映画「東京の日」から分析する、草食系男子の生態
KOIGAKU / 2015年11月1日 11時30分
「別に……そういうわけじゃないんだけど」
そんな台詞が似合ってしまう曖昧な青年、本田君は典型的な『草食系男子』。そして、本田君とひょんなことから知り合い、一緒に住むことになるアカリは、何事にも一直線なオンナ。
性格が真逆な二人の運命が重なり合う時、そこに生まれるのは恋か、ケンカか……それとも?
映画「東京の日」に描かれる主人公の本田君は、とてもリアルで、つい誰かの影を重ねてしまうほど生々しい存在感を放っています。アカリや彼の周りにいる女性たちの台詞を、そのまま自分の言葉として反芻したくなる人も多いはず。「あぁ、こんな人いるいる」「本田君って、あの人に似てる」なんて思うに違いありません。
公開日を間近に控えた10月某日、東京五反田では、池田千尋監督と本田君を演じた佐々木大介さん、恋愛学者ともいわれる早稲田大学教授の森川友義さんによる、「東京の日」から草食系男子をひも解くトークイベントが行われました。
今回は、その一部をご紹介したいと思います。
©東京の日
恋愛学者が定義する草食系男子
森川教授によると、本田君のような草食系男子の特徴は5つあるそうです。また、これらをめぐって、興味深いトークが繰り広げられました。
- 1.見かけはそこそこ
- 2.自分がない。自信がない。夢がない。
- 3.男らしくない。
- 4.すぐに謝る。
- 5.面倒くさがり屋
監督:実は、脚本を書くとき、一番参考にしたのは佐々木君なんです。私、本田君がわからなすぎて、「佐々木君、どうなの? こういう時どうするの?」って話を延々して、そこからもらったヒントを映画の中に散りばめているんです。本人の持っているものを映画の中に持ってきちゃおうと考えました。
森川教授:でも、そしたらボクの草食男子分析って、佐々木君批判になっていません?
監督:(苦笑)あ、フィクションもちゃんと入ってますよ。
森川教授:二番目の特徴「自分がない。自信がない。夢がない」って、まさに本田君ですよね。上京してきて何も成し遂げていない状態。過去にも生きてなくて、未来にも生きてなくて、現在だけに生きている。これが映画には色濃く出ていたと思います。
監督:私にとっては、そこが本田君を描く上で一番わからない部分だったんですよ。意味がわからない。映画というか、物語を語る上では、たとえば夢があって、それに向かうにあたって障壁を乗り越えるとかして、初めてドラマが生まれるんですよ。
なので、彼について描く時の難しさって、そこにあったんですよね。「目標がない」ていう。ただ、私の分析では、何もないように見えて何も語らないんだけど、でも何かはあると思うんです。
森川教授:この映画の見せどころって、そこですよね。何もない本田君が変わる、ていう。
佐々木さん:そうですね。変わっていきますね。
森川教授:佐々木さん自身は、俳優になる前、別のお仕事されてたりしてたんですか?
佐々木さん:僕は、美容師の専門学校に入るために上京して、でもあれよあれよという間に道はそれていって。気づいたら俳優になってました。免許は取ったんですけど、美容師にはなってないし、俳優も……自分で強い意志を持ってなりたいと始めたわけではないので、「自分がない」と言われると、ちょっと身につまされる思いがしますね。(笑)
©東京の日
草食男子は「すぐ謝る」
森川教授:映画の中で本田君もやたら謝ってますけど、草食系は他人と対峙することができないんでしょうね。
監督:コミュニケーションっていうよりも、責任を持つのがイヤなんじゃないですかね。ゴメンって言っちゃえば済む、ていう。男性でこういう考えを持つ方って、とても多くないですか? 私は、「なんでゴメンって言ったの? 謝れば済むと思ってるでしょ」て、突き詰めてしまうタイプだから、そういうのはイライラしちゃいますね。
佐々木さん:(苦笑)まあ、ちゃんとした理由があった方がいいですよね。謝る理由ってものが。
監督:わかってるんですよ。人間ってホント、すぐゴメンって言っちゃうものだから。それはそうなんですけどね。(笑)
「言わなきゃダメ?」
監督:アカリに問い詰められるシーンで、本田君は「言わなきゃダメ?」て言うんですけど、それは私がホントに言われたことがあって。アカリの苛立ちを爆発させるための台詞ですね。
問い詰める側からしたら、何か言ってほしいことがあるんですよ。なのに「言わなきゃダメ?」って返しちゃう彼って、実はすごく切羽詰まってるんですよね。心に余裕がなくなって、普段だったら「別に」「そういうわけじゃないんだけど」とか言えるのに、それがない感じ。
佐々木さん:そうですね。あれはアカリに対して攻撃的でした。これから100%あなたが傷つくことを言うかもしれないですよ、ていう。怖いですね。怖い台詞でした。
監督:怖い台詞は多いかもしれない。女性にとっても、男性にとっても。スタッフに70代のベテランの男性がいて、「いるよな、こういうオンナ。コワい」って言ってましたから。この映画、本田君がダメな男の子ですけど、アカリもダメなコなんですよね。両方のダメさが出てる作品かな、て思いますね。
森川教授:そうですね。すごくリアルで、なんか知り合いの恋バナを間近で聞いてるような感覚でしたね。
生々しい男と女のリアルが描かれる「東京の日」には、誰もが錯覚を起こすかもしれません。本田君と彼を取り巻く女性たちのやり取りに、つい自分や愛した人の姿を重ねてしまうのです。
人と接することを重く考えるからこそ、軽くなる、突き放してしまう。人を受け入れることと愛することの違い。色々と気づかせてくれる映画だと思いました。
「東京の日」10月31日より、全国順次ロードショー。
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