中国は「安心・安全」が重要課題? レクサスEVの「UX300e」で見えたEV先進国の課題とは
くるまのニュース / 2019年11月23日 16時10分
なぜEV先進国の中国でレクサスは後発となる「UX300e」をお披露目したのでしょうか。そこには、現在の中国EV市場の課題が見え隠れしていました。
2019年11月22日、レクサス初のピュアEVとして「UX300e」が中国の広州モーターショー2019で世界初公開されました。レクサスのプレスカンファレンスでは、登壇者から「安全」「安心」という言葉がしきりに聞こえました。
なぜ、それほどまでに安心・安全を強調しているのでしょうか。
UX300eは、コンパクトクロスオーバーSUVとして日本国内や欧州を中心に人気を博している「UX」をベースに、レクサスがハイブリッドで培ってきた技術を最大限活かすことで、400kmという航続距離とレクサスらしい走り、そして静粛性を兼ね備えたモデルとして発表されました。
プレスカンファレンスには、レクサス・インターナショナルプレジデントの澤良宏氏が登壇。同時期に開催されているロサンゼルスモーターショー2019でも、レクサスは「LCコンバーチブル」を発表しています。
そんななか、レクサスブランドのトップである澤氏は広州モーターショーに出席していることからも、このUX300eが重要なモデルであり、そして、レクサスが中国をいかに重要な市場と見ているかがわかります。
2021年春には、日本へ導入されることが明らかにされたUX300eですが、中国が世界初公開の場に選ばれたのは、ここが世界最大のEV市場であるからにほかなりません。
しかし、すでに欧州プレミアムブランドや中国国内のメーカーによって、さまざまなEVが発売されている同国において、UX300eは後発といわざるを得ませんが、果たして勝機はあるのでしょうか。
レクサス中国法人の陳忱氏は、次のように語ります。
「ほんの数年前までEVは新しいものでしたが、いまでは中国人にとってEVはとても馴染みのあるものとなっています。
現在、EVを購入しようとするユーザーの多くは、加速のスピードや航続距離、車内ディスプレイのサイズなどを重要視して、検討しています。しかし、実際に所有してから徐々により重要なことに気が付き始めるのです。
UX300eは、中国での市場調査を受けて開発方針が決定されました。そこでわかったのは、電動化の本当の意味は、単にドライブモードの違いでしかないということです。ラグジュアリーEVユーザーが常に求めているのは、自然なフィーリングと安心、そして内から湧き出る喜びです」
※ ※ ※
中国では、すでに年間100万台を超えるEV・PHVが販売されており、その数は世界で販売されるEV・PHVの半数以上を占めています。
したがって、EVであること自体はすでに競争領域ではなく、ガソリン車同様、クルマとしての魅力が重要になってきているのです。
■なぜレクサスは「安全・安心」を強調したのか?
陳氏のプレゼンテーションからは、安全や安心という言葉が多く聞こえました。中国語の安全と安心は日本語とほぼ変わらない意味を持っています。レクサスがUX300eでこのふたつの言葉を押し出したのには、EVの先進国である中国ならではの課題があるからです。
レクサス初のピュアEVとして「UX300e」が中国で世界初公開された
すでにEVが馴染みのあるものとなっている中国では、販売後の課題も見えてきています。たとえば、充電を繰り返したことで起こるバッテリーの劣化や、高温/低温下でのパフォーマンスの低下、各部品やソフトウェアの不具合などです。
また、足回りや内装のヘタリといった、ガソリン車同様の課題もあります。もちろん、メーカー側でも十分なテストをおこなっているとされていますが、実際に市場に出始めてわかることも少なくありません。
そして、より深刻なのはリセールバリューの低下です。日進月歩で進化するEVは、旧モデルの陳腐化が早く、一方で中古車市場も形成されていないため、買取相場が不安定です。
また、中国ではEVの新車購入時に多くの補助金が得られるため、中古でEVを購入するメリットが薄く、結果として中古車の買取価格が低くなってしまうのです。
レクサスが、安全と安心を打ち出したのは、こうした中国EV市場の課題が背景にあると考えられます。
中国では新興EVメーカーなどが多くのハイパフォーマンスEVを発表しています。美しいデザインと圧倒的なスペックによって、一見素晴らしいクルマに見える一方で品質や安全性、そしてリセールバリューに対して不安に思う中国人も少なくありません。
そんな中国のEV市場に後から登場したUX300eは、すでに実用域を超えてマーケティングのための数字となっている0-100km/h加速や最大航続距離を打ち出すわけではなく、あくまで普通に使うためのクルマとして安全や安心がアピールされたのは、そうした過熱するEVマーケティングへのアンチテーゼも含まれているのかもしれません。
今後、日本でもますます増加するであろうEVですが、EVが増えれば増えるほど、アフターメンテナンスやリセールバリューといった新たな課題が登場します。EV市場として一歩先をいく中国の今後に注目です。
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