「山上徹也容疑者」とは何者なのか 安倍元総理暗殺は最近多発しているアメリカ銃乱射事件と同種の犯行である
TABLO / 2022年7月11日 16時0分
暗殺された安倍元総(撮影@編集部)
安倍元総理の暗殺ニュースを目の当たりにし、アメリカでは大統領の暗殺が多いことをうっすらと思い浮かべた人は多いと思う。犯人の山上徹也は、幼い頃の父親の死後、母親によるシングルマザーの家庭で育てられたが、その母親の愛情を宗教に奪われたという強い反感と共に、自己の自立に意識を注げなかったことから社会性を奪われた。そのため、大人しく礼儀正しい外見と裏腹に心の中で完全に社会から孤立し、本当の自分が生きられない社会に対するうっぷんや怒りを自己の中に着実に募らせた。
そして、母親が宗教団体に多額の寄付をしたことが引き金となり、それまでの自分のみじめな生い立ち・怒りをすべてその宗教団体に向けよう考えたが、ガードが固いことから断念し、その団体と親しい安倍元総理にターゲットをスリカエた殺害犯行になる。言わば、自分のすべてを奪われたことに対する、死刑(自爆)を覚悟した「誇大復讐自殺」ということになる。
では、実際のアメリカの暗殺はというと、概略以下のようになる:
リンカーン大統領―北部陣営に立ち南北戦争を引き起こしたことに対する、複数からなるグループによる計画的犯行
ジェームズ・ガーフィールドー精神に障害を抱えた犯人による、特定派閥を攻撃し共和党を分裂させたことに対する、神が命じたとする犯行
ウイリアム・マッキンリー―講演を聞くなどにより、無政府主義の考えに傾倒した犯人による犯行
ジョン・F・ケネディー―共産主義に傾倒した犯人による、カストロ暗殺計画に対する報復犯行
*ロナルド・レーガン(未遂)―12歳の女優ジョディ・フォスターに偏執的に憧れた精神に障害を抱えた犯人による、フォスターと同レベルの存在になろうとするための手段。ハイジャックによる自殺やジミー・カーターの殺害も考える。
ジョージ・W・ブッシュ(計画)―イスラム国を支持するアメリカ滞在イラク人によるブッシュの外交政策に反対の犯行
ロバート・ケネディー―当時司法長官で民主党の大統領候補であったロバート・ケネディーの親イスラエル的発言に対する犯行
*ジョン・レノン(歌手)*―レノンを殺害することで自分も何者かになろうした犯人による犯行。他にもエリザベス・テイラーやジョニー・カーソン(司会)の殺害も考える。
一見すると、レーガンとレノンの暗殺(未遂)の精神的障害傾向の高い犯行を除けば、それ以外は、ある程度理解のできる政治信条に基づいた暗殺であるかのように受け取ることもできる。しかし、ここで考えて欲しいのは、いくら政治的信条に傾倒していたとしても、私たちが大統領殺害という究極の殺人行為を自分の死を覚悟して実行できるだろうか、ということである。
死線を越えてあることを実行に移すには、それに相当する怒りが必要となる。彼らにはみな、共通してその背後に、他者と同じように社会生活を送ることをできなくさせた「心の闇」が存在する。そして、その闇の原因は彼らが物心付く前の幼少期に始まる。学校に上がる前の家庭環境の中に、通常のコミュニケーションが行われていないのだ。それは、親が完全に子供を放置してしまうネグレクトの場合もあれば、子どもが自分の本当の気持ちを表に出せないような親による心理操作や今にも夫婦が離婚しそうな家庭の不安定による場合もある。
いずれにせよ、幼少期中に本心を出せる双方向のコミュニケーションが存在しないため、子供は初歩的な対人技術を身に付けることができなかったり、表面的にだけ親(回り)に合わせ本心を言わずすべて自分の中にため込んでしまうスタイルが確立されてしまう。
また、そうした非自然な環境で育てられることで、物事をネガティブに考える癖が付いてしまう。そのため、こうした歪んだ環境で育てられた子供は、学校に上がってからも、対人技術がないため仲間外れにされいじめに遭ったり、家で親に対してしてきたように回りの顔色ばかりを気にし極端に大人しかったり、理想的な良い子を演じたり、過剰にお調子者を演じたりといった、社会から物理的に孤立、もしくは、表向きは回りと仲良くやっているように見えても内心孤立しているといった人格を形成するようになる。
そして、こうした抑圧状態の長期に渡る継続からくるうっぷん・ストレス・妬み・怒りの着実な蓄積が「死線」を越えさせてしまうのである。つまり、彼らの政治信条はそうした怒りを正当に爆発させるための大儀名分に過ぎず、元凶は、歪んだ幼少期の家庭環境とその後の社会的苦痛の継続という、極めて個人的な理由によるものであり、極論すれば、そうした信条は後付けの表現方法に過ぎず、彼らの身近にあり同調できるものであれば何でも良かったと言っても過言ではない。
そう考えると、レーガン暗殺を試みたジョン・ヒンクリーやレノンを殺害したマーク・チャプマンが例外ではなく、むしろ、他の暗殺者も同じ歪んだ心理状態のベクトル上にあり、チャップマンやヒンクリーは妄想症状が他者よりも進んだケースと考えるのが妥当と言える(妄想性統合失調)。
安倍元総理を暗殺した山上徹也の特定宗教団体に対する「誇大復讐自殺」(死刑覚悟)も、上記の南北戦争誘発・共和党分裂・無政府主義・反共産主義・イスラム国弾圧・新イスラエルに対する「報復暗殺」と同じカテゴリーに当てはまると考えることもできる。
しかし、最後に一つ特筆しておきたいのは、最近アメリカで特に頻発している銃乱射事件の一つであるバッファロー銃乱射事件との酷似である。犯人のペイトン・ゲンドロン(19)は、幼い頃から感情的やり取りが欠如し、意識・無意識に自分たちの理想を子供に押し付ける、やはりごく当たり前の双方向コミュニケーションの欠如した家庭で不満や怒りを自分の中にため込む形で成長した。
そして、6年生の時に黒人女子とクラスで揉めたことから、1日登校禁止の処分を受けたことから、後に、自分の生い立ちから来る怒りを、主に黒人客が利用するTOPSスーパーを銃で乱射し10人の黒人客を殺害している。これは山上がコミュニケーションの欠如した家庭で怒りを募らせ、愛情面でも金銭的にも母親を奪った特定宗教団体に、すべての怒りを爆発させた構図と酷似している。
アメリカを絶対正義であるかのように考え、アメリカ文化を究極のものとして真似しようと努めている日本が、アメリカの負の側面も踏襲してしまうのは至極当然のことと言える。少なくとも日本社会にアメリカ的犯罪が進行しているという事実をしっかりと受け止め、然るべき対策を取れる体制を確立して行くことが急務であることを、今回の安倍元総理の暗殺は指摘してるものと考えられる。これまでの「古き良き村社会」の幻想では太刀打ちできない現状が既に始まっているのである(了)。(文@阿部憲仁・桐蔭横浜大學教授 ※アメリカの凶悪犯罪に詳しい)
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