019年8月、警備業法の改正がありました。この改正によって、警備員になる際に必要とされていた40時間の研修が20時間にまで短縮されるなど、以前から低かった警備員になるためのハードルがより低くなったのです。この改正はオリンピック開催に際して警備員が不足することを見越して為されたものだと言われています。そんな場当たり的な対応で問題の解決をはかるのではなく、もっと他にやるべきことはあったように思えてなりません。
今回大会では多くの民間警備員に加え、警察や自衛隊も警備にあたっています。それだけ多くの人数を動員している主目的はテロの警戒です。しかし、その点に関しても疑問符がついてしまう状況があるそうです。
【次ページ】関係者の荷物チェックはほぼ「ザル」だった
24時間働かされる「荷物検査員」の本音 彼らは人間ではない
「オリンピック会場に入るには空港のような手荷物検査が全員に実施されています。その検査ははじめは警備員がやっていたのですが、だんだん自衛隊の方がその任務に就くことが多くなってきました。この自衛隊の方々の検査が少し雑というか…私たち警備員は大会前に研修を受けて持ち込み禁止物品のレクチャーを受けていますが、自衛隊はそういうものは受けていないのではないかと思います。具体的に言うと、缶や瓶は会場内には持ち込めないはずなのに自衛隊が手荷物検査をするようになってからは会場内でも普通に缶ジュースを飲んでる方などを見かけるようになりました。私が一度見てしまった出来事なのですが、X線検査装置に入らない大きなカバンを持った方が会場に来られたことがありました。装置に入らないなら本来はカバンを開けて目視で何が入っているかを確認することになっています。でも自衛隊の方はそれをそのまま通してしまっていました。わざわざ荷物をあけるのが手間なのはわかりますが…さすがにそれを見た時は唖然としました」
無観客開催での開催が決まった以上、こうした杜撰な検査でも大きな問題は起きないのかもしれません。しかしもしもこれが観客を入れての開催であったら、と考えるとゾッとしてしまいます。しかし、自衛隊のそんな状況にも警備員さんは理解を示していました。
「詳しくは聞いていませんが、オリンピックに動員されている自衛隊の方は私たち警備員よりもずっと拘束時間も長く過酷な勤務をしているみたいです。ある隊員の方が『俺たちなら24時間働かせても誰からも文句言われないから』と吐き捨てるように言っているのを聞いたことがあります。十分な研修もなしに長時間駆り出されていることを考えると、仕事に雑な部分が出てくるのもしかたのないことなのかな、とも思います。悪いのは彼らではなく、彼らを使っている人たちです」
テレビでは連日、華々しい活躍をする選手たちの姿が映し出されていました。
その一方で、ワクチンもPCRも無しに歯を食いしばって大会を支えている多くの人が存在していたのです。
お話を伺った警備員さんは最後にこんな言葉を言っていました。
「多くは求めていないけれど、せめて1人の人間として扱ってほしい」
華やかな部分ばかりがクローズアップされがちですが、これも東京オリンピックの一面です。(取材・文◎編集部)
関連記事:慌ててオリンピックパスを隠すも本サイトは目撃 電車で観光する外国人五輪関係者たち バブルはザルだった | TABLO
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