年末の海外旅行者は必見...前科があると入国拒否されるのか? 草下シンヤのちょっと裏ネタ

TABLO / 2013年12月16日 12時45分

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 今月、ボクシング元ヘビー級王者マイク・タイソン氏がイギリスへの入国を拒否されていたことがわかった。12月11日のMSN産経ニュースは次のように騒動の背景を報じている。

『タイソン氏は1992年に性的暴行で禁錮6年の判決を受けたほか、コカイン所持などでも有罪となっている。英国は昨年、過去に4年以上の禁錮刑を受けた人物の入国を一律で拒否する法改正を行っており、タイソン氏側は法改正に気付いていなかったという。』

 入国の基準は国によって異なるが、アジアやEUは比較的ゆるく、アメリカやイスラエルは非常に厳しいというのが旅行者の共通認識だった。犯罪歴のある人間にしてみれば、「自分がイミグレーションを通過できるかどうか」というのは大きな問題である。

 友達や家族と旅行したとき、イミグレーションで足止めを食らい、屈強な係官に囲まれて「ちょっと別室へ」などと言われたら目の前に緞帳が降りたような気分になるだろう。

 わたしのところにも「自分は傷害の犯罪歴があって今度タイに行くんですけど入国できますか?」などという相談が来ることが多い。入国に関する状況は流動的なのではっきりしたことは言えないが、ニュースなどで大々的に報じられた大事件でなければ、アジアへの入国は基本的には問題ない。

 EUも同じようなものだと思っていたが、前述のニュースのようにイギリスでは法改正が行われ、入国審査が厳しくなっている。今後、この法改正がEU全体にどのような影響を及ぼすか気になるところだ。

 今年の夏、わたしは男友達4人と連れ立ってサイパンに旅行に行った。鬱屈とした雰囲気の日本を離れて南の島で遊ぼうぜ!!! ってノリなわけで、出発前からみな異様にテンションが高かったのだが、Iという人物だけが少し浮かない顔をしていた。

 理由は簡単、Iには薬物による逮捕歴があったのだ。

「いやー、大丈夫だと思うんですけどね」

「まあ、大丈夫でしょ」

 Iの判決は執行猶予付きのものだった。しかも、すでに執行猶予期間は終了している。完全に大丈夫と言いたいところだったが、1つだけ懸念があった。

「だけど、草下さん、サイパンってアメリカの準州なんですよね」

 そうなのだ。

 小笠原諸島の南に位置するサイパンは自治権は認められているが、アメリカの準州扱いとなっている。アメリカといえば、9.11テロ後、入国審査が異常とも言えるほど厳しくなり、入国拒否が相次いでいることで有名である。Iは大丈夫なのか。

「今、アメリカに入るときはESTA(エスタ:電子渡航認証システム。事前にホームページで申請を行うことでビザを免除されるシステムのこと)を申請しなくちゃならないけど、サイパンはないでしょ。だから平気だよ」

「そ、そうですよね」

 3時間半の快適なフライトを終え、我々はサイパンに降り立った。

 むわっとした南国特有の空気に包まれ、我々の顔がほころぶ。反面、Iの顔はこわばる。Iを先頭の布陣にして、イミグレーションへと向かう。イミグレーションにはすでに十数人が順番待ちをしていた。

 順番が来た。わたしはIに告げる。

「行ってこい」

 Iは神妙な顔で頷く。

「俺だけ捕まっちゃったら、みんなで楽しんできてくださいね」

「おいおい、そんなこと言うなよ。みんなで遊ぼうぜ」

 お約束のやり取りをしてIがカウンターに向かった。我々はぎこちない表情で話しているIと係官のやり取りを固唾を呑んで窺う。とはいえ、わたしは楽観していた。5年ほど前に一度サイパンを訪れたことがあるが、ここはとても呑気でゆったりできる場所なのだ。イミグレーションで弾かれるなどというイメージが湧いてこない。

 しかし......。

 えええ!!!

 Iが機器に指を押し当て指紋を取られている。しかも、手を変えて念入りにすべての指紋を取られているようだ。Iの顔はこれまで以上に緊張している。というか、少し引きつっている。それでありながら、指紋採取の手際がいいのは、すでに日本で経験しているからだろうか。

 わたしの頭の中をさまざまなことがよぎった。

 以前、来たときは指紋の採取なんかなかったぞ。これはIだけに課せられたものなのか。Iの犯罪歴を見破られたのか。しかし、パスポートに犯罪歴の情報は記されていないはずだ。スノーデンか、スノーデンが暴露したNSAがすべての情報を収集していたというニュース。その情報がここサイパンまで流れているのか。しかし、小さな島国ニッポンのささいな事件までカバーしているのか。そんなにすごいのかNSAは、なあ、スノーデン、答えてくれよ、スノーデン!!!

 指紋を採り終えたあと、Iは写真撮影のようなものまで行っている。

 終わった。これ、完全に終わったよ。

 バイバイ、I。

 わたしは心の中でIに小さく手を振った。

 屈強な係官が現れ、Iは彼らに囲まれながら別室へ......行くかと思いきや、係官に笑顔を見せ、Iはイミグレーションを通過した。

 ん? どういうこと?

 Iは少し離れた位置からわたしたちに手を上げて答えた。よくわからないが、通過することができたようだ。他の入国者たちの姿を見ていると、Iと同様に指紋採取を行い、写真撮影を行っている。なるほど、これはIだけに行われた措置ではなく、新しく採用されたシステムのようだ。前回来たときはなかったから、すっかり焦っちまったぜ。しかも、心の中ではIにお別れまで告げてしまった。

 わたしの番になった。温厚そうな係官はわたしに尋ねる。

「サイパンは何度目?」

「二度目」

 係官が笑みを浮かべる。

「サイパンは好きか?」

「アイ・ラブ・サイパン」

 笑顔でイミグレを抜けた。

 Iが待っている。

 わたしは言った。

「だから大丈夫だって言っただろ」

Written by 草下シンヤ

Photo by Ricardo Bouyett

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