フェラーリの名は必要ない!? バブル時代の憧れ「テスタロッサ」【THE CAR】
くるまのニュース / 2020年4月13日 11時50分
栄光の名称「テスタロッサ」はイタリア語で「赤い頭」を意味している。1950年代から1960年代に活躍した「250テスタロッサ」の12気筒エンジンに赤く結晶塗装されたカムカバーがその名の由来だ。そして、このテスタロッサの名で復活したフラッグシップは、バブルの象徴となった。
■フェラーリ史にとって異質の時代がピークを迎える
フェラーリがそのフラッグシップとして、V12をリアミッドに積んだモデルを戴いていた時代は、ごく限られていた。それはフェラーリ史において、いわば異質の時代であったのである。
ともかくその異質の時代は365BBにはじまって、512BBへ進化を果たす。同時代のライバル、ランボルギーニ・クンタッチとは対照的に、ロードゴーイングGTカーとして実に真っ当な発展をした、というのが筆者の見立てだ。
とはいえ、それもまた、次なるチャレンジへの単なる序章に過ぎなかったのだ。ロードカーとしてマトモに進化すればするほどに、マーケットからの要望は増していく。もちろんそれに応えつつさらにフラッグシップらしい特徴をアピールしなければ、フェラーリラインナップの頂点に君臨することなど敵わない。
筆者にも経験がある。暑い日だった。365BBのテストを終えて自宅へと帰り着いたとき、極度のノドの乾きとほとんど酸欠のような感覚で、カラダ全体がもうろうとしていた。ドライブしている間、窓を開けていても、フレッシュで涼しいエアに当たることができず、ただただ、フロントラジエターで熱せられた空気が、室内を満たしていたからだ。
ガレージに着いたとたん、ほとんどあえぐようにして、たまらず頭から水道のミズをざぶざぶとかぶったことを思い出す。もちろん、口を盛大におっぴろげて……。
走れば走るほど、BBの室内は蒸し風呂のようになっていく。最大の問題点は、GTとしての、根本的な快適性の欠如にあった。
それだけじゃない。インジェクション仕様が出て、より多くの「金持ち」が乗るようになると、もうひとつの問題が持ち上がった。BBには、独立したトランクルームがない……。座席の後ろに、わずかなラゲッジスペースがあるのみ。あの独善的なライバル、クンタッチには、なんとも常識的なリアトランクがあるというのに!?
BBの進化の先は、まず、この2点を解決することにあった。そして、これらふたつの問題点は、奇しくも病巣を同じくしていたのだった。
巨大なラジエターである。
ラジエターがフロントフード下にあるからこそ、エンジンとの間に存在するキャビンに熱風が充満する。
ラジエターがフロントフード下にあるからこそ、そこに有効なトランクスペースを設けることができない。
ならば、ラジエターを移動すればいいじゃないか……。どこへ?
答は、それこそF1マシンにあった。BBがデビューする際に、180度V型をボクサーと称してまで活用した、F1イメージ(1970年代のフェラーリF1、312Tシリーズには正真正銘の水平対向エンジンが積まれていた)のなかに、その答はあったのだ。
それが、サイドラジエター。
ただし、この時代のクルマをサイドラジエター化するには、相当に思い切ったスタイリング上のチャレンジが必要であった。
しかも、それは、今さら勇猛果敢なレーシングイメージであってはならず、少なくとも、BBのエレガントな雰囲気を引き継ぐ、否、昇華するカタチでなければならなかったのである。
■サイドのインテークフィンは、デザインの勝利だ!
フェラーリとピニンファリーナは、おそらく、相当な苦労をしたはずである。だからこそ、後世に残る、将来必ずや再評価されるであろう、スーパーカーデザインが生まれた。
ボディサイズは全長4485×全幅1976×全高1130mmと、先代の512BBiよりも85mm長く、145mm幅広くなり、全高で10mm高い。フロントのグリルはブレーキ冷却用
幸運だったのはピニンファリーナにおいて、ミドシップデザインのフェラーリを、それこそ250LMの時代から見続けてきたレオナルド・フィオラバンティが、まだ、采配をふるっていたことだ。
彼こそは、デイトナをデザインしていたころから、フェラーリのフラッグシップとして、早くミッドシップパッケージを採用すべしと主張していた人物であった。
当然、BBにおいてその第一歩を踏み出させた当人であり、BBのパッケージも、もちろん知り尽くしていた。それがデザイナーの性というべきであろう、頭のなかにはBBの長所も短所も「配置」されており、そのさらなる理想型を追究して描き直す=再配置を、彼は常に試みていたのだった。そう、テスタロッサへとつらなる、アイデアの素地はあった。
改めて実物のテスタロッサを見ると、実はスリットの入ったサイドの膨らみが、それほどではないことが分かる。もちろん、BBに比べれば、リアに向かって広がっているわけだけれども、扇のような広がりを見せているわけじゃない。そう見えるのは、リアフェンダーがフラットに車体後部まで伸びているからで、真上から見てみれば、想像するほどの後広がりではないのだ。
だからこそ、テスタロッサは、BBに備わっていたエレガントさを残しつつ、新しい時代を告げるに十分なアピアランスでもって、観る者に迫った。
それは、デザインの勝利であった。
真横から眺めてみれば、テスタロッサが紛うかたなく「BB」であることが分かる。それは、あのリアフェンダーとサイドラジエターが、あの時代のフェラーリのフラッグシップ美を、決して崩していなかったことの証である。だからこそ、テスタロッサは、空前の注目を集めるに至ったのだろう。
こうして跳ね馬の新しい旗艦モデルは、快適な使い勝手を得た。テスタロッサの登場を端緒にして、フェラーリのフラッグシップモデルは、いっきに、真の高級化を進めることになったのだと思う。
もちろん、それで終わりではなかった。筆者もBB、テスタロッサと乗り継いだから判るのだが、この2台は芯のところで随分と似通っていた。裏返せば、誰もがその性能を引き出せるようなシロモノだとは、言い難かった。走り味はあくまでもマニアック。スポーツカーのように楽しむには、経験を積んだ技術を必要としていたのだ。
それはひとえに、BBに固有の、パワートレインパッケージに起因するものであった。ホイールベースを延ばし、リアトレッドを拡大して、タイヤを太くしただけでは、根本的に解決できない物理の問題を抱えていたのである。
一層のラグジュアリー化と並行して実施された、運動性能の向上はついに、512TRというモダンスーパーカーの元祖を生み出し、500台限定のF512Mをもって大団円を迎える。
その時点でテスタロッサは永遠となった。フェラーリという冠を必要としないまでに有名になった名前は、やはり、異端の現れだったのかもしれない。
* * *
●FERRARI TESTAROSSA
フェラーリ512BB
・生産年:1984年〜1991年
・生産台数:7177台
・全長×全幅×全高:4485×1976×1130mm
・ホイールベース:2550mm
・エンジン:水冷180度V型12気筒DOHC
・総排気量:4942cc
・最高出力:380ps/6300rpm
・最大トルク:50.0kgm/4500rpm
・トランスミッション:5速MT
・最高速度:290km/h
●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
・所在地:栃木県栃木市野中町1135-1
・営業日:年中無休
・営業時間:10:00~18:30
・TEL:0282-24-8620
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