70~80年代テレビが熱かった時代 プチ鹿島著『ヤラセと情熱 川口浩探検隊の「真実」』
TABLO / 2023年1月6日 15時40分
川口浩探検隊シリーズの真実は本書にある。
芸人さんの本なのに、やっている事はれっきとしたルポルタージュ。『ヤラセと情熱 川口浩探検隊の「真実」』(プチ鹿島著 双葉社)の読後感です。1980年代を象徴するようなハチャメチャなテレビ番組『水曜スペシャル』の『川口浩と探検隊シリーズ』(1976~1986)という番組を皆さんはご存知でしょうか。
テレビクルーが川口浩(俳優)を「隊長」とし、アフリカや東南アジアに行って猛獣や幻獣などの正体に迫るというものです。放送当時の1980年代半ば、僕は高校生で、ある程度大人びていたのでこういった番組に対しては冷笑的でした。けれども、どうしても抑えきれないロマンがあります。それは小学生の頃読んだ「ネッシー」や「ツチノコ」などの恐竜の生き残りや未だ発見されていない獣の絵や写真でした。
まだ世界には未開の地がある。そして、そこには見た事のない生物が棲んでいる―ー。
この手のロマンを具現化したものが、「川口浩探検隊シリーズ」でした。猿人や人食いピラニア、頭が二つある大蛇など数々の発見をしていく川口浩探検隊。番組が人気になるにつれて、真面目に「ヤラセだろ」という世間の声も大きくなり週刊誌などでバッシングされるのですが、「ヤラセではない、演出である」という立場から筆者は当時の制作者たちにインタビューを重ねていきます。そこには「演出」に体を張った男たちの肉声がつまっています。
プロレスにも似ています。一時、プロレスは「八百長だろ」という世間と闘っている時期がありました。そこに村松友視著『私、プロレスの味方です 金曜午後八時の論理』などが世間と対抗していきます。
この本もそれに似ていて、かつ一歩前に出てクールにそして時には熱く『川口浩探検隊シリーズ』の中身を解明していきます。「ヤラセだろ」が子供っぽく、それではなく「演出」としてこの番組を楽しんでいるんだという大人の見方を本書は提示してくれます。
「居たらたらいいのに」。
それが僕たちが持つ「幻の怪獣」の魅力なのです。「ダークサイドJAPAN」(大洋図書)という雑誌の編集長の時代。2000年前後でしょうか。その頃、『GON!』(大洋図書)編集長比嘉健二さんやルポライター朝倉喬司さんらから「サンカ」という幻の民族がまだ日本のどこかにいるという話を聞かされていました。ざっくり言いますと、縄文時代から日本列島に住み着いている原住民がいて、独自の文化と言葉を築いており、戸籍を持たずまだ生存しているというものでした。
実際、埼玉・秩父で「戦前サンカと過ごした」というご老人に僕らは取材することが出来ており、そこからサンカの足跡を探すべくライター、カメラマンと三人で秩父を回りました。途中、「サンカ料理」という看板が出ていたので喜び勇んでその店に入ると川魚料理でした。脱力しました。
「ここまで来てサンカの足跡が見られないとは」と僕は残念な気持ちになり、今は週刊誌の編集長に出世した、当時は若手カメラマンだったI君に
「とりあえずサンカっぽい写真撮ってよ」
と言ったところ大変困った顔をして「サンカっぽいって……」と呟いていました。
「だからサンカっぽい写真だって!」
と畳みかけて、
「川でも何でもいいから。そこにサンカがいたっぽいじゃん」
というような事を言ったと思います。いわゆる無茶ぶりです。
ここで、本書に戻ります。僕は正直過ぎたのと、ノンフィクションをうたっている雑誌なので「サンカ発見!!」などと書けば信用度を失います。しかし、「川口浩探検隊」制作者たちは全然、そんな事に構っていません。
「すげーモノを作って視聴者を驚かせるんだ」
その一心でヘビを集めたり、秘境に行って身体を張っています。そこに嘘はありません。バカバカしいものに金をかけ、熱を投じた当時1980年代のテレビマンたち。ダイナミックです。
1990年代に入ってから雑誌にそういったエネルギーは移行していったような思えます。前出の『GON!』だったり『宝島』『QuickJAPAN』といったヤンチャな編集者が作るヤンチャな雑誌です。今はテレビも雑誌もこういったいかがわしい面白さはYouTubeにとって代わられました。
一つ思ったのが、一体誰が雑誌でいうところの編集長(言い出しっぺ)なのか。本書に出てくるテレビマンたちの証言をまとめると、「川口浩探検隊シリーズ」の一番の「黒幕」は加藤秀之さんという元テレビ朝日チーフプロデューサー、この人の力量だったようです(本書に書いてあるようにな事件を起こして懲戒解雇)。彼がいなかったら、この番組は生れなかったでしょう。毀誉褒貶あると思われる人ですが、こういった人が思わぬ番組を作るものです。
いさぎよく、フェイクをフェイクだと言える番組はダイナミズムそのものです(最近使われている「フェィク」とは意味が異なります)。ダイナミズムは熱狂を生み、ブームを作り出します。著者が好きな東京スボーツ新聞もそう(今は違います)。個人的な話で恐縮ですが、久々に東スポらしい一面、「河童発見」の記事もそう。遠くに緑色の河童らしきものが写っていて、それを河童と決めつけるだけのダイナミズムと大胆さと思いっきりの良さ。見習いたいものです(あとで、河童だった記者から河童Tシャツを貰いました)。(文@久田将義 文中一部敬称略)
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