最近のクルマの荷室はなぜ広くなった? 省燃費対策も関係する意外な理由とは
くるまのニュース / 2020年5月29日 10時10分
最近のクルマは広い荷室が確保されており、リアゲートを開けると容量の大きさに驚くこともあります。なぜ、広い荷室を確保できるようになってきたのでしょうか。
■荷室の拡大は、厳しい燃費競争が生んだ産物だった?
日々の買い物や旅行などに使用する場合、1列目や2列目シートの乗り心地と共に、荷室の容量も重要となります。場合によっては荷物を荷室に乗せきることができず、足元に置いているという人も多いのではないでしょうか。
しかし、近年はクルマに必ず装備されていたあるものが無くなったことにより、荷室が大きく拡大。さらに、ほかにもメリットが生まれているといいます。昨今のクルマは、いったいどのような変化を遂げているのでしょうか。
近年のクルマに搭載されることが少なくなった装備は、「スペアタイヤ」です。
スペアタイヤは「テンパータイヤ」とも呼ばれ、通常よりも極端に細いタイヤと、黄色のホイールで構成されています。
タイヤがパンクした際に用いる緊急用のタイヤとして、以前は必ず装備されていました。
スペアタイヤは、荷室の床(ボード)の下に収納されていることが一般的で、純正タイヤのサイズにもよりますが、縦横1m、深さ8cmから15cmくらいのスペースを使用します。このスペアタイヤが廃止されたことで、アンダースペースが拡大された車種が、多数あるのです。
例えば、トヨタ「ヴィッツ」は、2005年に発売された2代目まではスペアタイヤを搭載していましたが、2010年に発売された3代目では廃止されています。
その結果、2代目ではリアゲートからリアシートまでフラットになっていた荷室の床が、3代目では1段低くなり、アンダースペースが拡大されました。
また、3代目「プリウス」をベースに開発された7人乗りの「プリウスα」や、プリウスαのOEM車であるダイハツ「メビウス」は、荷室のボードの下に大型と小型に分割されたデッキアンダートレイを備えています。
このように、スペアタイヤが無くなったことで、アンダースペースという新たな収納を生み出しましたが、なぜスペアタイヤは姿を消してしまったのでしょうか。
その理由のひとつに、2009年にはじまったエコカー減税があります。
エコカー減税は、国が定めた燃費基準をクリアした車種に対し、税金が軽減されたり、免除される制度です。この基準を達成するために、自動車メーカーはクルマを「軽くする」努力をおこなってきました。
そして、緊急用のタイヤであるスペアタイヤは、1本あたり10キロから15キロともいわれます。厳しい燃費を達成するために、ネジ1本という部品単位でもクルマを軽くしたい自動車メーカーにとって、スペアタイヤを廃止するメリットは非常に大きなものといえるでしょう。
また、「スペアタイヤの車載義務が無くなった」というのも理由のひとつです。かつては車検において、スペアタイヤの装備は義務とされていましたが、現在では廃止されています。
こうした理由から、スペアタイヤを装備しないクルマが増えているのです。
■変わった所に応急タイヤを格納しているクルマとは?
重いスペアタイヤを積載しなくなったクルマは、代わりに小型・軽量な「パンク修理キット」を装備するようになりました。
パンク修理キットとは、釘などによる穴状の破損に対して、タイヤ内部に液剤を注入して穴を埋めることができるアイテムで、空気入れも含まれているため、応急処置をして走行することが可能となります。
しかし、パンク修理キットは、タイヤが破裂するバーストには使用できません。
スペアタイヤの例
そうなると、スペアタイヤの方が安心に思えますが、そもそもスペアタイヤは1度も使われることなく処分されるものがほとんどです。
実際に、日本ゴム工業会の発表する「低炭素社会実行計画」には、「スペアタイヤ削減」が目標として明記されています。
処分費用や処分時の温室効果ガス削減などといった経済や環境への配慮によって、スペアタイヤは「不要」とされ、代わりに採用された小型で軽量なパンク修理キットの普及によって、荷室は広くなっているのです。
また、パンクした後でも一定の距離を走行することができる「ランフラットタイヤ」が装着されていて、代わりにスペアタイヤが無いモデルも存在します。
※ ※ ※
スペアタイヤが搭載されている場所は、一般的には荷室の下となっています。しかし、なかには「そんなところに?」と思うような場所に応急タイヤを格納しているクルマもあります。
例えば、トヨタ「ヴォクシー」や「ヴェルファイア」をはじめとする、床がフラットなミニバンやワンボックスでは、荷室の下ではなく、ボディの下にスペアタイヤを装備。後ろから見えないように、リアバンパーに隠れる位置に固定できるよう工夫されています。
スズキ「ジムニー」や、かつて三菱から販売されていた「パジェロ」などのクロスカントリー車は、リアゲートにスペアタイヤを装備。
これらのクルマは悪路を走行することが想定されるため、ボディ下側のスペースを確保する必要があり、リアゲートにタイヤを背負っているのです。
また、リアゲートからクルマいすに乗ったまま乗車できる福祉車両では、荷室のスペースがスロープとなっています。そのためスペアタイヤが「車内の壁に固定されている」という、珍しい形を取るモデルも存在します。
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