私が見た漢民族のウイグル族差別 「逃げる者は射殺」の衝撃【後編】
TABLO / 2022年5月30日 7時0分
現地で見つけた最教育施設(収容所)らしき建物。
5月24日、各メディアで中国のえげつなさを示す記事が発表された。〝少数〟民族、ウイグル族(人口約1000万人)に対する民族弾圧。その証拠の決定版ともいえる内部資料、「新疆公安ファイル」が流出し、その内容が明るみになったのだ。
「逃げる者は射殺」 中国のウイグル族「再教育施設」内部資料が流出
(2022/5/24)
https://mainichi.jp/articles/20220524/k00/00m/030/019000c
「(当局に)挑む者がいればまず射殺せよ」と指示する幹部の発言記録や2万人以上の収容者リストがそこには含まれていた。
治安維持という名目で、ウイグル族の人々を片っ端から収容し、ウイグル社会を根こそぎ破壊しようとする中国政府の狙いが見て取れる。100万人が収容されたという話しはこれでより、信憑性が高まったといえる。
こうしたウイグル族への苛烈な弾圧ぶりの一端は、2018年に僕自身、現地に向かったときに実感したことであった。記事の後編では、新疆ウイグル自治区で垣間見た漢民族による支配ぶりについて記してみたい。
*********
〝首都〟ウルムチの中心部は銀座のような煌びやかさがあった。新宿か銀座かと勘違いしそうな繁華街。歩いている人は漢民族ばかり。レストランから日本式の居酒屋まで食べるところもたくさんある。アンテナがたくさんあるのかネットは爆速。信号や道の程度も日本とそう変わらない。セキュリティのことは特に気にしなくてもすむ。ここが北京から1000キロ以上西にあるシルクロードのエリアだとはにわかには信じがたい、そんな街だった。
ところがだ。道を一本横断し、ウイグル族が住んでいるエリアに入ると様子は一変した。 ウイグル族がたくさん住んでいるエリアは、ネットの繋がりが悪い。ウイグル族が勝手に連絡を取り合うのを阻止するため、妨害電波を出しているのか。それとも逐一、通信内容を傍受していたりするのかもしれない。
羊肉の串を出すおいしい飲食店街に入るのには顔認証システムをパスする必要があった。店の多くは当局の命令で排除されてなくなっていた。ウイグル族の心のよりどころであるモスクに関しても、やはり、入口でセキュリティチェックを受ける必要があった。セキュリティチェックは荷物のX線チェックのほか、警備担当のウイグル族が常駐していた。中国政府はウイグル族自身に監視をさせているのだ。
ウルムチにあるウイグル語の出版社を訪れると、すでに使われておらず、廃屋になっていた。すぐそばのウルムチ大学はセキュリティチェックがなされていた。街の各地には監視カメラが設置され、突撃銃をもった警官があちこちにいた。
長距離バスターミナルへ行くと、セキュリティはさらに厳戒態勢。バスに乗るまでにX線検査が3回あった。そんな厳戒態勢だからなのか、それとも中国政府がウイグル族の移動を制限しているのか。90年代初頭は20分に一回のペースで出ていた、〝首都〟ウルムチ~観光地トルファンへのバスは一日に数本になり、あとは乗用車による乗り合いタクシーしかなかったりした。
トルファンの街中には在日ウイグル族が指摘した、収容所(再教育施設)と特徴が一致する建物は確かにあった。その建物は、小学校のような高い壁があり、上には鉄条網が備わっていたのだ。
現地に来る前に話しを聞いたウイグル族の話によると、ウイグル族はパスポートを持てないということだったが、それどころか、街と街の移動すら困難な様子がうかがえた。
こうした厳戒態勢だからか、日本人の僕に対しての挙動は普通ではなかった。
街中にウイグル族らしき女子中学生が5人ほどいた。僕を見つけると、こちらを凝視して警戒した様子で何かを囁いている。彼女たちのすぐ手前には、ウイグル族の子供が行方不明になったことを伝えるポスターが貼ってあった。そのポスターのことを聞こうとしただけで、蜘蛛の子を散らすように逃げられてしまった。
それは市街地でコマ遊びをしている6歳ぐらいの子どもたちもそうだった。近付いていくとその分、無言ですっーと離れたりするのだ。
90年代の初頭、僕が現地を訪れたときは、子どもたちの方から寄って来て、ウイグル語で矢継ぎ早に話しかけられたり、ブドウをくれたりと、人なつっこさばかりが印象に残った。大人にしても、警戒感はまったくない感じで、屈託なく話しかけてきたものだ。
一方で話しかけてくるウイグルの人はというと、それぞれの人たちの切実な事情が垣間見えた。
夜10時ごろ、ウイグル族の食堂で食べていたとき、ポケットティッシュを3つ、売りつけてきた10歳ぐらいの少女がいた。
「三つで一〇元で買って」
そう繰り返して離れようとしない。話しを聞くと、母親は掃除の仕事をしているという。しかし、父親について聞くと、口をつぐんだのだ。もしかすると、父親は当局に収容されたのかもしれなかった。そのことを店の人は知っていて、不憫だからこそ、女の子のことを助けたくて、客に売るのを黙認しているのかもしれない。
観光地トルファンで話しかけてきた60ぐらいの厳つい中年男性は別の意味で切実さを感じさせた。日本のヤクザ映画に出てきそうな彼は「私、トルファンの安岡力也って呼ばれてるのよ」と自己紹介した。聞けば80年代後半から日本人相手に観光業をしているという。
その人の観光ツアーに参加したついでに、彼に話しを聞いてみたところ、いろいろはぐらかされてしまった。
――街はずいぶん変わりましたね。
「昔の方が良かったよ」
――1991年にトルファンに来たときは9割がウイグル族で漢民族はほとんどいなかったのにいまは半分以上が漢民族ですね。
「……」
――50メートルおきに交番がありますけど、なんで警察こんなに増えたんですか?
「酔っ払いが多いからだよ」
昔はよかったという言葉の真意を聞いてみたかったか、彼は警戒したのか、酔っ払いが多いという嘘をついて話しを遮った。見え透いた嘘に腹立たしい思いがこみ上げてきた。でも、こうでも言わなければ警察にしょっぴかれ、取り調べを受けるのかもしれない……僕はそう思い直した。
街に大挙して、漢民族を移住させ人口で圧倒、その一方でウイグル族の文化や言語、生活を圧迫し、漢民族化することで、この世から消し去ろうとしている。そうすることで、イスラムのテロを根本から亡くそうとしている。今回流出した「新疆公安ファイル」は、その遠大な計画の氷山の一角でしかない。(文・写真@西牟田靖)
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