ブガッティEB110は、究極のカウンタック進化系だった!【THE CAR】
くるまのニュース / 2020年4月29日 19時10分
現在のブガッティは、「ヴェイロン」で復活し、「シロン」へとバトンタッチをして、ラグジュアリーなハイパーカー界で絶対的な存在である。しかし、1990年代にブガッティが一瞬だけ蘇った時がある。そのときに誕生したのが、「EB110」だ。いま、この不遇のスーパーカーEB110に、注目が集まっている。
■ミハエル・シューマッハも愛したブガッティEB110の数奇な運命
それ以前でもなく……。それ以降でもない……。その瞬間の唯一的、存在の強さ。
ブガッティ「EB110GT」、という名前には、もはや、いかほど意味もないだろう。現代はおろか、昔のブガッティとも関わりのないクルマ、と思っておいた方が随分とすっきりする。このクルマの正当な価値を思い出すという意味でも、かえってためになるだろう。
BUGATTIなどと、なまじ名乗っているから、損をする。たとえば、このスーパーカーを愛したかのF1ドライバーの名を戴き、語ればどうなったか……。
さしずめ、名刺に刷り込まれた会社名と肩書きを外してなお、向き合ってみたいヤツ、といったところである。
走行距離3000km。素晴らしいコンディションの110GTが目の前にある。ポルトラナフラウのインテリアの発する匂いが、ボディパネルを透けて漂ってきそうな状態。生産台数はわずかに150台程度で、これは「クンタッチLP400」や「ディーノ206GT」、さらには「ミウラSV」と同じほどの数だから、その稀少性を疑う余地などない。このコンディションで売り物があるというだけで、奇跡というものだ。
無駄のない、シンプルともいえるスタイルを真横からじっと眺めていると、スーパーカーキングの姿が透けてみえてくる。
やっぱり、というべきか。クンタッチの理想型により深く迫っていたのは、後継モデルの「ディアブロ」よりも、むしろこのクルマの方だったというわけか……。
良く知られているように、最終的なEB110のこの姿は、まるで初期のマルチェロ・ガンディーニ作とは異なっている。ザガートが引き受け、さらに当時のブガッティにおいてフィニッシュされたというのが通説である。パオロ・スタンツァーニを含め、「チーム・クンタッチ」の精鋭が関わっていたのは、ほとんどコンセプトワークの領域までで、完成したモデルとの表面的な繋がりは皆無であるらしい。
けれどもEB110のスタイリングには、内に秘めたるエンジニアリングの魂や願望、意志、気骨、執念といった様々の力がかすかに滲んで形而上的な血統を偲ばせており、それが真横からみた、フロントからリアへと絶妙に波を打って流れるサイドラインのような形而下となって現れた、と思うのは、好き者の強引な思い込みだろうか。
例えば、LP400S以降のクンタッチやディアブロあたりとは違って、ド派手なエアロパーツをまとわないという点はどうだろう? これみよがしのレーシングカー的空力デバイスを嫌ったのは、紛れもなく、スタンツァーニその人だった。
クンタッチをスーパーカーキングとするならば、ブガッティEB110 GT&SSもまた正統な王位継承の資格をもつ。
直線と曲線が融合したスタイリング、側面から絞り込んだ小さなキャビン、おどろおどろしいフロントフェイス、アルミハニカム入りのカーボンパネル、スィングアップドア、カーボンモノコックボディ、オフセット縦置き12気筒エンジン、クワトロターボチャージャーに4WDシステム、そして最高速度は340km/hオーバー……。そのひとつひとつに、スタンツァーニがクンタッチの進化版として1970年代から描いていたスペックの〈節々〉を聞くことができるのだから、それは当然というもの。
繰り返すが、今となっては何の意味もなさない、エットーレ・ブガッティ生誕110周年を意味する車名が与えられたモデナ生まれのスーパーカー、EB110。ブガッティの名を外してなお、その出自から、数奇な運命、関わった人間模様まで、光と影、陽と陰、正と邪が複雑に交差する様子すべてが実に〈スーパーカー〉らしい。
■ブガッティEB110は、生粋のモデナ生まれのスーパーカーだ!
1990年代に跋扈した、フェラーリやランボルギーニを含め他のどんなスーパースポーツカーよりも、かのマクラーレン「F1」でさえも語るべき逸話の数で凌いで、全身これスーパーカーらしさを発散していることが、ブガッティEB110最大の魅力だ。
ポップアップ式のリアスポイラー、ユニ−クな造形の楕円形テールランプを採用したブガッティEB110
本当に、違う名前で語りたいと思う。
否、この名前ゆえ、将来、再び、陽の当たる場所に引っ張り出されることもあるだろう。そうなったときには、もはや、市井のスーパーカー好きが手を出せるクルマではなくなっているに違いない。
不敵なツラがまえを改めて凝視する。
目のない=リトラクタブルライトの1970年代スーパーカーとは、まるで違った凄みで観る者を見返してくる。
思えばクンタッチにせよ「BB」にせよ、はたまた「ストラトス」や「ボーラ」、「パンテーラ」といったリトラクタブルライトのスーパーカー達には、実は表情というものがあるようでほとんどなく、どこか眠っているかのような、見ようによっては〈優しさ〉の立った顔ばかりであった。
個人的にはだからこそ好きだったりするのだが、そんな思い入れを木っ端みじんに打ち砕くほどのインパクトが、このEB110の不適なツラ構えにはある。残念ながら、フェアレディZのヘッドライトを流用しているようでは、そうはいくまい。
そして、EB110と同じ時代に生まれたマクラーレンF1やジャガー「XJ220」、フェラーリ「F50」あたりと比べてみても、彼らが機能重視のヘッドライトゆえレーシングカー的な、それゆえ常識的な顔立ちをみせていたのに対して、このEB110には、21世紀を先取りするかのように、挑戦的でユニーク、凶暴な面構え(昨今の最新スーパーカーたちによる、凝りに凝ったフェイスの競演を思い出して欲しい)を既に採用していたのだった。
クンタッチやディアブロ以降のランボルギーニ派と一線を画するのは、キャビンを小さく絞り込んでいる点だ。
それゆえ、ボディサイドに〈肩〉ができる。これはレーシングカー的な造形であり、そこにもまた1970年代の、レーシングとは隔絶したスーパーカーからの、ひとつのステップがみてとれる。もっとも、同年代のスーパーカーがすべて志向したポイントでもあり、正にこのタイミングで、新時代の、現代に繋がる、スーパースポーツが誕生しはじめたのだといっていい。
言い換えれば、ちゃんと300km/hオーバーで走ってくれる、パフォーマンスの保証されたスーパーカーたちの出現だ。
スイングアップドアを開けて、薄いシート目がけ、尻を潜り込ませるように乗りこんだ。ポルトラナフラウレザーとウッドパネルのインテリアは、スタイリングからは想像もつかないほどラグジュアリーな雰囲気である。個人的には、「SS」のようにデコレーションした方が好みだが。
ポジションは相当に低く、フロントウィンドウまでの距離が長い。Aピラーが随分と乗り手に向かって迫ってくるが、クンタッチ同様、座ってしまえば意外に寛げる。
白いステッチの入った、素っ気ないナルディの3本スポークステアリングホイール。その向こうに400km/hフルスケールの速度計が見えた。タコメーターは8500からレッド。10000回転まで刻む。
背骨がのけ反るほど重いクラッチペダルを踏むと、否応にもこのクルマがラグジュアリーカーなどでなかったことが思い出される。後方から聞こえてくるサウンドは、野太く力強いが、凶暴というほどではない。
パワーアシストであるにも関わらず、低速域では重いステアフィールに終始するのは4WDゆえか。ターボを利かせないうちはただの自然吸気3.5リッターだから、淡々と平和なクルージングも可能である。クラッチが重いこととノーズの長さ低さを除けば、実用上それほど困ることはない。
本性を暴くにはアクセルペダルをもうひと踏みするだけで事足りる。ターボチャージャーの唸りとともにタイヤ4つでは足りないと思うほどの強烈な加速に見舞われた。
路面と一体になるかのように沈み込んだ姿勢で加速を続ける。直進安定性は現役どころか、圧倒的。まるで透明チューブの中を反重力で突っ走っているかのようだ。
激烈な加速にハラワタが収縮するような恐怖を乗り越えたドライバーだけに与えられる褒美が、天使の歌声=3.5リッター・ショートストロークV型12気筒エンジンの精緻な咆哮であった。
小排気量12気筒の芸術性が心に染みわたる。しかし、それは同時に悪魔の囁きであるのかも知れない……。
イージーな400km/hオーバーでは、決してない味わうことの叶わない、スーパーな世界が、目の前にあった。
* * *
●BUGATTI EB110GT
ブガッティEB110GT
・生産年:1991年〜1995年
・全長×全幅×全高:4400×1940×1114mm
・ホイールベース:2550mm
・エンジン:V型12気筒DOHC+ターボ4基
・総排気量:3500cc
・最高出力:560ps/8000rpm
・最大トルク:62.3kgm/3750rpm
・トランスミッション:6速MT
●取材協力
DREAM AUTO
ドリームオート/インター店
・所在地:栃木県栃木市野中町1135-1
・営業日:年中無休
・営業時間:10:00~18:30
・TEL:0282-24-8620
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
SKY GROUP ハイパーカーブランド「ブガッティ 東京(BUGATTI TOKYO)」が世界250台限定生産「V16エンジンBUGATTI TOURBILLON」予約販売を開始
@Press / 2024年6月25日 18時0分
-
まさかの「“自家製”ランボルギーニ」!? 精巧すぎる「ディアブロ!?」の正体に驚きの声も! 精巧すぎる「2ドアスポーツカー」に反響集まる
くるまのニュース / 2024年6月10日 12時30分
-
「えっ…!」スーパーカーと国産車「同じライト」ってマジ!? なぜ「ランボルギーニと日産」「ロータスとトヨタ」“共通パーツ”なのか
くるまのニュース / 2024年6月9日 19時10分
-
破格の1800万円「スカイラインGTS-R」納得の理由 800台限定の希少車、GT-Rを名乗れなかった1台
東洋経済オンライン / 2024年6月9日 7時20分
-
まさかの「ランボルギーニ“ミニバン”」に驚きの声! “V12”搭載&ガルウィング採用!? 斬新「2列目1人乗り」仕様の「ジェネシス」に反響集まる
くるまのニュース / 2024年6月3日 16時10分
ランキング
-
1すき家、7月から“大人気商品”の復活が話題に 「この時期が来たか」「年中食いたい」
Sirabee / 2024年6月29日 4時0分
-
2若々しい人・老け込む人「休日の過ごし方」の違い 不安定な社会、「休養」が注目される納得理由
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 9時0分
-
3水分補給は昼コーヒー、夜ビール… 「熱中症になりやすい人」の特徴と対策
ananweb / 2024年6月29日 20時10分
-
4忙しい現代人が“おにぎり”で野菜不足を解消する方法。野菜たっぷりおにぎりレシピ3選
日刊SPA! / 2024年6月30日 15時53分
-
51年切った「大阪・関西万博」現地で感じた温度差 街中では賛否両論の声、産業界の受け止め方
東洋経済オンライン / 2024年6月30日 14時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください