フィリピン大統領選で在日フィリピン人たちの本音を聞いてみた なぜ独裁者の息子は大人気なのか 英雄・パッキャオは「ボクシングだけ」と辛らつ
TABLO / 2022年5月10日 15時32分
独裁者の息子でも圧倒的支持(マルコス氏公式YouTubeより)
5月9日(月)、現職のロドリゴ・ドゥテルテ大統領(77)の任期満了にともなう、フィリピン大統領選挙が行われ、フェルディナンド・マルコス元上院議員(64)が圧倒的得票数で当選した。レニー・ロブレド副大統領(57、女性)やマニー・パッキャオ上院議員(43)らは落選となった。マルコスといえば、父マルコスの負の印象が強いだけに今回の結果は正直、非常に驚いた。
これに先だって、僕は周りにいるフィリピン人たちに誰を支持するか聞いて回っていた。20年にわたってフィリピンを支配した独裁者の息子がなぜ大統領として選ばれたのか。
世界戦を行えば、テレビの視聴率が50%を超えたという国民的英雄ボクサーで、慈善活動に積極的なパッキャオがなぜ好かれなかったのか。その理由を生の声から探ってみたい。
***********
元出稼ぎ女性3人に聞くと、何かを連呼して、勝手に盛り上がりはじめた。
「BBA!BBA!」
バブルのころにやってきた元出稼ぎ女性たちも40~50代。すっかり年をとった自分たちを自虐的に言って、なにが嬉しいのだろう。
首をかしげていると、彼女たちは続けた。
「ボンボン・マルコス! ボンボン・マルコス!」
ここでいうボンボン・マルコスとはフェルナンド氏のニックネーム。つまり独裁者の息子を、元出稼ぎ女性たちは選んだのだ。しかしなぜ、マルコス氏をなぜ選ぶのだろうか。彼女たちはなぜ自分たちのことをババアと自虐的に言うのだろうか。
理由を聞いてみたかったが、叶わなかった。自分たちをババアババアと言う謎のコールに僕の質問の声はかき消されたからだ。
別のAさん(40代後半、女性)もマルコス推し。彼女はマルコス支持の理由について話してくれた。
「父マルコスは経済を良くした。ボンボンにも期待してる。イメルダさん?ボンボンさんが尊敬する立派なママよ」
一方で彼女はパッキャオについては辛辣だった。
「大学すら出てないボクシングしか出来ないバカ。ダメだよ。討論会で経済のこと聞かれて、『神さまがなんとかしてくれる』っていうんだよ、ハハハッ」
ミンダナオ島に住む英語教師(25・女性)は心情的には同郷のパッキャオ支持だった。しかし大統領にしたいという気持ちとは別なのだという。彼女は消極的な理由でマルコス支持だった。
「寄付をしたり、公民館を作ったり。パッキャオさんはミンダナオ島に建物をたくさん建ててくれた。すごく立派な人。だけど経験が足らないよ」と言って残念そうにした。
マルコスの後、政権をとったアキノ一族と比較してマルコスを支持する人もいた。
「父マルコスの後のアキノ政権で経済が破壊されたでしょ。父マルコスの時代に経済発展を果たしたのにアキノ一族がぶち壊しにした。ボンボンにはぜひまた経済を発展させてほしいわ」(セブ島在住の英語教師・31・女性)
話しを聞かせてくれたフィリピン人たちに共通するのは、「独裁者父マルコスの悪業の数々について、よく知らない。実感がない」ということだった。
●マルコス負の歴史
ボンボン・マルコス氏の父親、フェルナンド・マルコスの約20年間の独裁体制について振り返っておく。
大統領に就任した当初である1965年から70年代初頭、父マルコスは、インフラ整備を積極的に行ったり、経済振興策を推し進めたりして、経済成長を大いに果たした。しかし1972年、全土に戒厳令を敷き、独裁体制を強化している。
「国際団体は拘束や拷問、失踪、殺害などの被害者は10万人超と推定、一族による推計50億~100億ドルの不正蓄財も明らかに」(東京新聞2022年5月7日号)
やりたい放題の父マルコスに対し、やがて国民の不満が爆発する。1986年には革命が起き、マルコス一家はハワイへ亡命した。彼らが明け渡したマラカニアン宮殿からは、イメルダ・マルコス夫人がコレクションした高級な靴が1000足以上、そのほか高級ランジェリーや高級バッグなど、贅を尽くした品々の数々を不法蓄財していたことが明るみになり、世界中を激怒させた。
10万人超の人を捕らえたり、拷問したり、殺したりした独裁者の父と、靴のコレクションで有名なイメルダ夫人を両親に持つボンボン氏と、身体一つで稼いだ巨額の富を祖国に還元する国民的英雄のパッキャオ。
二人を比較すると、個人的には、圧倒的にパッキャオの好感度が高い。彼こそ大統領にふさわしい。僕はそう思っていたが、フィリピン人の思いは違うところにあった。
●フィリピン人は誰もマルコスを知らない
ではなぜ、マルコス氏がこんなに人気があったのか。実際のところ選挙について、オンラインを使って、知り合いのフィリピン人記者に聞いてみた。
――今回、マルコスの圧勝となりました。なぜマルコスはこんなに人気があるんですか? 彼の父親は独裁者だったのに。
「良い質問ですね!! 若者は歴史を知りません。SNSに書いてあるフェイクニュースを簡単に信じちゃうんです。もちろん私はそれが嘘だとわかっています。だから私はマルコスに投票しません」
マルコスは任期前半の経済成長だけを言いつのり、負の部分について、なにも言わない戦略で勝利したのだ。
記者には個人的な疑問もぶつけてみた。
――BBA、BBAってコール、どういう意味なんですか? 日本に住んでいる知り合いのフィリピン人の中年女性たちははBBA、BBAってコールして盛り上がってます。
すると記者は、「マルコス支持だなんて信じられない」という表情を浮かべたあと、次のように教えてくれた。
「それはBBAじゃなくて、BBMね。でそのBBMだけど、ボンボン・マルコスのイニシャルです」
なるほど、出稼ぎ女性たちが自分たちのことを「ババアババア」と自虐的に言っているわけでは、やはりなかったのだ。
フィリピンは今後どうなるのだろうか。ボンボンが、父マルコスのような独裁者とならず、6年後、平和裏に次の人に政権を渡すことを願うばかりだ。(文@西牟田靖)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
マニー・パッキャオ、日本フィリピン合作映画出演 主演・監督は結城貴史 田辺桃子・尾野真千子も出演
ORICON NEWS / 2024年6月23日 2時43分
-
田辺桃子、尾野真千子、伝説のボクサー・パッキャオら出演! 日本×フィリピン合作映画『DitO』本予告解禁
クランクイン! / 2024年6月21日 12時0分
-
【RIZIN】“ボクシング界の英雄”パッキャオの参戦決定 『超RIZIN.3』で王者・鈴木千裕と対戦
ORICON NEWS / 2024年6月9日 17時52分
-
【RIZIN】“ボクシング界の英雄”パッキャオがファンイベントにサプライズ登場「明日の発表をお楽しみに」
ORICON NEWS / 2024年6月8日 19時55分
-
“お金に稼いでもらう”大切さ伝える マネックス証券が日体大で金融講義
OVO [オーヴォ] / 2024年6月6日 11時45分
ランキング
-
1『イッテQ』いとうあさこ、スタッフに「絶対触らないで」 とっさの“気遣い”が反響呼ぶ
Sirabee / 2024年7月2日 12時45分
-
2注目の『ブラックペアン2』『海のはじまり』は何位?データから見る夏ドラマ「期待度」ランキング
女子SPA! / 2024年7月3日 8時46分
-
3“珍客”に太ももをかまれた米女性シンガーも…公演中に相次ぐハプニング
女子SPA! / 2024年7月3日 8時44分
-
4「弱さを盾にした“強い者いじめ”」粗品のキムタク・宮迫への“口撃”と有吉の“あだ名”の決定的な違い
週刊女性PRIME / 2024年7月3日 10時0分
-
5泉ピン子“喝”入れても感謝してくれる上戸彩が唯一の救いか…渡鬼ファミリーから“総スカン”の中
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年7月3日 9時26分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください