かつて憧れたNSXやスープラ復活も販売不振!? 日本のスポーツカーが低迷する訳
くるまのニュース / 2020年5月6日 7時30分
スポーツカー全盛期の1990年代に登場したホンダ「NSX」やトヨタ「スープラ」は、いったん歴史が途切れましたが、近年になって復活しました。しかしせっかく復活したにもかかわらず、販売が低迷しています。それは一体なぜなのでしょうか。
■高性能スポーツカーは販売店も手に負えない存在!?
最近はスポーツカーの人気が下がって車種も減りましたが、一度廃止されたクルマの復活も見られます。
ホンダは2016年に「NSX」、トヨタも2019年に「スープラ」を蘇らせました。日産「GT-R」も2007年に復活し、デビューから10年以上を経過したいまも健在です。
往年のNSX、スープラ、「スカイラインGT-R」は、スポーツカーが全盛だった1990年代に憧れの存在でした。約30年の歳月が経過したいまでも知名度は高いです。
ところが上記3車種の売れ行きは、かなり減っています。NSXは2019年の登録台数が30台を下まわり、1か月に1台から3台程度です。
スープラは2019年5月に復活して、約半年で800台から900台を登録しましたが、直近は堅調とはいえません。ちなみに30年ほど前は、1か月に2000台から3000台を登録したこともありました。
現行GT-Rも1年間で700台から800台、1か月平均では60台少々です。
スポーツカーの販売が低迷する背景には、どのような理由があるのでしょうか。
まず最近はSUVが好調に売れており、スポーツカーは流行からはずれています。なおかつ価格も高いことがネックになっています。
NSXの価格(消費税込、以下同様)は2420万円と突出しており、GT-Rも一番安価なピュアエディションが1082万8400円、最高価格のGT-R NISMOはNSXと同じ2420万円です。
スープラは比較的求めやすいですが、それでもエントリーグレードの「SZ」の価格は499万5000円、人気の高い3リッターターボを搭載する最上級の「RZ」は702万7778円です。
なお、この最上級グレードは、2020年10月の一部改良でさらに値上がりし、731万3000円となります。
販売店にも売れ行きが伸びない理由を尋ねました。ホンダカーズでは以下のように返答しています。
「現行NSXは、点検や整備に特別な技術と設備を必要とするため、販売もパフォーマンスディーラーのみです。従ってNSXを販売できる店舗が限られ、山形県や滋賀県など、販売店がまったくない地域もあります。
それから北米の工場が生産する輸入車なので、納期も分かりにくいです。1年から1年半ですが、仕様を煮詰めて問い合わせないと、メーカーから確かな日程が示されません。
そして契約したときは、車両価格の10%に相当する240万円前後を振り込んでいただきます。売りにくいクルマなので、販売店のホームページには、NSXの情報を掲載しておりません」
2420万円の価格は確かに高いですが、メルセデス・ベンツのAMG、ポルシェの上級モデルなどは、それに近い価格です。
予算に余裕のあるホンダファンには欲しいユーザーもいると思いますが、納期が曖昧では購入しにくいでしょう。高級車は経営者が法人名義で買うことも多く、納期と決済の時期が不明瞭だと困ります。
スープラについても販売店に尋ねました。
「スープラは3リッターターボエンジンを搭載するRZの人気が圧倒的です。そのために生産もRZを中心におこなっていますが、納期は4か月から6か月掛かります。
生産をおこなうのがトヨタの工場ではなく、海外のマグナ・シュタイアなので生産規模も小さいです。そのために発注してから納車されるまでの期間も長いわけです」と説明されました。
GT-Rについては「納期は時期によって変わりますが、3か月から4か月です」とのことで、スープラに比べると短いです。
GT-Rの発売は2007年なので、いまでは約13年を経過しました。発売当時の価格は777万円でしたが、現在では前述の通りピュアエディションが1082万8400円です。消費税増税もありましたが、当初から約300万円値上げされています。
GT-Rの基本設計の古さや値上げを考えると、1年間に700台から800台登録されれば堅調といえるでしょう。販売店では「GT-Rを何台も乗り継ぐお客さまも多いです」とコメントしており、熱心なファンが需要を支えています。
■SUVの台頭でスポーツカーの存在意義が変化した
このように各車の事情を見てくると、NSX、スープラ、GT-Rが売れ行きを下げた背景には、価格上昇に加えて納期の長期化や具体的な時期の分かりにくさ、GT-Rについては基本設計が古くなったことなども挙げられます。
日産「GT-R NISMO/GT-R 2020年モデル」
とくにNSXとスープラは、日本車でありながら、海外で生産されています。かつて国内で生産されていた時代に比べると、大幅に高級化され、日本よりも海外市場に重点を置いています。
現行スープラは、BMWとの提携に基づいて開発されました。エンジンやプラットフォーム、さらに左側に装着されたウインカーレバーなど、細かな部分までBMW「Z4」との共通点が多いです。
各車とも海外向けのスポーツカーになったことで、価格の高額化とともに納期も伸びて、国内では所有しにくくなりました。
そしてNSXとスープラは、長らく国内販売を中断していたので、ユーザーが離れてしまいました。この背景にあるのは、世界的なスポーツカー需要の冷え込みです。
たとえば1986年に発売されたスープラは、3月決算期には日本だけで1か月に2000台から3000台を登録したこともありましたが、いまは当時の約6%です。
スポーツカーの旺盛な需要が、1990年代中盤から急速に衰退しました。2000年代に入ると海外でもSUVが人気を高めたので、スポーツカーの販売低下は世界的に広がりました。
このような市場の変化で、スポーツカーには少量生産で成り立つことが求められ、高級スポーツカー路線に発展したわけです。NSX、GT-Rはもちろん、BMWと手を組んで合理化を図るスープラはその典型でしょう。
需要が下がれば高級路線に切り替えるのも理解できますが、納期が長すぎるのは困ります。さすがに1年も待たされると、ユーザーには転勤や転居の必要が生じたり、納車を待つ間に愛車の車検期間が満了するからです。
この状態が続くと、販売店にとってスポーツカーが重荷になり、ますます売れ行きを下げる悪循環に陥ります。
※ ※ ※
販売が低調だからフルモデルチェンジの周期が伸びるのは仕方ありませんが、衝突被害軽減ブレーキや運転支援機能を含めて、定期的な改良が求められます。
それがスポーツカーの安心感や満足度を高め、クルマの世界を楽しくすることにも繋がります。
スポーツカーは実用的ではないですが、クルマ文化においては欠かせない存在だといえます。進化を続けることが大切です。
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