未解決事件ファイル:アメリカ炭疽菌事件と日本で続出した模倣犯
TABLO / 2013年12月23日 16時0分
2001年9月、アメリカ・フロリダ州の新聞社、アメリカン・メディア社に不審な封書が届けられた。社員らが開封すると、脅迫状のような文書と粉末状の物質が入っていた。その後、その場にいた3人が体調不良を訴え医師の診断を受けたところ、伝染性の病原体である炭疽菌に感染していることが判明。感染者の一人で同社の編集部員である男性は症状が悪化し、10月6日に死亡した。
そして9月25日、ニューヨークのテレビ局、NBC本社に男性キャスターあての封書が届いた。アシスタントの女性社員が開封したところ、やはり不審な入っていたため警察に通報。女性社員も10月12日未明に炭疽菌に感染していることがわかった。
このほかにもアメリカ国内の大手テレビ局や出版社などのメディア機関に同様の封書が届けられ、さらに上院議員の自宅にまで炭疽菌入りの封筒が送りつけられるという事態にまでなった。これら一連の郵便物によって、先のように1名が死亡、確認されただけで22名が炭疽菌に感染した。いわゆるアメリカ炭疽菌テロ事件である。
この前代未聞の「手紙テロ」はアメリカ犯罪史上でも特異かつ複雑なものである。とにかく、手紙という匿名性が極めて強いツールが使用されていたため、捜査は難航した。やがて、炭疽菌の入手ルートから犯人である可能性が高い人物が割り出されたものの、その人物は逮捕前の2008年8月1日に薬物を飲んで自殺。捜査当局は自殺した人物を犯人と断定したものの、決定的な証拠について不十分と指摘する意見もあり、事件の解決には疑問を投げかける声もある。
ちなみに、炭疽は牛や馬などの動物が主にかかる病気で、人にも感染し発症する。症状が進めば中毒死する病気で死亡率は最高で50パーセントにも及ぶが、日本では極めて少なく長い間感染例は報告されていない。
さて、この事件が起こった当時の2001年10月頃、日本国内で模倣する犯行が連続した。10月17日、東京の首相官邸や各報道機関に白い粉末が入った封書が送付され、大阪のアメリカ総領事館にも同様の封筒が届いた。大阪だけでもわずか一週間で30件以上もの不審な郵便物が発見された。
そのなかには、宛名も差出人も記されていない封筒が郵便ポスト内から見つかり、なかに白い粉が入っていたというケースもあった。そのほか、21日から22日にかけて、JR越後線や磐越西線の車内から白い粉末が見つかり、点検などによってダイヤが乱れた。11月に入ると、銀行などに同じような封筒が送られてきたケースも発生した。
こうした一連の不審な郵便物などで見つかった白い粉末は、専門機関で鑑定したところ、すべてが小麦粉や片栗粉、市販の入浴剤などで、炭疽菌のような病原性や毒性のあるものは皆無であった。つまり、すべて悪質ないたずらであると考えられた。
ところが、年末から翌2002年になると、この手口を恐喝やいやがらせに使うケースが現れたのだ。2001年11月28日には食品会社に「数千万円用意しろ。大変なことになるぞ」という脅迫状と白い粉の入った封筒が送付され、現金を受け取りにきた会社員の男が逮捕された。
また、長野県のある病院では10月末から11月末までに5回にわたって、5千万円を要求する脅迫状と白い粉の入った封筒が郵送され、さらに2階の脅迫電話や院内の待合室に置かれるといった事件が発生。捜査によって67歳無職女性が逮捕された。
翌年の1月にも、全国28自治体にある某都市銀行の32支店に白い粉入り封筒を送りつけた53歳の男が威力業務妨害の容疑で逮捕されている。過去に銀行が行ったことを逆恨みしての犯行だった。
郵便という手法が、極めて匿名性の高いものとなり得ることはすでに述べた。実際、いたずらとみなされる一連の事件では、逮捕例はひとつもない。もっとも、いかに悪質といっても、いたずら程度では日本の警察は本腰をあげないということもあるが。
だが、犯罪行為となると話は別である。そして、いかに郵便が匿名性があるといっても、恐喝などのような手段にはまったく無効である。現金を要求している時点で、すでに匿名性はまったく失われているからである。都銀32支店にいやがらせをした男の場合には、ターゲットと意思が明確になったことで、やはり匿名性が薄れてしまったということであろう。
いたずらにせよ脅迫にせよ、この一連の炭疽菌模倣郵送事件は、極めて底の浅い、くだらないものであった。だが、くだらないものであっても、人を混乱させ、あるいは犯罪行為となってしまうのである。下劣な行為でも無視できない。それが犯罪というものであることを思いださせる事件でもあった。
Written by 橋本玉泉
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