3列目ない2列シートミニバンなぜ増加? トヨタやホンダも次々導入する理由とは
くるまのニュース / 2019年3月5日 10時30分
昔からミニバンは、多人数乗車が当たり前となっていました。しかし、最近ではあえて2列シート仕様のミニバンが登場しているのです。なぜ、ミニバンの強みとなる「多人数乗車」仕様が無くなっているのでしょうか。
■アクティブシニアが牽引か、変わりゆくミニバン市場
現在のミニバンタイプが登場してから約30年。従来は「多人数乗車・多積載」がミニバンのメリットとなりファミリー層から絶大な支持を受けて、ミニバンは人気の市場となっています。
しかし、2018年から2019年にかけて、コンパクトクラスやミドルクラスのミニバンに相次いで2列シート仕様車が登場。徐々に、ミニバンの3列シート離れが進んでいるような印象を受けます。
なぜ、「多人数乗車・多積載」がメリットのミニバンに、あえて2列シートの5人乗り仕様車が登場し始めたのでしょうか。
2018年5月にホンダ「ジェイド」がマイナーチェンジで2列5人乗り仕様を追加。同年9月には、コンパクトクラスのミニバンで販売台数トップとなるトヨタ「シエンタ」も、同様の仕様を新たに設定しました。
さらに、2019年1月にはミドルクラスで販売台数トップのトヨタ「ノア/ヴォクシー/エスクァイア」にも、「MULTI UTILITY(MU)」と呼ばれる2列シートで5人乗り仕様のコンプリートカーがモデリスタから登場しました。
大きな理由のひとつと考えられるのは、約680万人とも言われる『団塊の世代』の動向です。現在70歳台に突入しているこの世代の人たちは、生涯現役という意識が強く、男女問わず消費活動に積極的で、趣味や付き合いも多い『アクティブシニア』と呼ばれています。
流行にも敏感で、近年再びブームとなっているアウトドアレジャーは、釣りやサイクリング、山登りやキャンプなど、アクティブシニアもその人気の一端を担っているため、選ぶクルマも人を乗せることより、荷物スペースの広さと使い勝手を重視する傾向となっているのです。
トヨタ「シエンタ」のマイナーチェンジを担当した、トヨタの製品企画チーフエンジニア・粥川宏氏は次のように、ユーザー動向を説明しています。
「『3列はいらないから、荷物がたくさん積めること』、『車の中で泊まれること』、『荷室空間をカスタマイズできること』というアクティブシニアの要望をキャッチし、それに応える2列仕様を追加してユーザー層を広げたいという想いがありました」
そして、要望のひとつに挙がった「車中泊」のニーズが高まっていることも、大きな理由といえるでしょう。
■ミニバン2列仕様のポイントは「車中泊」
コンプリートカー「MULTI UTILITY(MU)」の開発経緯について、モデリスタ本部 販売企画・営業支援部の宮入嵩弥氏は、『ミニバンユーザーのボリュームゾーンであるファミリー層でも、『3列目はなくてもいいから、もっと色々な用途に使えるスペースが欲しい』という要望があり、2列仕様の開発しました」と話します。
その“用途”で欠かせない要素が、やはり車中泊です。モデリスタでは、荷室の横幅にちょうどぴったりと収まり、テーブルとしても車中泊の際のフロアとしても使える「マルチユースボード」を開発。
さらに、空気入れを使わずに自然に膨らみ、使用後も時間が経てばコンパクトに戻る、手間いらずの「エアスリーブマット」など、車中泊を意識したオプションアクセサリーも同時に発売しています。
車中泊に関しては、レジャーだけでなく災害時の避難スペースや、ボランティアの宿泊場所としての活用も想定されているのです。
モデリスタがオートサロンに出展した「ノア」の2列5人乗り仕様
その際、いわゆるエコノミー症候群を予防するためにも、しっかりと身体を伸ばして眠れるスペースが必要。ハイブリッド車では車内での電源も取りやすいなど、災害時に役立つ要素も揃っています。
そのほか、2列シート仕様にするメリットとしては、3列目に座る人のスペースを考慮しなくていいので、後席のシートをもっと上質でゆったりしたものにできるという点もあります。
■2列シートの5人乗りがこれからの主流?
実際にホンダ「ジェイド」では、2列シート仕様の後席に厚みのあるシートを採用し、大型アームレストや反転テーブルなど、ゆったりとくつろげる空間を実現しています。
新たに2列シート車を設定したホンダの「ジェイド」
車両の軽量化にもつながるため、「走行性能がアップする・燃費がよくなる」といったメリットもあります。
一方、デメリットとして考えられることとして、ユーザー側からはとくにありませんが、メーカー側から見ればグレードのバリエーションを多く持つということは、それだけコストがかかり、販売店の対応も煩雑化してしまうことなどが、やや懸念されるところです。
今後の動向としては、ミニバンの3列シート離れは始まったはかりではなく、むしろ完成形に近いのではないかと考えられます。
2018年12月の自販連が発表した『普通&小型車の販売台数』を見ると、11月時点までトヨタのノア三兄弟(ノア/ヴォクシー/エスクァイア)が合計台数では首位に経っていました。
しかし、12月ではダイハツ「トール」を始めとする四兄弟(トール/ルーミー/タンク/ジャスティ)が首位を奪還します。
トール四兄弟は、両側スライドドアを持つ、2列5人乗りのワゴン車。軽自動車で爆発的に売れているホンダ「N-BOX」をはじめ、スーパーハイトワゴンと呼ばれるクルマたちを見ても、すでに「両側スライドドア/2列シート/広い荷室」という3つの要素を満たすクルマは市場で引っ張りだこなのです。
今回、ミニバンの2列シート仕様が相次いで登場したのは、その市場に新たな活路を求めたからだといえるでしょう。
スライドドアを持たないホンダ「ジェイド」にしても、市場がかなり縮小してしまった天井が低いタイプのミニバンでいるよりも、トヨタ「カローラ フィールダー」やホンダ「シャトル」のように、ステーションワゴンのスタイルを取った方が魅力アップするのは明らかなのです。
こうして見てくると、結論としてはミニバンの3列シート離れではなく、ファミリー層のミニバン離れの方が顕著であるといえそうです。
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