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元ホテルマンが演じる『HOTEL‐NEXT DOOR‐』 俳優・猪征大インタビュー

TABLO / 2022年10月7日 6時30分

俳優・猪征大(いのゆきひろ)さんをインタビューしてみて感じたのは、応援したくなる俳優だなという事です。こういう役者が演劇の世界で輝いて欲しいと思いました。性格はひたすら熱く、それは演技だけでなく人生にもおいてもそうなのではと感じさせたからです。元ホテルマン。彼が俳優になる前の職業です。そして、今回WOWOWで9月10日『HOTEL-NEXT DOOR-』がスタート。主演はディーン・フジオカ。原作は石ノ森章太郎著『HOTEL』です。猪さんのの登場回は10月8日。是非是非熱演に注目を。

 

 

●「ホテルで働いている人に寄り添った作品です」

――ディーン・フジオカさん主演『HOTEL』が9月10日からWOWOWで始まりますね。猪征大さんはそこにご出演されます。僕は石ノ森章太郎さんの原作は読んでいるのですが、まず今回の脚本を読んでどんなふうに感じました?

猪征大さん 僕自身、もともとホテルマンでした。一般の人がイメージするホテルって、宿泊部門についてが大きいと思うんです。でも今回の作品はそれだけじゃなくて、レストランだったり婚礼だったり、施設の裏方の話まで描かれていて、ホテルを緻密に描こうとされているんだなっていうのが最初の印象でした。

――「自分が経験してきたホテルを描いている」みたいな印象ですか。

猪征大さん まさにそうですね。

――ということは、脚本家の方はけっこう取材されたんですね。

猪征大さん 相当調べられたと仰っていました。現実と離すことなく、ホテルマンという仕事に寄り添ってくれてるように感じました。働いている側の人に寄り添ってくれるような作品なのかなと思いました。

――ドラマの内容は、ホテルで働いている方の人間模様みたいな感じですか?

猪征大さん そこにお客さんが介入してきてっていうところではあるんですけど、ベースがスタッフ側目線で描かれていますね。

――猪さんはホテルマン時代、どんな仕事をされてたんですか?

猪征大さん 僕は宿泊部でドアマンとベルボーイでした。政界のお偉方とか企業の役員とかのVIP車を玄関で待っていて、ま
ず車番を覚えなきゃいけないんですよ。例えばクラウンの何番はどこどこの企業の会長の車でとか。車を見て「あ、誰々さんが来た」ってわからなきゃいけないところからなんで大変でした。

――それはある意味、怖い仕事場ですね(笑)。

猪征大さん そうなんですよ(苦笑)。僕はお台場のヒルトン(ヒルトン東京お台場)に勤めていたのですが、色んな方が来られて、顧客の方の情報が多いんですよね。やっぱり覚え切れなくて、何もわからずにフワッとVIPをお出迎えしちゃったときはバチバチに怒られましたね(苦笑)。

――怖いです……(笑)。ホテルというと優雅なイメージしかないんですけど、職人的な職場なんですか?

猪征大さん そう思います。人の顔を覚えるのが人一倍早かったり、人に対する気遣いというのはお客様だけじゃなくて、スタッフ同士で食事に行くときにも気遣いが当たり前になっているんです。洋服が汚れちゃった人が見えたらおしぼり渡してあげるとか、ホテルマンはそれを当たり前にやるんですね。「相手ファースト」なんです。

――ホテルはどれくらいお勤めされたのですか?

猪征大さん 丸3年勤めました。

 

●「俳優になりたい」 それを聞いて父親はなぜ激怒したのか

――「石の上にも三年」っていいますけど、3年で一人前ぐらいですか?

猪征大さん あぁー、それって親に言われたんですよ(感慨深げに)。僕はもともと役者やりたいと思って浜松(出身地)から東京に来たんですけど、勇気がなくてホテルの専門学校に行きました。でも、ホテルマンになる気はさらさらなくて(苦笑)、「俺は役者になるんだ」と思っていたんです。就職活動が始まったときに夏休みに地元に帰ったんです。進路も決めなくちゃいけないので父親に「俺、俳優やりたい」っていう話をしたんですね。僕は応援してもらえると思ったんですよ。そうしたら、「何をナメた口利いてんだ。この世の中がどうやって成り立ってるか知ってるか? 色んな仕事をしてる人が色んなところで踏ん張って社会っていうのが成り立ってるんだ。おまえは何の経験もしてないくせに俳優になりたいとか、そんな偉そうに夢を語るな。『石の上にも三年』ということわざがあるように、まずは3年間、社会というものを学べ。それでも俳優になりたいという気持ちが変わらないんだったら応援してやる」って言われて東京に戻って。そのとき父親の言葉に何も反論ができなかったんですよ……。
――カッコいいお父様ですね。

猪征大さん 俳優になりたいという気持ちが弱かったわけではないと思うんですけど、そのときの自分は父の言葉に打ち勝って夢に立ち向かうほどの器でもなかったです。東京に戻って就職活動をして、お台場の、当時は日航東京(その後ヒルトンに買収)に就職しましたね。
「石の上にも三年」っていう言葉って、現代ではちょっと古くさい考え方でもあるじゃないですか。3年やったところで何がわかるんだ、というのも一理あると思うんですけど、僕はその父親の言葉で社会を3年経験したからこそいまの自分があると思ってるいますし、「いや俺は社会なんてどうでもいい、俳優になるんだ」ってそこで挑戦してたら、僕はたぶん簡単にへし折られて地元に帰るか東京でフラフラしてなんでもない生活をしてたと思うので、何かを極めるじゃないですけど、ひとつのことに3年っていうのは大事にしてます。

――YouTubeのショートムービーを2本、『花火がしける前に』と『エイプリルフールの夏休み』を拝見しました。『花火がしける前に』は主演の葵うたのさんとすごく息が合ってましたね。

 

註・幼なじみの良平(25)と未希(25)は、進学・就職を経て東京と地元で離ればなれになった。 お互いに初の彼女・彼氏だった2人は今でも連絡を取る友達。就職以来3年半ぶりに実家に帰った良平は、物置で昔買った花火を見つけ、未希を誘うのだった─
<出演>葵うたの 猪征大
https://www.youtube.com/watch?v=AmTLlrLy3yM

 

猪征大さん あの作品は仲間内で自主的に撮ったんです。うたのさんとはもともとお芝居のレッスンで同じところに通ってたこともあり、あの組み合わせは、観てくれた人からは「すごくいい雰囲気だね」とは言ってもらえました。

――ですよね、すごく自然体な感じで。あれは猪さんの役者としての持ち味なんですね。

 

●「自分で言うのもアレですけど凄く熱い性格です!」

猪征大さん そうでもあると思います。このキャスティングしてくれたのも役者の友達だったんですが、このなんともどかしい男の役は絶対に猪が合うよってことで僕に話をくれたんですよ。「猪にピッタリな内容の作品を友達が撮りたいって言ってるから出てくれる?」って声掛けてくれて、それで出してもらったんで。わりと近しい人が普段の僕を見てくれたんで、ピッタリって言ってくれる方が多いのかなと思います。ちょっと歯がゆい感じで、自分で言うのもアレですけど、弱っちかったりウジウジしちゃったり落ち込んだりハッキリしなかったりっていうのは僕の人柄としてもありまして(笑)。

――あんまりオラオラしてないってことですね。

猪征大さん してないんですけど、これも自分で言うのもなんですけど、すごく熱いことが好きだし熱い人が好きだし(笑)、熱いできごとが好きだしっていうのは裏側に持ってるので、それがメインで出てきたらもっとカッコよくなれるのかなって。

――おー、それはぜひ観たいですねぇ。猪さんが今の事務所(HONEST)に入られたきっかけを伺っても良いですか?

猪征大さん 入口は今のマネージャーでして『ストロベリーナイト』が初めてドラマに出た作品なんですけど、当時助監督(現在:監督)をされていた木村真人(共同テレビ社員)さんっていう方が僕はホント出たてで撮影現場の右も左もわからない中、気さくに話しかけてくれたんです。飲みに行きましょうっていうところから始まり、僕が前の事務所を辞めて、コロナ禍でフリーになって1年半ぐらい路頭に迷っていた時期も、いつも食事に誘ってくれてご飯を食べさせてくれたんですね。冬に2人で公園に行って凍えながら4時間ぐらいこれからのこととか話したり。

――熱いですねえ。

猪征大さん 熱いんです(笑)。で、事務所が全然決まらなかったんですよ。そんなときにキムラさんから連絡が来て、「下北沢で、ある事務所のマネージャーさんと飲んでるんだけど、顔見せ程度に会ってみない?」って言われて、すぐ下北に向かったんです。そこで今のマネージャーと会って「オネストという会社が新しくできたんで、来て話してみない?」って彼女は社長がすごくいい人だってめちゃくちゃ熱弁していたんです。

――(社長は)そういう人ですよね。

猪征大さん 僕も会社勤めをしてた時期があるぶん、企業とか組織ってあんまり仲間のことをよく言わないというか、基本愚痴が出ると思うんです。でもホントにめちゃくちゃいい人でっていう一点張りで、珍しいと思ったんですよ。部下が上司のことをこんなに誉めることある?と思って半信半疑で会ったんですけど、社長と話したらホントに完全に社長の人柄に惹かれました

――そうでしょうねえ。

猪征大さん 事務所が掲げているモットーみたいなことも、きれいごとで言ってるんじゃなくて社長が本心で思ってることを体現しようとされてる方なんだなと思って。それが自分が人生のテーマにしてることと同じだったりしたので、この人と一緒にやっていけたらもっと前に進めるかもしれないと思ってお願いしますって頭下げて入れてもらった感じです。

――なるほどです。納得の動機です。僕は役者さんに会ったら聞きたかった事が「演じること」でして、それってすごく難しいと思うんですよ。他人になりきるって。

猪征大さん そうですね。

――今回のホテルマン役は経験があるから没入できた感じだったんですか?

猪征大さん 本当の自分と役の人柄を重ねたときにすり合わせていく作業をしていじゃにいですか。その役の人物を理解できない部分っていっぱい出てくるわけです。役を考えていくなかで、割り算しても割り切れない数字がたくさん出てくると難しいんですが、今回はホテルという職場を経験していましたし、僕は部下の役で出演するんですけど、先輩とふたり組で夜勤するみたいなことが多かったので、そうなると自分の経験と、この役の生き方がマッチする部分が多かったので、そこは没入しやすかった部分はありますね。

――周りの俳優さんたちもやりやすかったですか?

猪征大さん 僕の上司役が池田良さんなんですが、僕はこれまで長いスパンで出演することはあまりなかったんですけど、池田さんとは全シーン一緒にふたりで撮るみたいに出来て、どうやってコミュニケーション取っていこうっていうのは最初に思ったんですけど、ホントに優しいというか柔らかくて、僕が何を話しかけても反応してくれるし、話を振ってくれたり。あと待ち時間が長いので控室でふたりきりになったときにお互い壁を作っちゃうと何もしゃべれないし、それ苦手なんですよ。だけど池田さんは家族の話とか、撮影期間中に池田さんの結婚記念日があったんですよ。

「奥さんは絶対この記念日を忘れてるんだ、どうしたらいいかな猪くん」みたいな、そんな相談すらも僕にしてくれて。それで僕が、「家に帰ったら歌いながらプレゼントを持って登場して、仮に忘れてたとしても池田さんが歌って登場したら笑いになるし、そういうのいいじゃないですか?」。「そうか、じゃあやってみるよ」みたいな、そんな会話までしてて。ホントに記念日にそれやったら奥さんはちゃんと覚えてたって話も現場でして、ホントに良くして頂いて。そうなってくると上司部下のコンビネーションがすごくやりやすいんですよね。池田さんにはこの球投げたらちゃんと受け取ってくれるだろうなっていうのが撮影時間以外にはぐくめたので、ホントに池田さんには頭が上がらないです。

――アドリブも入るんですか?

猪征大さん いや、アドリブは入らないです。オリジナルの動きを入れてみたりっていうのはお互いあったと思うんですけど、セリフは基本的には脚本に忠実に。

――放映が楽しみですね。定番の質問で申し訳ないですけど、見どころを。

猪征大さん コロナ禍もあり、東京オリンピックも終わり、僕のホテルマン時代の仲間も低迷期と言ってしました。そんな時代にこの作品を観て、「やっぱりホテルっていいところなんですよ。ちょっとお値段も張るし肩に力入っちゃう場所ではあるんですけど、いざ行ってみたらどれだけホテルで働いてる方々がお客様に楽しんでもらうことに一生懸命になってくれてるかっていうことがこの作品では表されています。作品を観ていただいて、こんな時代ですけど靴脱いでゆっくり休んでもらえるような時間にしてもらえたらなと思っています。それはホテルで働いてた僕がこの作品に関わることで、少しでもそういうことを伝えてホテルに恩返しができたらなと思っています。

――「石の上にも三年」でホテルでやられてきたわけですからね。

猪征大さん 裏側を知ったら、泊まりに行ったり食事に行くときの視点も変わってくると思うので、観ることによって、ドラマも楽しいしホテルのステイも楽しくなると思うので、ぜひご覧ください。

――猪さんの熱い感じが伝わってきましたよ! 楽しみです。(インタビュー@久田将義 Phto@菊池茂夫)

連続ドラマW HOTEL -NEXT DOOR- | オリジナルドラマ | WOWOW

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