アントニオ猪木さんが触れられたくなかった話 「シルクロード1991」とは? 世界をまたにかけた天才プロレスラーのサイドストーリー
TABLO / 2022年10月5日 20時32分
気軽に写真撮影に応じてくれたアントニオ猪木さん。
10月1日午前7時40分、アントニオ猪木さんが心不全のため、東京都港区の自宅で死去した。79歳だった。数年前から心アミロイドーシスという難病に侵されていた猪木さん。衰弱しきった自身の姿を包み隠さずYouTubeで公表し続けた。病気という最強の敵から逃げず戦い続ける姿に多くの人々に勇気を与えたのではないだろうか。
アラフィフの僕にとって、猪木さんは、強さの象徴のような存在だった。幼少期から憧れ続け背中を追い続けたヒーローだった。毎週金曜日の夜8時からワールドプロレスリングはもちろん見ていた。小学校や中学校の教室ではプロレスごっこが流行り、コブラツイストや卍固めを掛け合ったり。
あのころの男子はみんな猪木になりきり、「1、2、3、ダァーッ!」と雄叫びを上げたものだ。猪木さんは、強さだけでなく、常人離れした情熱、そして破天荒な行動力を持ち合わせていた。数々の事業に手をのばしては失敗し巨額の負債を抱えたり、参議院選挙に打って出て当選、プロレスラー初の国会議員になったりした。
その行動は日本に留まらす活動はワールドワイド。しかもそれは、プロレスや格闘技以外の世界で発揮された。1990年の湾岸戦争では、自らイラクに乗り込み、首都バグダッドで「スポーツと平和の祭典」を挙行、在留日本人と人質を解放することに成功した。また北朝鮮やキューバにも足を伸ばし、独裁政権の中枢の人たちと独自の人間関係を築いたりもした。
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僕にとってのヒーロー、猪木さんに海外でお会いし、言葉を交わしたことがある。
2003年1月、グアムの空港でパラオ(フィリピンより南にある太平洋の島の国)行きの飛行機を待っていた際、アントニオ猪木さんを待合所で見かけたのだ。当時、猪木さんは現役引退からまだ5年たっていない時期。実に逞しい体つきをしていた。
猪木さんに声をかけると、「ブラジルの家族とパラオに行くんだよ」と話してくれた。総勢10人ほど。当然だが親族だなとわかる人たちの集まりだった。イノキ・アイランド(パラオと日本の友好の証として猪木さんプレゼントされた無人島)にも行くのだという。
「一緒に写真を撮っていただけないでしょうか?」
「いいですよ。〇〇さん撮ってくれる」
そういうと親族の〇〇さんは僕のカメラを受け取って二人の写真を写した。
一緒に写真に写ってもらった後、僕はある話題をふった。
「お目にかかれて嬉しいです。ところで猪木さん、1991年に中国シルクロードをバイクで走っていますよね。あのとき僕、沿道で見てたんです」
猪木さんとの共通点を話すことで、猪木さんとの話しが繋がると思ったのだ。ところが猪木さんは素っ気なかった。
「そういうこともあったかもね」
ひとこと言っただけで話が途切れた……。
なぜあのとき、話が途切れたのか。あとで調べてみて、腑に落ちた。これは触れられたくない話題だったのだ。
内子町議会議員の下野安彦さんのブログには、シルクロードバイクツアーの詳細と、その背後にある黒い人間関係が記してある。
「アントニオ猪木と佐川急便事件」(https://ameblo.jp/shimono0507/entry-10450304487.html)
そのブログによると、次の通り。
「当時、国会参議院議員だったアントニオ猪木氏の提言により、バイクでのツーリングを通じ、遺跡や文化にふれ民間交流をしましょうという”シルクロード1991”が企画されたのです。猪木氏がたちあげた「アントン・トレーディング」という貿易会社が企画してバイクも無料で用意され旅費もすべて無料でした。そうです、当時の佐川急便がスポンサーのようだったと記憶しています」
猪木さんたち約100人のライダーが中国シルクロードをバイクで行くという、前代未聞の企画なのだ。これは必ずテレビで放映されるだろうと、91年当時、バイクの列をみながら、僕は確信していた。ところが放映は一切なく、雑誌で紹介されることすらなかった。
メディア露出がなぜまったくなかったのか。そのことをずっと不思議に思っていたのだがそれもそのはず。
「この企画が終了するやいなや、丁度佐川急便疑惑事件が発覚。東京佐川急便事件との関与も報じられた」とブログにあったのだ。
佐川急便側からの5億円の闇献金を、当時自民党の実力者だった金丸信が受領したことが判明、議員辞職に追い込まれた。当時国会議員だった猪木さんも、“シルクロード1991”のスポンサーという関係性から、疑惑の目を向けられ、重要参考人として、事情聴取を受けていてもおかしくはない。
猪木さんの汚職事件との関わりの有無についてはわからない。しかしあえて当時のことをベラベラ話そうという気にはとてもならないはずだ。
こうしたお金に関しての疑惑があったり、経営がめちゃめちゃでいろんな人を泣かしたり。猪木さんのダーティな一面については、多くの猪木ファンの知るところではあると思う。しかしだ。清濁あわせ飲んだ光と影のある、うさんくさいキャラクターだったからこそ、猪木さんはそのスケールの大きさを感じさせる。猪木さんの場合むしろそれが人としての魅力となっている。もちろん、僕自身、猪木さんのそうした「うさんくささ」に惹かれている。
猪木さん、安らかにお眠りください。ジャイアント馬場と天国で、久々にタッグを組んで下さい!(文・写真提供@西牟田靖)
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