【ショートストーリー】恋してみたら? 第29話 「三姉妹 ②」
KOIGAKU / 2014年6月19日 2時0分
“私しか見ていない彼”
“当たり前のようにいる彼”が
退屈に思えて仕方なくなったーーー
“お見合い、そろそろ終わった頃かな?”・・・
パートの休憩時間、真理子は携帯をチェックする。
まだ妹の恭子からメールはなく、来ていたのは姉の文子から。
『まだお見合いの報告ないよね?今週ランチどう?時間あったら電話して』
恭子の話題のすぐあとに、ランチの予定を尋ねるあたりが文子らしい。
『連絡は私にもまだ来てない。今週は毎日パートなの。来週あたり三人で会えるといいけどね。今は電話無理。』
持参のおにぎりを食べながら、急いで返信する。
レジ打ちの休憩時間は30分。トイレにも行きたいし、歯を磨いて口紅くらいは塗り直す。長電話好きのセレブ主婦と電話などする暇はない。
連絡がないという事はお見合いがうまくいき、話が弾んでいるということか?それとも、ダメだったと言うのが面倒でしてこないのか?
“たぶん後者よね。恭ちゃん、まだ川原さんの事が好きなんだもの。”
「スンナリ好きな人と結婚できたお姉さんたちには分からないのよ!」
いつか涙を流して抗議した恭子を思い出す。
スンナリ、か。
文子はともかく、一つ違いの自分は、ちっともスンナリなんかじゃなかった事を打ち明けてやれば、妹の気持ちが少しは楽になるだろうか。
夫の忠志とは学生時代合コンで知り合った。
いわゆるイケメンだったし、気も合った。運命の人だと思った。
どこへ行くにも一緒、休みの日は必ず一緒に過ごした。
だが、卒業してOLになり、結婚という文字がちらつき始めた頃、“私しか見ていない彼”、“当たり前のようにいる彼”が退屈に思えて仕方なくなった。
婚活パーティに参加したのはそんな時だ。文子や恭子が知ったら驚くに違いない。しかも真理子が、そこで知り合った男性と付き合ったなんて知ったら・・・。
7才年上の崎本は起業家で、忠志より数段大人の男性だった。
デートはいつも素敵なお店に連れて行ってくれたし、何より、知識が豊富で話を聞いているだけで、知らない世界を垣間見る事が出来た。
文子はいつも川原を批判するが、実は真理子には、妹が彼に惹かれた気持ちが分かる。言いはしないけれど。
でも・・・結局真理子は忠志を選んだ。
あの時、真理子の心が離れかけていると気づいた忠志といったら・・・。
今でも甘い痛みを伴って思い出す。
立て続けてに来たメール。ずらりと並んだ着信履歴。 受話器から聞こえてきた切ない叫び。
雨の夜の待ち伏せ。打たれた頬の痛み。初めてみた彼の涙ーーー
平穏に付き合ってきた5年間ではなく、あの数ヶ月が、忠志との本当の恋愛期間だったのだなと今は思う。
“だからね、恭ちゃん・・・”
真理子は妹に言ってやりたくて仕方ない。
“やみくもにお見合いしろって言ってるわけじゃないの。私が言いたいのは、他の男性とも付き合ってみなきゃ、他の世界も知らなきゃ、彼の本当の気持ちだって分からないってこと”
こんな理屈、姉の文子には分かって貰えそうもないし、川原は結婚しているから、本当の気持ちなんて言葉が通用するのか分からないけど・・・
休憩時間はあと5分。
今日は海老フライが特売だから、帰りに買って帰ろう、なんて思いながら三角巾を付け直す。
“もし崎本さんと結婚してたらパートなんかしてなかったかな”・・・ふと、そんな事を考えた。
恭子からの連絡は、まだこない。
(つづく)
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