【大人恋学ストーリー】恋と罪 第1話 「恋人ごっこ②」

恋学 / 2014年7月16日 14時11分

好きになればなるほど傷つく
それが分かっていて終われない
新しい傷を求めるように
彼を求める気持ちを止められない

20140716

 修也の腰は細い。抱いた腕の中からすり抜けてしまう程に。
駄々っ子みたい・・・真由子は、ふと、思う。
思いをぶつけるような激しい抱き方が、きかん坊の少年に感じられて。

 頼りがいのある上司――――それだけだった。
デスクに飾られた、奥さんや赤ちゃんの写真だって、微笑ましく見ていたのに。
 仕事の相談に乗ってくれた帰り道、路上で抱き合った。
遊びだったはず。
あの夜のことも、冗談にしてしまおうと思っていたのに。
 メールは犬飼さんの方からだった。
熱心にデートに誘ったのも彼。
それが真由子からになり、
返信も、デートの回数も、思いの半分も聞き届けられなくなった頃、
犬飼さんから離れられなくなっていた。
 好きになればなるほど傷つく。それが分かっていて終われない。
新しい傷を求めるように、彼を求める気持ちを止められない。

 修也の指は繊細だ。長い睫、そこだけ男っぽい喉仏、柔らかい唇も、犬飼さんとは全然違う。
しなやかに動く身体を受け止めながら、夢中になれない。
比べずにいられない自分が悲しい。

 今日、犬飼さんの家に行った。
夕方なのに洗濯物が出しっぱなし。
身体の弱い奥さんだから仕方ないんだろうか。
飼い犬に、「ココア!」って呼んだら吠えられた。
5才、名前はお嬢さんがつけた・・・なんだって知っている。
私なら庭に花を植える。
洗濯物は明るいうちに取り込むし、玄関にゴミなんか置いておかない。
ココアとだって、すぐに仲良くなれる。
 背伸びして覗くと、病気の筈の奥さんが友達とお茶を飲んでいた。

 バッグの中で携帯が鳴った。
犬飼さん専用の着信メロディは、眠っていても、修也と抱き合っていても、聞こえるほど最大にしてある。
「もしもし・・・大丈夫。うん、うん、そう。だって・・・ゴメンナサイ。・・・わかってる。でもだって・・・行けるよ。うん、リョーカイ」
動揺してる犬飼さんの声が好き。

 コートを羽織って振り返ると、
修ちゃんはベッドで膝を抱えたまま、すごく悲しい目で私を見た。
傷ついた少年――――思わず戻って小さい頭を抱きしめたくなる。
わかってる。犬飼さんは仕方なく会ってくれるんだ。
お家の写メを送ったから。怒って早口になって、電話して来たんだ・・・

 修ちゃんの裸の身体が、涙みたいな汗で光ってる。
「行くなよ」
小さいつぶやきが背中に突き刺さった。
私だってここにいたい。
ここにいて、修ちゃんの優しい匂いに包まれていたい。でもね、
「修ちゃん、恋人ごっこと恋人は違うんだ」

 真由子はドアを閉めて歩き出した。今夜もまた、新しく傷つくために。

                          「恋人ごっこ」終わり

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