わずか3車に託された軽バン業界 再編された軽4ナンバー車の内情とは?
くるまのニュース / 2018年8月14日 7時10分
いま日本で売られているクルマのベストセラーは軽自動車ですが、軽市場で影の人気車があるのはあまり知られていません。それは働くクルマ商用車です。そんな商用車も大きく分けて3車しかないってご存知でしたか?
■働くクルマ 軽バンは影の人気車だった!?
2017年度(2017年4月から2018年3月)に売られた新車の内、軽自動車の販売比率が36%に達しました。軽乗用車の販売ランキングは、1位がホンダN-BOX&同スラッシュ(1か月平均で1万8620台)、2位はダイハツムーヴ&同キャンバス(1万2137台)、3位は日産デイズ&同ルークス(1万1375台)、4位はダイハツタント(1万1221台)という具合です。
いずれも知名度が高く、所有されている方もおられるでしょう。ところが販売ランキングの数字にあらわれにくい、影の人気車もあります。それがキャブオーバーバンと呼ばれる4ナンバー車として届け出される軽商用バンです。
スズキ「エブリイ」
販売の首位はスズキエブリイで、バン仕様は2017年度に1か月平均で6236台、5ナンバー車のワゴン仕様は1394台を販売して、合計7630台になります。さらにエブリイ&同ワゴンは、マツダスクラムバン&ワゴン、日産NV100クリッパー&同リオ、三菱ミニキャブバン&タウンボックスとして、3つのメーカーにOEM(Original Equipment Manufacturerの略:他社で製造した製品を自社ブランドで販売すること)供給されています。
スズキを含めれば、国産乗用車メーカー8社の内、4社が基本的に共通のエブリイシリーズを扱っています。そしてこれらのOEM車まで含めたエブリイシリーズの台数を合計すると、2017年度の1か月平均は1万2139台でした。この販売実績は、軽乗用車の販売ランキングで2位に入ったムーヴ&同キャンバス(OEM車のスバルステラを加えて1か月平均で1万2704台)とほぼ同じです。
エブリイのライバル車にはダイハツハイゼットカーゴがあり、5ナンバー車のアトレーワゴンも設定されています。ハイゼットカーゴ&アトレーワゴンも、スバルサンバーバン&ディアスワゴン、トヨタピクシスバンとして供給され、ダイハツを含めて3社が扱います。
このOEM車まで含めたハイゼットカーゴシリーズ全体の売れ行きは、2017年度の1か月平均が7087台でした。1万2139台のエブリイシリーズに比べると少ないですが、軽乗用車でいえば、スズキアルト&同ラパン+マツダキャロルと同程度の台数です。
■OEMネットワークで生き残りにかける
このOEM関係は、かつての日本メーカー同士の業務提携を連想させます。従来の常識では、主な市場が似通った日本メーカー同士が手を結んでもメリットが乏しく、海外メーカーと提携することが多かったです。それが最近は電動化などの環境技術、自動運転、通信機能などの先進技術開発が求められ、1960年代のように日本メーカー同士の提携が再び活発化しています。
ダイハツ「ハイゼットカーゴ」
その縮図が軽商用車です。ハイゼットカーゴシリーズを扱う「ダイハツ+トヨタ+スバル」は、ダイハツがトヨタの100%出資に基づく完全子会社になり、スバルに対しても出資しています。
エブリイシリーズを売る「スズキ+マツダ+日産+三菱」は状況が変わってきました。トヨタがマツダの株式を取得して、なおかつスズキとも提携することにより、インドのビジネスなどで協力関係を築いています。エブリイシリーズを売るスズキ+マツダ+日産+三菱の内、スズキとマツダはトヨタのグループに入りつつあります。そうなればトヨタを含めた「5社提携」が成立します。
一方、日産は三菱に出資しており、両社は軽自動車などの開発を行う合弁会社のNMKVも立ち上げて、ルノーを含めて提携を結んでいます。
このような軽商用車のOEMネットワークが発達した理由は、環境技術や自動運転技術に基づく提携と基本的に同じです。開発や生産のコストが高額で1社が単独で行うには負担が大きく、複数メーカーが協力するようになりました。
軽自動車はもともと薄利多売の商品で、開発や製造コストが高い割に価格は安く抑えねばなりません。そして軽商用車は、大きな荷物も運ぶので、広い荷室が必要です。重い荷物を積んだ状態で、滑りやすい雪上の坂道発進をするには、荷重の加わる後輪を駆動することも求められます。
そうなると乗用車とはプラットフォームが異なる専用設計になり、薄利多売による大量生産に応じるには、OEM車にしないと利益が出ません。そこで軽商用車は先進技術と同様、2大勢力に分かれたのです。この2大勢力に挟まれながら、弧軍奮闘するのがホンダです。
■軽バンの常識を覆す N-VANで勝負を挑むホンダ
ホンダは以前から軽商用車を手掛け、1999年にはアクティバンとそのワゴン仕様となるバモスを発売しました。エンジンをボディ後部の床下に搭載して後輪を駆動するので、エブリイシリーズやハイゼットカーゴシリーズと同様、軽商用バン専用のプラットフォームです。しかし2018年7月13日に発売された後継車種のN-VANは、N-BOXをベースに、左側ドアの開口幅を1580mmまで広げたり、後席に加えて助手席まで小さく畳める構造を採用しました。新しいプラットフォームを開発することが困難だからです。
このN-VANの商品力について、販売店のホンダカーズに尋ねました。
「N-VANの2名乗車時の荷室長は、先代型のアクティバンに比べて20cmも短いです(アクティバンは1725mm/N-VANは1510mm)。そうなるとアクティバンに積めた荷物がN-VANには収まらず、一部のお客様は困っています。ただしアクティバンは発売からすでに約20年を経過しており、その後にフルモデルチェンジを受けたエブリイやハイゼットカーゴに乗り替えたお客様が多いです。
率直にいって、今ではアクティバンの保有台数がほとんどありません。その意味ではむしろ、N-BOXをベースにしたN-VANの方が売りやすいです。軽乗用車と軽商用車の中間的な商品で、後輪駆動のエブリイやハイゼットカーゴとは違う個性があるからです」と説明されました。
今の自動車メーカーは、軽商用車から最先端技術まで、負担の重い開発に取り組んでいます。これを成立させるのが業務提携ですが、行き過ぎると商品のバリエーションが減り、競争関係も薄れて魅力が低下したり、価格が割高になったりします。
実際、昔は6車種の個性豊かな軽商用バンを選べましたが、OEM車だらけになった今は、N-VANを含めても実質的に3車種しかありません。
共通化によって合理化を図りながら、どこまでメーカーの個性を表現してユーザーに違った魅力をもたらせるのか。今は業務提携の時代、幅広い分野にわたり、従来とは違う開発が求められています。
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