「RIZINゴールデンウィーク」が始まった 朝倉未来が「総合」に帰ってきた夜
TABLO / 2023年5月1日 6時0分
会場がどよめいた強烈なボディを牛久選手に叩き込む朝倉選手。
チケット開始およそ数分で完売。近年の格闘技界では聞かない数字です。RIZIN LANDMARK5 at YOYOGI(以下RIZIN)が4月29日に開催。来場者数は13.000人以上(運営発表)。国立代々木体育館(以下・代々木体育館)のホームページでの収容人数は「12,898席(最大12,934席)」ですから超満員という事になります。
ダブルメインの牛久絢太郎選手VS朝倉未来、平本蓮VS斎藤裕の2試合という、PRIDE時代から格闘技ファンならずとも例えばブレイキングダウンから入ってきたファンにとっても垂涎のカードを用意。
実際、会場では男女ともに若く女性ファンも多く見られました。K-1、PRIDE時代では見られなかった光景です。というのも、K-1時代に代々木体育館に観に行った際は、大変ガラの悪い「格闘技かじってます」みたいな男性が多かったのを記憶しています。ファンの質が変わったのであれば、今後の格闘技界の向上にとって、大きいと思います。無党派層を取り込むからです。
試合結果や技術解説などは各媒体や現役・元格闘家の皆さんが解説しているので、ここではあまり触れません。一編集者(UFC第1回からのファン。初代タイガーマスクからのファン)の「RIZIN取材後記」とでも読んでください。
会場前の代々木体育館には「RIZINのTシャツ」を来たファンが目立ちます。ふと耳を澄ますと関西弁も聞こえ、全国からファンが代々木に集まったのだなと実感しました。
●変貌した朝倉未来選手のスタイル・原点回帰
ダブルメインの試合結果は既報の通り、牛久絢太郎選手vs朝倉未来選手は朝倉選手の判定勝ち。平本蓮選手vs斎藤裕選手は斎藤選手の判定勝ちで決着しました。
朝倉選手に一番影響の大きかった試合をインタビューで聞いたことがあります。すると、「RIZINデビュー戦の日沖発戦」と即答しました。日沖戦。朝倉選手の髪の毛はまだ金髪で、初参戦ということもあり、ギラギラとした挑戦者の目をしていた若武者のような面構えでした。
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この時はオーソドックス(右構え)でしたが、元修斗王者日沖選手に臆せず、プレッシャーをかけていきました。結果、左ハイキック(軌道はミドル?)でKO勝ち。格上の相手に挑戦する姿勢がファンの共感を呼びました。その、前に出るプレッシャーが鳴りをひそめ、目が良過ぎるせいかカウンター待ちになっていた時期がありました。斎藤裕選手と初代RIZINフェザー級のベルトを賭けて戦った試合などがそうだったと思います。
今回はゴングが鳴ったと同時に中央を取り、牛久選手にプレッシャーをかけていきました。因みに、朝倉選手は実際に会うと分かるのですが画面で見るよりもはるかに大きく感じます。ライト級でも良いくらいの身体の厚みがあるのです。通常体重に戻った朝倉選手を牛久選手はより大きく、だからこそ牛久選手が下がってしまったし、気圧されたようにも見えました。
そして、デビュー戦の時のように飛び込んでのボディフック、ミドル、ハイキック。カウンターで相手を倒している朝倉選手の印象ですが、前に出て、武器である「身体の強さ」を利用した思い切った攻撃が持ち味でもある事を忘れてはいけません。事実、日沖戦、リオン武戦は前に出てキックと膝でKOしています。
格闘技経験者らしき観客が側に何人かいたのですが、彼らも「ああ、またか」と呟いていた牛久選手の何度となくトライした引き込み。ラバーガード狙いかと思ったのですがそこからの展開がなく、試合後のインタビューでも牛久選手は悔やんでいたように、3Rでは思い切って仕掛けるしか勝機はなかったように思います。
「格闘技王国・足立区」出身のファイターというだけで好感が持てる牛久選手です。次戦は斎藤裕選手の時のような、思い切った攻撃(斎藤戦ではテンカオ)がこの選手の長所だと思うので、是非そこを出してもらいたいものです。
●敗けても評価を上げた平本蓮選手
対戦相手の斉藤裕選手を初め、石渡伸太郎氏や朝倉海選手が平本選手の急成長ぶりについて触れていました。特にテイクダウンに対応する能力に驚愕のコメントが目立ちました。朝倉海選手は「化け物だね」。MMA五戦で、これだけの試合内容と評価は「平本幻想」とファンに言われ続けたそれを無くすどころか、次の試合が楽しみになるほどでした。
内容は「RIZIN初代フェザー級王者」齋藤裕選手がテイクダウンし壁レスで押し込む展開。ただMMAでは最も良くないとされる「背中をべったりマットにつける」という展開にはならず、国内トップクラスと言われる平本選手の立ち技の展開にもっていこうとしていました。
あくまで素人の感想ですが、空手スタイルの待ちに徹していたのは、弥益ドミネーター聡志選手にはハマったけれども、そこを研究した斎藤選手はテイクに徹底した作戦を採ったという、ベテランらしいテクニックに封じられた印象でした。2Rでは斎藤選手の意図が分かったいたと思うので、待ちから転じて自ら詰めていってもよかったと思います。
試合後、声を挙げて悔しがる平本選手。
けれども、考えてみてください。29日の主役だった朝倉選手は現・RIZINフェザー級王者クレベル選手に失神。メイウェザー氏(現役ではないので選手とは付けません)とはエキシビジョンとは言え、脳震盪でKO。そこから這い上がってきた朝倉選手。この気持ちの強さ。
平本選手は、いまだそこまでハッキリとした負け(KOや失神)はしていません。朝倉選手はプレッシャーをはねのけ、4.29でカムバック。斎藤裕選手もそうです。特に斎藤選手は連敗中という、相当なプレッシャーの中闘いました。引退がかかっていたと言ってもおかしくありません。そこをサバイブしました。
平本選手はわずか五試合しかMMAはこなしていません。「艱難辛苦は汝を玉にす」。あえて言葉で自らを負いこんでいく生き方を選択している24歳の選手に、そんな言葉が思い浮びました。
また、かつて「江戸時代の侍の斬り合いってこういうものだと思った」とK1時代にアップセットを起こしたゴンナパー戦を平本選手は振り返った事がありました。10代でこのような修羅場をくぐった選手もまた、寡聞です。敗けた平本選手の底力に数々の選手が驚愕したのは、この修羅場をくぐってきた体験と、幼少期から格闘技漬けで過ごした、本当に格闘技を愛する格闘家である資質を分かっているからなのではないかと感じた次第です。
それと金原正徳選手の強さについても触れておかなければなりません。この日本総合格闘界の「大物」が何と二試合目に登場。新鋭・山本空良選手との対戦。ゴングがなると同時に金原選手はセンターを取り、山本空良選手との距離戦を制します。この、開始数秒の動きで「金原選手の勝ちだな」と思ってしまいました。結果は金原選手が打撃、レスリングで圧倒し勝利。ウガール・ケラモフ選手との対戦を要望していましたが、朝倉未来選手とやっても面白いのかなと思いました。
最後にマイナス面(大会運営のせいではないが)も記しておきましょう。
僕はプレス席にいた訳ですが、近くの記者かライターかネット関係者が、初戦から試合半分まで、ずっとスマホを操作してました。試合結果をネット媒体に送っているのかと思っていましたが、ほぼ顔を上げていませんでした。すなわち試合を見ていないのです。それってどうなのか。
チケット開始数分で完売。実際に会場に行きたかったファンもいるはずです。それを運営が用意した席に座り、途中まで(RENAvsクレア・ロペス戦あたりまで)試合をほとんど見ていない。
ファンに失礼でしょう。
我々、プレスは大会運営の好意で席に座っている事を忘れてはならないでしょう。メディアが傲慢になってはいけません。
続いてマイナス面ではなく、SNSでの気になったやり取りを記してみます。ある元有名格闘家がSNS上で、ファンの方々に技術的ことや戦術的なことを批判的に言われ、「格闘技をやったこともない人に言われたくない」的なイライラツイートをしていました。
気持ちは分かります。ただ、反論も当然あり、最も多かったのが「あれこれ言いたくて俺たちはお金を払っているんだ」。そう、試合が終わってから仲間と居酒屋で、あるい一人でSNSで言いたがるのがファンというものです。確かに元格闘家の言うことも分かります。未経験者がプロに技術的なことをアドバイスするなんて、と。
例えれば大谷翔平選手に「もう少し、腕を下げたらスピードが出ますよ」と野球未経験者のファンがアドバイスするようなものなのかも知れません。もちろん、最低限の礼儀はSNS上でも必要です。また誹謗中傷の類も避けましょう。
ただ、プロである以上、ファンがいてこそ「プロ」と呼ばれる訳ですね。ファンがいないのならそれはアマ選手です。「プロは辛いよ」という映画のタイトル的なメンタルも必要になってくるのではないかと思います。
また、格闘技の人気が上がっているのではない。特定の選手だけ(朝倉未来選手など)の人気で盛り上がっているような見えるだけ。という批判もありました。要するに格闘技人口の底上げにはなっていない、と。意地悪い見方ですが一理あります。
というのを認めた上で、またも大谷翔平さんを例に出して申し訳ないのですが、前回のWBC視聴者で、野球を定期的に見ている人はどれだけいたでしょう。僕の肌感覚では、「野球は全くみないけれど朝の大谷選手の結果のニュースだけは見る」という人も相当数いたように思います。
格闘技も同様です、井上尚弥選手は見たい。けれどボクシングをいつも見ている訳ではない。朝倉未来選手を見たい。けれどベラトールって何?という人もいる。ただそれは「ブームの構造」でもあるのです。
つまり、格闘技に限ったことではく「ブーム」というものをとらえれば、「格闘技の本当の人気が定着しとは言えない」は確かでもありますが、それをマイナス要素に捉える必要はないと思われます。榊原代表も言っています。
「僕はトランプ元大統領みたいになりたいんだ」
「アントニオ猪木さんにインスパイアされている」とも言っていました。つまり、榊原代表はブームという「熱狂」を起こしたい「仕掛け人」を目指している訳です。
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なので、まずは総合格闘技の存在を世の中に知らしめるのが、第一段階。ネットだげでなく選手が地上波に出演する事も必要になってくるでしょう。
5月6日にRIZIN42が有明アリーナで開催。こちらも同じくWメイン。朝倉海vs元谷友貴と井上直樹vsフアン・アーチュレッタが組まれています。
https://jp.rizinff.com/_ct/17603552
RIZIN漬けのゴールデンウィークが始まりました―ー。(文@久田将義 写真@RIZIN FF)
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