「裁判所襲撃は国民の抵抗権」…その主張の正当性と限界 [韓国記者コラム]
KOREA WAVE / 2025年1月21日 16時30分
【KOREA WAVE】韓国のユン・ソンニョル(尹錫悦)大統領の拘束令状が発行された直後、ソウル西部地裁に支持者らが乱入し、建物や設備を壊した事件は、韓国の憲政史上前例のない「法廷襲撃」として大きな波紋を呼んでいる。
事件当日、保守系団体のリーダーであるチョン・グァンフン牧師は「国民の抵抗権は憲法にある」と主張し、さらには「国民の抵抗権を発動してユン大統領を拘置所から解放できる」と発言した。
これに対し、一部では抵抗権の正当性をめぐる議論が巻き起こっている。
韓国の憲法には抵抗権が明示されていない。大法院(最高裁)は1980年、「抵抗権は自然法上の概念であり、実定法に基づかない限り、裁判規範として適用できない」と判示している。一方、学界では憲法第10条や第37条第1項の規定が抵抗権を間接的に認めているとの解釈もあるが、法的安定性を損なう可能性があるため、濫用が懸念される。
さらに1997年の憲法裁判所判例は、抵抗権について「国家権力による基本権侵害が重大かつ合憲的な手段で解決不能な場合に限り、国民が実力を行使する権利」と定義している。この定義に基づけば、今回の地裁襲撃を正当な抵抗権行使と見なすことは困難だ。拘束令状発行に対しては、合法的な手段として拘束適否審査や保釈請求、上訴などが可能であり、暴力による対応が必要不可欠であったとは言えないからだ。
韓国の現代史においても、抵抗権が行使されたのは主に独裁や内乱勢力に対する抗議であり、国家権力を擁護するための行為が抵抗権として主張された例はない。今回の事件は、抵抗権を用いてユン大統領を擁護しようとする試みが、歴史的にも法的にも正当性を欠いていることを示している。
一方で、チョン牧師側は「暴力を教唆したものではない」として、襲撃行為との関連性を否定している。しかし、襲撃現場で掲げられた太極旗や星条旗は、チョン牧師が率いる保守団体の象徴と一致しており、その偶然性には疑問が残る。
暴力的な襲撃が引き起こした今回の事態は、国民の基本権や法治主義のあり方について、改めて議論を深める契機となり得るだろう。【news1 チョン・ユンミ記者】
(c)news1/KOREA WAVE/AFPBB News
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