1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. 恋愛

【ショートストーリー】恋してみたら? 第26話 「あなた色の女(前編)」

KOIGAKU / 2014年5月29日 2時6分

あなた中心に生きる。
あなたが好きなものを 好きになる。
それのどこがいけないの?

20140529

 昨夜から煮込んだチキンカレーの寸胴を掻き回しながら、美絵は時計を見た。
10時。よっちゃんが食べたいっていうからチキンカレー作ったのに。

 自分で言うのもなんだけど、モテない方じゃないと思う。
割に知られてる企業の受付嬢になって早8年。
それでも新卒の後輩より、今年30才になった美絵を誘ってくる男性の方が多い。
知人を紹介したいと社長クラスの人に言われた事も1度や2度じゃない。でも。

 自分で言うのもなんだけど、尽くす方だと思う。
美絵に惹かれたり、誰かを紹介したいと言う男性は、大抵、
「気立てがいい」、「安らげる」、と言う。なのに。

 付き合っても長続きしないのだ。

 田舎から出て来たのは、都会で働いてみたかったからで、特にしたい事があったわけではない。
身体を動かすのは好きで、最初の元彼の影響でゴルフに夢中になったりはした。
彼を驚かせようとレッスンに通い上達した。誘われると何をおいても優先し、一緒にゴルフに行った。でも、だんだん誘われなくなった。
週末はいつだって空けていたのに。
好きになるのは彼の方。でも美絵が愛すると男性は背中を向けてしまう。

 河瀬さんの時だってそうだ。取引先の専務を通じ、美絵と付き合いたいと強く誘ってきた。
いろんな所へ連れて行って貰った。高級なレストランにも言ったし、美術館や難しい芝居も観た。
困ったのは必ず感想を話したがることで、美絵は絵にも芝居にも興味がなかったから、何を言っていいかわからなかった。でも好きになるよう努力した。
「本を読んだ方がいい」と言われて、河瀬さんの部屋にある本も読んだ。
 ところがある日、帰ってきた河瀬さんに、
「今日もいたんだ」と疲れた顔で言われた。
いつ来てもいいよ、と言っていたのに。
最初に料理を作って待ってた時は、あんなに喜んでくれたのに。

 バツイチ41才のよっちゃんこと大野芳明とは、婚活パーティで知り合った。
10才年上のよっちゃんは、美絵をとても大事にしてくれた。印刷会社を経営する彼は、時間の融通がきく。
会社まで車で迎えに来てくれたり、週末旅行のサプライズもしてくれた。
 ある日、「手料理が食べたい」と言われ、部屋へ招いた。
三度目に招いた時、合い鍵を渡すと、食事はいつも部屋になり、ほとんど出掛けなくなった。
 よっちゃんは、夜中に突然来たり、美絵が帰るとベッドで眠っていたりする。びっくりするけど、それはそれで嬉しかった。
夜中にコトリと音がすると、美絵は「よっちゃんかな」と飛び起きる。
疲れていても、非常識な時間でも、お腹が減っているなら夜食を作ってあげたい。自分は飲まないお酒だって、たくさん買い置きしておいた。
 ・・・が、いつしか、二人の将来についての話が逸らされるようになり、ふと気づくと、よっちゃんは前ほど部屋に来なくなっていた。

 「明日行くかも。チキンカレー食べたい」
短いメールが来たのは昨日の事だ。10日ぶりだろうか。
だから美絵は昨日の残業後に買い物をし、睡眠時間を削ってカレーを作った。
チキンを前日から煮込まないと美味しくないから。

 ・・・10時を過ぎてもよっちゃんは現れない。連絡もない。
 カレーは完成した。掃除もした。彼のパジャマは洗濯してふわふわだ。
なのに、このままよっちゃんが来なかったらどうしたらいいんだろう。
彼の為にする以外なに一つ、する事も、したい事もないのに気づいて、美絵は途方に暮れた。

                                 (後編につづく)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください