職を転々と変え親の仕送りで生活していた35歳男の目の前に"誰かの財布"が 運命を左右する瞬間に男は...
TABLO / 2019年2月15日 15時0分
日々の生活の中で往々にして人間性が試される瞬間が訪れる時があります。東妻亮太(仮名、裁判当時35歳)にもそれがやってきました。
彼は高校中退後、パチンコ店やゲームセンターなどのアルバイトを転々としていました。どのバイトも「自分に合わない」とすぐ辞めてしまっていた彼は、逮捕される二年前から両親の仕送りに頼って生活していました。
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そんな冴えない人生を送っていた彼が漫画喫茶に行った時のことでした。会計をしようとカウンターに向かった彼は、カウンターの上に財布が置いてあるのを発見しました。誰か、おそらく自分の前に会計をした人が置き忘れていった物だとすぐにわかりました。
その時、カウンターに店員はいませんでした。周りには他の客も誰もいませんでした。もし持っていってしまってもバレることはないように思えます。
彼は周りをもう一度確認しました。やはり誰もいません。そっと自分の財布を取り出し、忘れ物の財布の上に重ねました。そして2つの財布を何食わぬ顔でポケットにしまいました。
何事もなかったかのように会計を済ませ、彼は店外へと出ていきました。確かに犯行は誰にも見られていませんでした。しかし、今時防犯カメラがない店などありません。
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「お金に困っていて、目の前に財布があったのでつい...。衝動的に盗ってしまいました」
いわゆる、魔が差した、というものなのだと思います。店員に届けようとは思わなかったそうです。
財布の中には約5万円の現金が入っていました。彼は現金のみを抜き取って財布は捨ててしまっていました。捨てられた財布の中にはキャッシュカードや免許証などが入っていました。検察官はこの点について、
「お金だけでなくて、たくさんの物が盗まれているんです。これをゴミに捨てたんですよね? 相手の気持ちも都合も、何にも考えてないですよね?」
と、厳しく追及していました。咄嗟の犯行です。もちろんそんなことは考えていたはずもありません。
「はい...すいません」
彼はそう言ってうなだれるばかりでした。
被害者との間には13万円で示談が成立しています。仕送りで生活している無職の彼が13万円を用意できるはずもありません。誰がこのお金を払ったのかは容易に想像がつくと思います。
留置場に面会に来た両親は、
「情けない。恥ずかしい」
と何度も言って叱っていたようです。
「お父さんお母さんに部屋を借りてもらって生活支えてもらって、その上今度は示談金まで出させて...もう35でしょ? 今の有り様、深刻に反省しないといけないんじゃないですか?」
検察官の詰問にも力が入ります。何を言われたところでこの状況で彼に反論などできるわけもありません。ただ謝り続けるばかりでした。
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これはダメな人間がダメなことをして捕まったダメな事件です。しかし、昔からダメだダメだといつも人に言われてきた私の個人的な話にはなりますが、こういう人間は誰かに言われなくても自分がダメであることくらいは自覚しています。ただ人並みに生きようと思って努力してもどうしてもどこかで何かが人とズレていて、いつの間にかダメな状況に陥ってしまっているのです。
彼に関しても周りはただ責めるだけでなく、もっと彼に寄り添って話をきちんと聞いてあげた上で、今後の人生を一緒に考えてあげてほしいと思います。
もし、周りに誰もいない状況で財布が落ちていたら...。
彼は負けてしまいました。私は今は裕福とはとても言えませんがお金に困っているわけでもないので同じ状況になっても落とし物として届けることは出来ると思います。
ではもしお金に困っている時に落ちている財布を見つけたら...?
ほとんどの人は盗らないと思います。しかし、急に「魔が差した」ということは誰にでも起こりうることです。人は欲望に対しては弱いものです。今回の裁判を受けていた彼は遠い存在のように映るかもしれませんが、実はとても身近な存在なのかもしれません。(取材・文◎鈴木孔明)
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