武尊VSスーパーレック 格闘史に語り継がれる死闘 鬼神のごとく前進を止めなかった5R
TABLO / 2024年1月29日 16時30分
歴史に残る死闘だった。
いまだに、興奮が冷めやまない。1月28日「ONE」日本大会で開催された武尊VSスーパーレック(タイ)。試合はまさに死闘でした。
名勝負は数あれど、数十年にわたって語り継がれる死闘は、あまりありません(名勝負ではなく死闘、です)。
辰吉丈一郎vs薬師寺保栄、畑山隆則vs坂本博之、魔裟斗vs山本KID、桜庭和志vsホイス・グレイシー。などが極私的に歴史に残る死闘だと思っています。
もちろん、天心vs武尊、井上尚弥vsノニト・ドネア、パッキャオvsメイウェザーなど世紀の一戦は多々あります。ただ「心を撃つ闘い」というのは滅多に見られません。
格闘技には人を元気づける力があります。テレビでPRIDEやK-1が放映されていた時期は格闘技を知らない人でも、「魔裟斗やKID」という名称は知っていました。ただ残念なことに現在では格闘技の試合がボクシング以外(ネット配信に以降しつつあるが)、地上波から消えた現在、「格闘マニア」にしか届かなくなってしまいました。1.28武尊vsスーパーレックは本来は、格闘技好きでない一般層にも届く試合だったのです。残念です。
試合内容に入ります。戦前、関係者はだいたい、「スーパーレックの右ストレート、右ミドル、ロー、ハイが要注意」と言っていた気がます。その通りでしょう。ただ、スーパーレックの公開ミット打ちを見て、まず驚愕したのが左のジャブが長い点でした。右スレート、右ミドルの強烈さは織り込み済み。予想通りでした。ジャブが長いのは意外でした。
接近戦に持ち込み、代名詞ともなっている武尊選手のタイフーンのようなラッシュを仕掛けるには相性は最悪だったのかも知れません。実際、スーパーレック選手は長いジャブで足を止めさせて、右ロー。
これに徹していました。まさに、「キックボクシング」のお手本のような闘い方。
武尊選手だけでなく、近年の立ち技は「ボクシングキック」になっています。ただ、ムエタイはキックを多用しています。
武尊陣営は、長いジャブとキックの対策はしてこなかったのでしょうか。武尊選手も今はパンチで倒していますが、前回のフランス大会では左ハイで相手を倒していますし、もともとは左ミドル、左前蹴りを多用し相手を追い詰めていって、パンチのラッシュが勝ちパターンでした。天心戦もそうですが、最近は前足(左足)の攻撃はあまり出ていないように感じました。
また、武尊選手の新しい武器、カーフキックがあります。出ていてはいたものの、さらにしつこくカーフを蹴ってもよかったのかも知れません。
それと頭の位置が同じなので長いジャブを被弾する場面が何度も見られました。頭を振らないのならせめて、前手での攻防(パーリングなども含めて)をして欲しかったと思いますがいかかでしょう。
それでもついに、武尊選手の前進は3Rでスーパーレック選手をとらえます。得意のボディ打ちの連打。顔にも何発か入っていました。レフリーによっては、というよりボクシングの試合ならスタンディングダウンを取っていたかもしれません。キックの試合は比較的スタンディングは取らない傾向にあるように思います。ここからスーパーレック選手は口をあけて明らかに、疲れていましたし効いてもいたでしょう。それでもジャブ→ローのコンビネーションは止まりません。全ラウンドを通して、この攻撃に徹していたのを見ると作戦だったのかなと思います。「頭を振らない」「ローをカットしない」武尊選手という分析をしていたのかなと思うくらい徹底していました。ジャブを当て、ロー。時折フェイントを混ぜて右ストレート。
それでも武尊選手のファイティングスピリットは消えません。ゾーンに入ったときに見せる笑顔を浮かべ打ち合います。その鬼気迫る様子は武神のようでした。
結果は判定に入ります。リングアナのコール
「ニュー」か「スティル」か。
結果、「スティル」。スーパーレック選手はベルトを抱え、リングにうずくまります。武尊選手は顔をゆがめくやしさを隠しません。
リング上でのマイク。「人々の勇気を与えたかった。地震(能登半島)などで苦しんでいる人に僕が闘って勝って力を届けたかった」(趣旨)。何という崇高な精神。そして言葉をつづけます。「でもこれ以上(鍛えた)体を作れません」と涙します。SNSではこの発言を受けて「引退か」などと散見されましたが、とんでもない。実質、スーパーレック選手からスタンディングダウンを取ったファイトは健在だったではないですか。
闘い方を変えれば、まだまだいけます。マニー・パッキャオは左のストレート一本でしたが、フレディ・ローチとの出会いで右ジャブ、右フック、ステップ(ピポットターン?)を習得し、さらに勝ち続けていきました。
武尊選手は悔しいでしょうが、間違いなく観た人の心を撃つ試合をしました。そして名勝負として、また死闘として歴史に語り続けられるでしょう。
武尊選手、スーパーレック選手。そしてすべての「プロ格闘家」にリスペクトを込めて。格闘技は素晴らしい。(文@久田将義)
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