【特集】障害者支援施設の利用者契約解除から1年 問題長期化…高松市が関係者への聴取開始
KSB瀬戸内海放送 / 2024年9月9日 19時21分
高松市の障害者支援施設で職員の大量退職を理由に利用者9人が契約を解除されてから9日で1年です。
利用者らが利用の継続などを求めて裁判を起こす一方、市の指導監査を受けていた施設の運営法人が第三者調査委員会を解散するなど問題は長期化しています。
(契約解除された利用者の父/藤岡幸弘さん [60])
「焦り・不安、両方ありますよね。僕も年を取っていきますので、一刻も早く、きちんとした所に、きちんとした形で入れてやりたい。生活をさせてあげたいというのはある」
(契約解除された利用者の父/岩部雅人さん [70])
「子どものことも自分の生活のことも気にはなりますけど、それ以上に何とかしないといけないなと、そういう1年だった」
職員の大量退職で利用者9人の契約解除
高松市三谷町にある知的障害者の入所施設「ウインドヒル」。親が亡くなった後も自閉症の人たちが安心して暮らせるよう、保護者らが寄付金を出し合い2004年に開設しました。2023年9月までは自閉症と診断された重度の知的障害者を中心に47人が利用していましたが、2023年6月から7月にかけて職員全体の約3割に当たる11人が退職。
施設は「安全を確保できない」として定員を36人に変更し、利用者9人を指名して2023年9月9日付で契約を解除。その後1人が亡くなりました。契約解除された利用者の多くが入所15年以上と、長年の居場所となっていました。
契約解除された利用者は今
契約を解除された8人は、現在、日中のみ通所施設を利用しています。
うち4人が2023年11月から通っている高松市林町の「ルシエル」は、ウインドヒルでの契約解除について聞いた社会福祉法人が新たに開設した施設です。
当初は施設内で作業をして過ごすことが多かったそうですが、夏ごろからは、ドライブやハイキングなど週に2日ほど外出できるようになりました。
(ルシエル 支援員/村川文生さん)
「例えばドライブ行くにしても(環境の変化が苦手で)最初はなかなか行けなかった。ところが今は、道順が変わってもニコニコして一緒に行けたり、現地で降りて状態のいい時は一緒に歩いたり、広い海沿いとか行けるようになりました」
活動の幅が広がる一方、長年生活していた「ウインドヒルがいい」という意思表示をして、ルシエルを休みたがる利用者もいるといいます。
(ルシエル 支援員/村川文生さん)
「環境とか今の活動内容はいいはずなんですけど、まだ戻りたいという方がいて、そこがちょっと悩んでいるところです」
利用の継続などを求め提訴
2024年6月、契約を解除された8人が利用の継続と補償を、亡くなった1人の両親が補償を求め、高松地裁に訴えを起こしました。
(原告側の代理人/菊池昌晴 弁護士)
「人員が足りなくなったからといって、利用者さんを放り出すと、利用契約を解除して放り出すと。そんなことがあっていいのか」
(契約解除された利用者の父/岩部雅人さん [70])
「一刻も早く、(子どもを)元に戻したいとそれしかないです」
利用者らは、この提訴の前、緊急性が高い事案について暫定的な措置を求める「仮処分」を高松地裁に申し立てていましたが、「職員が減少した現状では利用者を47人としたままで運営するのは困難」として2024年3月に却下。この決定を不服とした即時抗告も8月6日、高松高裁が棄却しました。
施設の運営法人は第三者委員会を解散
「ウインドヒル」を巡っては、パワーハラスメントなどについての内部告発が相次いだことなどから、高松市が2020年4月から無期限の特別指導監査を行っています。
施設の運営法人は2022年8月に市の求めに応じて第三者調査委員会を設置し調べを進めていましたが、2024年3月、結論が出る前に委員会を解散しました。
(高松市/大西秀人市長[6月定例高松市議会の答弁])
「一方的に内部調査を中止したことは誠に遺憾に存じております」
6月市議会の一般質問で市は「遺憾」の意を示しましたが、法人と第三者調査委員会の契約については介入できないとしています。
高松市が関係者へのヒアリング開始
(記者)
「9月9日で利用者の契約解除から1年になります。現状の受け止めは?」
(高松市/大西秀人 市長)
「こう言っちゃなんですけど、動きがない。大きな動きがない状況でございますけれども、あくまで利用者本位でものごとを考えていきながら、両者(契約解除された利用者側と法人側)の接点を見出していきたい。利用者の契約解除の原因となったところを施設側のいろんな行動、パワハラ等々も含めて、そういうものがあったということが理由でしたので、それをきちっと事実を確定して是正をしなきゃいけないということで、市が指導して第三者委員会を作ったのですが、それを法人側が解散してしまったということでございましたので、それをまた一から進めなきゃならない状況。従いまして、本訴訟は本訴訟としてやられておりますけれども、市の特別指導監査の権限において、調査・体制の整備を進めていく。それは並行してやると思っております」
高松市は、この段階に至って施設で起きたことについて自ら事実認定をしていくことにし、運営法人の幹部や保護者、元職員へのヒアリングを始めました。
第三者調査委員会のヒアリングに対して資料をまとめ、2022年10月に回答していた保護者は落胆の色を隠せません。
(契約解除された利用者の父/岩部雅人さん [70])
「また元へ戻ってしまった」
(契約解除された利用者の父/藤岡幸弘さん [60])
「一から? というふうに思いました。またヒアリング? っていうのは、もうヒアリングは終わってるものだと思ってたので」
専門家「不正・不祥事を見過ごさない監査を」
さいたま市の障害者福祉の施策に20年以上関わってきた専門家は……。
(元埼玉大学准教授/宗澤忠雄さん)
「今更である調査にどのような特別な工夫をして事実に迫ろうとするのか。通り一遍のことだけ調査して言い訳をするときの常とう句が『行政による監査は捜査ではないのだ』と。『だから幹部職員の理事長とか施設長が文書を出してきて説明したことをそのまま受け取るしかない』という言い分で、これまで山のような社会福祉法人の不正であるとか不祥事が見過ごされてきた。それと同じ轍を踏まない特別指導監査を実施する、そのことを高松市、とりわけ市長は明言する必要があると考えます」
宗澤さんは、市は理事会や評議員会の議事録をつぶさに点検し、内容に間違いがないか理事や評議員に確認することもポイントだと話しました。
高松市による特別指導監査の開始から約4年半。そして、利用者の契約解除から1年。保護者たちは事態の動かなさにもどかしさも抱えつつ、今は高松市の調査に期待するしかない状況です。
(契約解除された利用者の父/岩部雅人さん [70])
「裁判ってどれだけ時間がかかるかわからないので、今は高松市の調査に、ヒアリングに協力していくことが必要かなと」
(契約解除された利用者の父/藤岡幸弘さん [60])
「契約解除から1年で、何をしていたのかなという憤りはすごくあります。ただ、憤りばかりでは先に進まないし、何かをしてなかったら動かない。その一歩として高松市がヒアリングしていただくというのは非常に期待感はあります」
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