「500」の名を持つ可愛いフィアット3選。チンクエチェント歴代物語
くるまのニュース / 2020年5月13日 19時10分
2007年に登場したフィアット「500」は、日本でもいまだに高い人気を誇っているロングセラーだ。その500の次世代版が、2020年3月に発表された。そこで、歴代500を振り返ってみよう。
■ちっちゃくてカワイイ! みんなに愛されるフィアット500の歴史を振り返る
2020年3月に、まずはBEV版の「500e」から新世代にリニューアルしたフィアット「500」は、イタリアのみならず全世界を代表する人気のスモールカーだ。
その歴史は80年以上にも遡り、同じ名を持つ歴代モデルは連続して生産されてはいないとはいえ、すべてアイコニックな存在となっている。
とくに2007年に現行モデルが復活を遂げてからの展開は目覚ましいもので、基幹となる「500」のほかに、SUVの「500X」やミニバンの「500L」まで登場するなど、いまやフィアットとそのファンにとっての「500」とは、単なる車名に留まらないひとつのアイコン、あるいはブランドと化しているのだろう。
今回は「フィアット500」の名跡が与えられた歴代の3モデル(+α)を、デビュー時期の順にご紹介。その輝かしい歴史を解説しよう。
●フィアット500“トポリーノ”(1936年〜55年)
「トポリーノ(ハツカネズミ)」愛称で親しまれた、初代フィアット500
1936年に発表された初代フィアット500は、イタリアのベーシックトランスポーターの歴史的傑作にして、のちにフィアット技術陣の象徴的存在となるエンジニア、ダンテ・ジアコーザ博士の出世作でもある。
当時の自動車テクノロジーの限界まで縮小し、もっともイニシャルコストの安いクルマとされた一方で、単に中・大型車を縮小するのではなく、サイズに見合った新機軸を取りまとめて設計した、世界初のマイクロカーのひとつとも称されている。
2シーターにキッパリと割り切り、サイズ/重量を可能な限り節約する一方、総排気量わずか569ccのベーシックカーとはいえ、直列4気筒エンジンに3速および4速にシンクロメッシュの付いた4速トランスミッションを組み合わせ、前輪に独立サスペンションを採用するなど、当時最新鋭のテクノロジーが贅沢に導入されたことは特筆に値しよう。
また、ダンテ・ジアコーザ自身もデザインワークに携わったといわれる、当時流行の流線型を巧みに解釈・小型化したモダンで愛らしいスタイリングから、イタリア語でハツカネズミを意味するニックネーム「トポリーノ(Topolino)」と合わせて呼ばれることが多い。
フィアット500トポリーノの生産は第二次大戦後にも継続され、1948年にはシリンダーヘッドをアルミ製のOHVとしてパワーアップ。小さいながらもリアシートを設けた「500B」。そして1950年には、フロント回りのスタイルを大幅にモダナイズした「500C」へと進化を遂げる。
また500Cのデビュー一年後には、魅力的なステーションワゴン版「ジャルディニエラ(ボディ後半部は一部木製)」と「ベルヴェデーレ(ボディはすべてスチール製)」も追加され、結局後継車たる「600(セイチェント)」に取って代わられる直前まで、イタリア国内のベストセラーを保ったのだ。
■世界的人気を不動のものにしたヌォーヴァ500は、ルパン三世の愛車!?
フィアット500の歴史のなかでも、最もアイコニックな存在であるのが二代目だ。いまや日本のみならず、フィアットの母国イタリアを含む全世界で人気のコミック/アニメ「ルパン三世」の主人公の愛車として認知されている「ヌォーヴァ500」シリーズは、第二次世界大戦後のイタリアに、再びモータリゼーションを取り戻させた偉大なクルマといえるだろう。
●フィアット・ヌォーヴァ500(1957年~75年)
人気を不動のものにした2代目、ヌォーヴァ500
第二次大戦の敗戦、およびそののちの強烈なインフレーションの影響を受けて、戦後イタリアの経済状況は事実上の壊滅状態にあった。そんな状況のもとでは、戦前から継続生産されていたフィアット500トポリーノや、その後継車として55年にデビューした「600(セイチェント)」さえも贅沢とする風潮が蔓延。
フィアットは「ヴェスパ」や「ランブレッタ」に代表される2輪スクーターや「イゾ・イセッタ」などのキャビンスクーターに流れていった購買層を、なかなか取り戻せないでいた。
そこでダンテ・ジアコーザ博士が率いるフィアット技術陣は、新たに600をさらにひと回り小型化した最廉価モデルの開発に着手する。
「ティーポ110」という社内コードナンバーが付けられた新型小型車。そのメカニズムは、可愛らしいモノコックボディから前後サスペンションに至るまで、600を忠実に縮小したものだった。しかしRRレイアウトに搭載されるパワーユニットは、600用の水冷直列4気筒エンジンを縮小するのではなく、専用の空冷直列2気筒OHVを新たに設計。初期モデルでは479ccの排気量から16.5psを発揮した。
こうして1957年7月4日に発表された新しいミニマム・フィアットは、かつての名ベーシックカーの名前にあやかり「ヌォーヴァ500(新500)」と名付けられた。
ヌォーヴァ500はデビュー3年後となる1960年に、空冷2気筒エンジンを499.5cc/19.5psまでスケールアップした「500D」へと発展。また時を同じくして、テールのオーバーハングを延長するとともに、直列2気筒エンジンを水平に倒すことによってラゲッジスペースを確保したワゴンモデル「ジャルディニエラ」も追加された。
そして、その後も幾たびものマイナーチェンジを繰り返し、結局1975年まで18年にもわたって生産されるロングセラーとなったのである。
●フィアット500(2007年~)
2代目のデザインを現代に蘇らせた3代目500。写真はグッチ仕様
フォルクスワーゲン「Newビートル(1998年発売)」やBMW製「MINI(2001年発売)」の商業的成功を見て、今世紀初頭からはフィアットにも往年の偉大な名作500の現代版を求めるリクエストが数多く寄せられていたという。
その要望に応えるかたちで、前輪駆動ながらヌォーヴァ500を現代に昇華したかのようなスタイルを持つコンセプトカー「トレピウーノ」が、2004年春のジュネーヴ・ショーにて初公開された。日本を含む全世界のチンクエチェント愛好家から圧倒的な支持を得たことから、生産化プロジェクトが本格的にスタートすることになる。
生産モデルのフィアット500は、2003年に発表されていた二代目「パンダ」のメカニズムを流用。したがって、パンダと同じくFFである。また欧州フォードとのコラボ企画とされ、プラットフォームなどは2008年に登場するフォード二代目「Ka」にも流用された。
ところで、プロトタイプにあたる「トレピウーノ(Trepiuno)」とは「Tre(3)」「Piu(+)」「Uno(1)」、つまり「3+1」をイタリア語で表したもの。その名が示すように助手席を前方にずらすことで、リア一席分のレッグスペースを確保。運転席背後のシートは非常用とする変則的な3+1シーターだったが、生産型の500ではボディを若干大型化することで、なんとか通常の4座席とした。
こうして開発された期待の新星フィアット500は、ヌォーヴァ500のデビューからきっかり半世紀後となる2007年7月4日、ベルルスコーニ元首相が所有するイタリア最大の民放TV局「Canal 5」にてイタリア全土に向けて生中継されながら、大々的にワールドプレミアした。その誕生はまさに国をあげたお祭りで、のちの大ヒットを暗示していた。
ヨーロッパや日本、北米でも旋風を巻き起こした新しい500は、2009年にはルーフとリアウインドウをたたむことのできるセミオープン版「500C」が追加されたほか、2010年には往年のヌォーヴァ500と同じく直列2気筒(ただし水冷)の「ツインエア」エンジンも設定。そして2015年には初の大規模なフェイスリフトを受け、次世代モデルである新型500が登場したのちも、当面は並行生産されるとのことである。
●番外:フィアット・チンクエチェント(1991年~1998年)
ボーランドで生産された「チンクエチェント」
ポーランドにて、往年のフィアット「126」を長らく生産していたFSM社が、フィアットの完全子会社として傘下に加わった際に開発された小型車。数字の「500」ではなく「Cinquecento(チンクエチェント=イタリア語で500の意)」と名づけられ、イタリアをはじめとするEU諸国でも、パンダよりさらに小さなエントリーモデルとして販売されることになった。
内外装のデザインは歴代の500との関連性はまったく感じさせない、オーソドックスかつクリーンな2BOXスタイルながら、当時の欧州において最も安価な小型車のひとつとして高い人気を得た。
また、ラリー競技への進出を目指す若手ドライバーの登竜門「トロフェオ選手権」のための専用マシン「チンクエチェント・トロフェオ」も、アバルトとのコラボで開発された。
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