日本中から「林道」がなくなる!? 縦割り行政による修復の弊害とは
くるまのニュース / 2020年6月6日 7時30分
日本全国に点在する未舗装路の「林道」。最近では、度重なる台風の被害によって通行止めとなる場所が増えているといいます。そして、林道を簡単に修復出来ない理由には、日本の縦割り行政や複雑な利権が絡んでいるようです。今後、日本の林道はどうなっていくのでしょうか。
■台風被害により「通行可能な林道」が減っている?
四駆やSUVの楽しみ方のひとつに、オフロードドライブがあります。オフロードといっても色々ですが、もっとも身近なオフロードといえるのが、「林道」です。しかし今、その林道に異変が起きています。
2019年10月、日本に甚大な被害を与えた台風19号ですが、当然ながら山間部を走っている林道にも大変な被害を与えました。
筆者(山崎友貴)は仕事柄、林道に入ることが多いのですが、大抵の林道で山肌が大きく崩れ、樹木が幾本もなぎ倒されているのです。
2019年の秋以降、関東、中部、東北などにある林道の多くが通行止めとなっており、一般車のみならず林業関係者の車両すら走れなくなっているケースが増えています。
こうした状況のなかで、林道ファンの間では「将来、走れる林道が無くなる」というまことしやかな噂が出ています。
林道は舗装されていないため、一般公道よりもラクに造れて整備も簡単だと思われがちですが、実態はまるで逆です。
国道や県道は十分に計画を立てて、災害などの被害が少ない場所を通しますが、林道は場所を選ぶことは困難です。
大抵は急峻な場所を削ったり平坦にして通すのが精一杯で、補強工事がされていることは希なため自然災害に見舞われると、周囲の脆い地形の地崩れや倒木といった被害を受けがちなのです。
さらに修復も非常に難しく、一度落ちた道を復旧させるには、土壌改良や鉄骨などでの補強・架橋など大規模な工事が必要となります。
しかもその工事は、またいつ崩れるか分からない場所でおこなうため、かなりの難工事になります。
埼玉県内にある農林振興センターの担当者は、林道復旧の難しさを次のように語ります。
「復旧には、まず崩落箇所を中心とした測量が必要です。次にどのように修復工事をおこなうのかの計画を立てます。
そこで工事費用の概算が出ますので、それが自治体で認められれば、ようやく工事に入れます。
現在、修復を必要とする林道が、当センター内でも何本もありますので、測量だけで1年から2年はかかります。完全復旧となると、何年かかることか見当がつきません」
※ ※ ※
そもそも林道は、一般的に舗装されていない道を広義的にそう呼んでいるに過ぎませんが、実はいろいろな性格を持っています。
まず日本で一番多いのが、国有林地を通っている林業用道路です。山中の樹木を伐採・運搬するための作業用道路で、基本的には一般車両は通行禁止となっています。
見た目は同じような未舗装路でも、生活道路や観光用に使われている林道もあります。例えば、住民が往来するためだったり、観光スポットに行くために使われる道だったりさまざまです。こうした道は、舗装された公道同様に、一般車両の通行が許可されています。
なぜこのような林道の性格の話を書いたかというと、それは道の性格によって管理する組織が違うからです。
林業に使われる道は、国有林を走っていることが多く、基本は林野庁の管轄となるため、国が管理をおこないます。
一方、生活道路や観光道路として使われている林道は、地元へのメリットがあることから、各市町村が管理している場合がほとんどです。実はこの管轄の違いが、林道の復旧を遅らせるひとつの要因になっているといいます。
群馬県内にある某林道は、元々は林野庁が管理する林業用道路でしたが、有名な山の登山口に向かうための観光用道路として併用されています。
そのため、所有は国でも、管理は市がおこなっているという状況になっているといいます。林道は現在、大規模な崩落によって通行止めとなっていますが、復旧の計画はまるでたっていないようです。原因は、縦割りの行政にあることが見えてきました。
市役所の担当者は、「市はあくまでも所有者ではないので、復旧は国主導でおこないます。現在、国がどのような復旧計画を立てるかを、市としては待っている状態です」と説明します。
一方、林野庁の出先機関である森林管理事務所は、次のように話します。
「林道は市の管理ですから、修復も市の予算でおこなうと思います。しかし市も町村合併によって負担が増え、予算が相当に苦しいようです。
被害の状況から考えても市主導の工事は難しく、復旧がいつになるのかはまるで見えません」とあきらめ気味に語ります。
さらにこの担当者は、そもそも林道の維持管理は台風19号以前から厳しいとため息をつきます。
「林道の修復をするための国の予算は20年ほど前からどんどん減らされており、私たちもどうして通らなければ作業できない道だけを修復しています。
市は国や県を頼りたいところもあると思いますが、これだけ広範囲に自然災害の爪痕がある状況では、優先順位から考えても予算はなかなか回ってこないでしょう」(森林管理事務所の担当者)
■今後、日本中の「林道」が姿を消す可能性も!?
こうした慢性的な予算不足のなかで、今後使用頻度の少ない林道に関しては安全を考慮して、一般車完全通行止めにしていくケースが全国的に増えていくのではないかと、ある林業関係者は次のように説明します。
「そもそも林道は安全を担保できないことから、原則は一般車の通行をお断りしています。建前としては自己責任とありますが、造った時から安全性を十分に確保できている構造ではないのです。
台風被害によって道がダメージを受けている現状では、さらに安全を保証することはできず、やむえずゲートを閉めて通行できなくするという道も多くなっていくと思います」
日本全国の林道で通行止めが続いている
埼玉県と長野県を結ぶ中津川林道は、2019年5月に数年ぶりに開通しましたが、半年も経たないうちに台風の被害で再び通行止めとなりました。林道管理の担当者は、嘆息気味に林道の維持の難しさをこう語ります。
「現在、復旧に向けて測量をしていますが、今度開通するのは何年先か。林道は秩父市の管理ですが、我々としては県道に昇格させて県の管理にしていただきたいと、数年前から活動してきました。
しかし県は予算の問題から、なかなか引き受けてくれません。国や県が修復をしている部分も多いため、我々も無理をいえないというのが実情です。
ただ、住民に必要とされる以上、林道は我々の手で修復し続けますが、将来また崩れたら今後どこまで維持できるのかわかりません」
現在、日本全国の林道で復旧工事を必要とする被害が発生しており、治水のためとか、生活道路であるなどといった重要な事由がない限りは、通行できないままの状態です。
今後、再び大きな自然災害も予想されるため、そうなると日本から走れる林道が消えるという恐れもあながち皆無ではないということになります。
昨今はクルマもバイクもオフローダーブームで、ネット上では林道走行のマナーの悪さについて取り沙汰されることもあります。
林道を長く楽しく走りたいのであれば、我々走る側の林道への理解とマナー改善がマストだという段階に来ているのかもしれません。
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