髪の毛一本の太さの誤差も許さない! ベントレーの厳しすぎる品質管理とは?
くるまのニュース / 2020年4月14日 14時50分
完全無欠なベントレーのラグジュアリーな世界観は、ミクロン単位の品質管理によって実現する。具体的には、どのような品質管理がおこなわれているのか、本社クルーの計測担当責任者マイケル・ストックデールに解説してもらおう。
■ベントレーの部外者立入禁止エリアを公開!
ベントレーのクルー工場の中央奥深くには、大きくて風通しがよく、空調が完備されたワークショップ(作業場)がある。政府のロックダウンがなくても、ビジターがこの場所を目にすることはない。
ここには、宇宙機関の施設や大学の科学研究室で見られるような精密機器が所狭しと並んでおり、計測担当責任者のマイケル・ストックデールと25人の同僚が、ベントレーの様々な部位を、最高水準の精度で計測している。
「キュービング」と呼ばれる基準車両が存在しており、すべての車両の計測基準となる
計量学は計測を科学する学問であり、ベントレーのすべての車両の品質、性能、耐用年数を保証するには、各部品が一貫して正確な寸法で製造されていなければならない。
ストックデールとスタッフたちは、最も小さなワッシャーからボディ・パネル、インテリア・トリムに至るまで、ベントレーが製造する各モデルのすべての部品を計測し、規定されている厳しい公差から逸脱した部品がないように細心の注意を払うのだ。
ストックデールは次のように解説する。「当社には、レザーのしわからシリンダー・ボアの表面に至るまで、すべてをミクロン単位で計測できるツールがあります」
部品を一つ一つ計測した後、仮組みしてまた計測し、さらに完成車の一部としてもう一度計測。このようにして計測チームは、ほぼ完璧に近い再現性を確保する上で重要な役割を果たしている。
それでは、ベントレーの最高水準の精度がどのようにして保たれているのか、5つの項目をピックアップして解説しよう。
●01:フライングBの正確無比な振り付け
複数の構成部品をあらかじめ組み立ててから車両に取り付ける場合、最高水準の寸法精度で計測し、同じ精度で実行することが極めて重要となる。
例えば、フライングスパーのボンネットを飾る格納式のフライングBマスコットは、一連の複雑な動きを構成する各コンポーネントが、一貫した寸法精度で取り付けれられることで、スムーズな展開・格納を実現している。
このマスコットは、ドライバーが車両に近づくとキーレス・エントリー・システムと連動してライトアップされるが、事故の際は自動的に格納される必要がある。こうした動作を正確におこない、台座の中央にきっちりと収まるように、フライングBシステムの各部品の公差はわずか0.15mmとされている。
●02:赤血球ひとつよりも小さい寸法公差
よく、小ささの例えとして「髪の毛一本の太さ」と表現されることが多いが、ベントレーにとっては、それではあまりにも大きすぎる喩えになってしまう。というのも、人間の髪の毛一本は、平均すると17ミクロン~150ミクロン以上の太さ。一方、計測部門には0.5ミクロンまで測ることができる機器が揃えられているのだ。
1ミクロンは1メートルの100万分1のであり、人間の赤血球の直径は5ミクロン。ベントレーのコンポーネントのいくつかは、ミクロン未満の公差で計測されている。
その一例が、ベントレーの新型フライングスパーに動力を供給する世界で最も先進的な12気筒エンジンである6.0リッターW12エンジンの心臓部にあるクランクシャフトだ。
最高で6000回転するクランクシャフトは、ピストンが発生させる巨大な下向きの力を回転運動に変換して車輪に動力を与える。肉眼で見ることは不可能だが、クランクシャフトを支える12個の機械加工されたベアリング・ジャーナルのそれぞれの表面には微細な溝が刻まれており、顕微鏡レベルの薄さのオイル膜が保持されている。
計測チームは高精度のパーソメーター(表面仕上げを計測するためのツール)を使用して、これら微細な溝が規定の公差内に収まっていることを確認しており、これにより各W12エンジンがオーナーの期待する強大なパワーを生み出し、耐用年数の全範囲にわたる耐久性を保証している。
●03:アルミ無垢材から削り出されたフライングスパー
計測チームは、顕微鏡レベルの精度で個々の表面や構成部品を計測するだけでなく、車両全体も計測しており、この部門には「キュービング」と呼ばれる基準車両が存在している。
これは、無垢のアルミニウム材から削り出された模型であり、車両全体のパネルや内装のコンポーネントを計測する際のテンプレートとして使用されるものだ。
キュービングのフライングスパーは、高精度のデジタルカメラを使用してボディを1ミリ単位でスキャンし、車両の完全かつ正確なマップとして作成された理想的なフライングスパーであり、他のすべての車両の計測基準となる。
ストックデールは次のように解説している。「試作段階でグリルとボンネットの間のパネル間の隙間が1mmも開いていたという問題が発生したとします。原因はグリル側にあるでしょうか、それともボンネット側でしょうか? キュービング基準車両はCADデータの正確な寸法に合わせて作られているため、その答えを提供してくれます」
●04:光学レーザーでスキャン
素材が異なれば、もちろん計測技術も異なってくる。
フライングスパーのドアやリヤ・クォーターパネルに施された独自の3次元ダイヤモンド・キルト・レザー・インサートは、表面に触れてしまうと読み取りの際に歪みが生じるため、接触型の機器では計測ができない。
その代わりに光学レーザースキャナーを使ってダイヤモンド・パターンのひとつひとつの正確な輪郭をチャート化してチェックしている。
フライングスパーのキャビンでは、すべてのシートに機能性が備わっているという点がチャレンジングな試みだった。
リヤシートだけでも14段階の調節が可能で、5種類のマッサージモードを備えている。さらには、ドア側のふたつのシートにはヒーターとベンチレーションが装備されているのだ。
ワンピース式ヘッドライニングの違和感のないフィット感に始まり、ウッドトリムや豪華なレザー内装に至るまで、木材、金属、ファブリックや皮革など、さまざまな素材の間の公差の緻密さが、すべてに影響を及ぼしているのはいうまでもない。
●05:精密な温度管理
材料は、暖まると膨張し、冷えると収縮するため、一定の基準温度下で計測することが不可欠となる。
計測エリア内では、空調機器により20度の安定した温度に保たれているが、最高レベルの精度が求められる構成部品の場合は、高精度計測エリアと呼ばれるエリアで、専用の空調システムによって温度が0.5度以上変動することがないように調整されている。
このエリア内には3つの巨大な熱伝導率の高い花崗岩の台座があり、その上に部品を固定して、部品の温度を一定に保った状態で計測される。
しかし、その前に、計測する構成部品を文字通り大気中に晒しておく必要があり、ストックデールは、「エンジン・ブロックのような大きな構成部品の場合、その中心部分まで20度にする必要があるため、1週間にわたって一定の温度下に晒さなければならない場合もあります」と説明している。
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