【解説】船の体育館の解体 再検討を求める建築家らの新たな活動 香川
KSB瀬戸内海放送 / 2025年1月22日 17時50分
世界的な建築家、丹下健三が設計した「船の体育館」こと旧香川県立体育館についてお伝えします。
県は、老朽化のため解体の方針を決めていますが、地元の建築家らが一旦立ち止まって再検討するよう求め、新たな活動を行っています。
高松市峰山町にある建築設計事務所。建築家として住宅や店舗などの設計に携わる長田慶太さん(49)です。
高松市中心部の住宅街の一角に生い茂る木々。よく見ると、波打つような形の白壁に茶色の扉が……。長田さんが手掛けた集合住宅「宮脇町ぐりんど」です。
傾斜30度ほどの山の斜面を5段の層にして長屋を連ねた斬新な建物で、グッドデザイン賞をはじめ、多くの賞を受賞しました。その土地を見つめ、「環境や人と共存できる設計」を目指しています。
海外の有名な建築物も多く見てきた長田さんが他では味わえない独特さがあると感じたのが、1964年に完成した旧香川県立体育館です。
柱がない大空間を実現するためケーブルで屋根をつるしたつり屋根構造で、「船の体育館」の愛称で親しまれてきましたが、耐震性に問題があるとして2014年に閉館となり、2023年、県が解体の方針を示しました。
(建築家/長田慶太さん)
「あの時(建設当時)に目指した民主主義の強さみたいなのをすごく体現しようとした勢いみたいなのがあそこには(あって)。建築家としての職責としてこのまま何も言わずに壊されていく姿を見たくなかった」
船の体育館を「デザインミュージアム」へ
長田さんら建築家が中心となって立ち上げたのが「KAGAWA DESIGN FOUNDATION 準備室」。
船の体育館を保存し、「デザインミュージアム」に生まれ変わらせること。そのための財団設立を目指しています。
(記者)
「船の体育館は丹下健三の設計で有名ですが、南北に配置された石の庭は、石の彫刻家、和泉正敏が手掛けたものです」
和泉正敏は、世界的に活躍した彫刻家イサム・ノグチの制作を四半世紀にわたり支え、現在の高松市牟礼町にイサム・ノグチ庭園美術館をオープンさせました。
自身も国内外に多くの作品を手掛けましたが、船の体育館の石庭は、デビュー作だと言われています。
また体育館1階のロビーには、こちらも世界的なインテリアデザイナー、剣持勇による椅子などの家具が置かれていました。
香川県庁舎と旧県立体育館の設計を丹下健三に依頼したのが「デザイン知事」とも呼ばれた金子正則知事。
2人をつないだのが金子知事の旧制中学の先輩で画家の猪熊弦一郎でした。
また、金子知事と、彫刻家・流政之が世話人となり工芸デザインの近代化に取り組んだグループ「讃岐民具連」には、画家の和田邦坊や家具デザイナーのジョージ・ナカシマなどそうそうたるメンバーが名を連ねていました。
12月、高松市で講演した建築家の安藤忠雄さんも「香川は文化都市」だと話しました。
(建築家/安藤忠雄さん)
「元々金子知事という人がいて、丹下(健三)先生がいくつかの建物を造ってますが、猪熊さんとかイサム・ノグチとか(作品が)いろいろあるじゃないですか。こんなに文化が集まってる街はないんですよ」
しかし、それぞれの作品などは香川県内に点在していて、当時彼らにつながりがあったことは、県民にもあまり知られていません。
そこで、船の体育館を「デザインミュージアム」にしてそれらを集約させようというのが長田さんたちの構想です。
解体にも10億円かかることが明らかに
同じ高松市の建築家、河西範幸さんらが体育館の保存や再生を目指す「船の体育館再生の会」の活動に、これまで長田さんは直接関わってきませんでした。
なぜこのタイミングになって動き出したのか……?
きっかけは、2024年6月。
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「解体工事費用につきましては、現段階では10億円程度を要するものと考えております」
県教委は、解体工事の実施設計の結果、解体費用が概算で10億円程度かかる見通しを明らかにしました。
香川県は2013年度、県立体育館の耐震改修工事の一般競争入札を3度行いましたが、いずれも応札者がなく、改修を断念しました。3回目の入札の予定価格は8億1400万円余りでした。
(建築家/長田慶太さん)
「(改修)10億円対(解体)10億円。耐震改修も多分10億ではできませんけど、10億だろうが、それが20億だろうが、解体にも10億かかるという事実が出てきたというのが、やっぱり議論として初めてテーブルに載せられる瞬間だったと僕は思って」
2024年11月、長田さんらは、香川県議会議員の仲介で県教委の保健体育課を訪ね、民間と一緒に再度、体育館再生の道を探れないか提案しました。
(建築家/長田慶太さん)
「きちんと話を聞いていただけたのかなと思いますね。淀谷教育長のほうにも話はあげてくれるようですけど。一緒におられた(同行してくれた)議員さんのほうが消極的というか、それは結構びっくりしましたけど。『もう時間がない』『遅い』、そんなことあるのかなと思いながら話してましたけど」
池田知事「改めての検討は考えていない」
他にも複数の県議にアプローチし、たどり着いたのが立憲・市民派ネットの植田真紀議員。議会で知事に船の体育館の解体を再検討する考えを質問してほしいと頼みました。
(建築家/長田慶太さん)
「なぜ解体に突き進まないといけない理由があって、なぜそれが議会で議論されなかったのか。一回立ち止まってほしいというか。別にノスタルジーで『解体反対』と僕は言いよるわけではなくて、大事なものをちゃんともう一回(議論の)テーブルに……」
12月の県議会一般質問。長田さんらも傍聴に訪れました。
(立憲・市民派ネット/植田真紀 議員)
「解体費用10億円という概算が出た今こそ、一旦立ち止まって県民や有識者も交えての検討を行ってからでも遅くないと考えます。知事のお考えをお答えください」
これに対し、池田知事は耐震改修には、解体費用を大きく上回る多額の費用が想定されることや大規模地震の際、倒壊などによる影響が懸念されることを挙げ……
(香川県/池田豊人 知事)
「民間の事業者などから提案を求める機会を改めて設けることや、有識者などを交えた改めての検討を行うことは考えておりません」
傍聴した長田さんは……
(建築家/長田慶太さん)
「別に有識者を集めて検討会議をして(解体費)10億の妥当性を判断することに何のちゅうちょがあるのか。なぜちゅうちょしなきゃいけないのか。そこら辺も全く読み取れませんでしたね。思考停止みたいな状態が議会の中で生まれていったんだろうなという感じはきょう見ててしましたけど」
3回目の入札不調で耐震改修工事を断念した際の予定価格が約8.1億円で、解体費用の概算が10億円程度。
どうせ税金を使うのであれば解体にかかる10億円を保存・改修のために使えないかというのが長田さんたちの主張です。
一方、2024年11月定例議会で池田知事は改修断念後に業者に行ったヒアリングやその後の物価上昇などを加味すると、2020年度時点で、耐震改修費用は18億円が見込まれていたことを明らかにしました。
しかし、入札不調となった耐震改修案を分析すると、もっと簡単に、低い価格で改修できた可能性があったことが分かりました。
耐震改修案には3つの問題点が…
12月下旬、長田さんらが分析したのは、県が発注して2013年に作成された体育館の耐震改修案です。「船の体育館再生の会」が2020年に情報公開請求して入手していたものです。
長田さんらが指摘する問題点は大きく3つ。
1つ目は、必要とされる「耐震性能」を大きく上回り、防災拠点にできるレベルの改修プランになっているため補強するための壁の量を減らせる可能性があること。
また、液状化対策として建物の周囲に200本近い杭を打ち込む案が出されていましたが……
(建築家/長田慶太さん)
「このために2億円を超えるお金(予算見積もり)がここにつぎ込まれてますけど、実際は液状化を止めればいいんですよ。液状化を止めるといったら、表層改良とか液状化が起こる範囲に地下壁と言って囲ってしまう方法とかもっと簡素な方法を検討できたはずだろうと」
さらに、劣化したつり屋根の補強に非常に難易度が高い工法が示されていて、改修工事の入札の際高いハードルになったとみられます。
(建築家/長田慶太さん)
「(有識者会議など)第三者委員会を一つ設立するだけで。みんなの意見を集積できれば、多分これはすぐわかったことだと思います」
1月16日の定例記者会見で淀谷教育長に、解体にかかる費用を活用して再生を検討する意向を改めて問うと……
(香川県教育委員会/淀谷圭三郎 教育長)
「これは私の認識は、組織として決定したものを、いちいちその……いちいちというか、団体意思を決定する手続きに乗せてきたものでありますので、よほどの事情変更というかそういうことがない限りですね、その方針を動かすというのは手続き的におかしいんじゃないかという思いがありますので」
「PFI」で再生を目指す
戦後モダニズム建築の巨匠・坂倉準三が設計し、船の体育館と同じ1964年に完成した三重県伊賀市の旧上野市庁舎。
民間の資金やノウハウを活用し、官民連携で観光活性化を目指す「PFI事業」として図書館やカフェ、宿泊施設を備えた複合施設に生まれ変わり、2025年夏以降、順次オープン予定です。
長田さんらは現在、同じように県にPFIに向けた協定締結を一緒に申し入れてくれる企業を探しています。
(建築家/長田慶太さん)
「断られた企業ももちろんあるし、今前向きに動き出してくれそうな企業もあるんは事実なんですけど。県がじゃあこの企業と一緒に残すように頑張ってみようと思うかどうかっていうのは今はまだ未知数ですけど、何か一つ、何かを投げ掛けたいなと」
2月発表される新年度当初予算案に解体工事費用を計上するかについて淀谷教育長は「現時点ではそれも含めて調整中としか言えない」としています。
長田さんらは、このまま解体の予算案が可決されたとしても解体工事の入札が行われ、予算が執行されるまであきらめずに働き掛けたいとしています。
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