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公道で出会えたら奇跡! レーシングカーをロードカーに仕立てたジャガー「XJR-15」

くるまのニュース / 2020年6月17日 11時50分

ル・マン24時間レースで優勝した車両を、そのままロードカーに仕立てたジャガー「XJR-15」は、同時期にジャガーが生み出した「XJ200」とはまったく異なるルートから50台限定でリリースされた。どうしてXJR-15はXJ220と同タイミングで作られたのだろうか。

■ル・マン24時間レースなどで活躍した「XJR-9」を公道用に仕立てた!?

 思うに、ウルトラスーパーカー群には2種類の企画がある。(後にレースで活躍したにせよ)純粋にロードゴーイングありきの企画であったか、ハナからサーキット(たとえばワンメイクレース)を意識した企画だったか。

 たとえばマクラーレン「F1」がそうであったように、多くは前者である。なぜならレースに参戦することを目的に作ってしまうと、必ずやレギュレーションに縛られ、必ずやレギュレーション変更に振りまわされ、必ずやレギュレーションによって滅ぼされてしまう。

 だから、後者の数は、ポルシェ「GT1」やメルセデス・ベンツ「CLK-GTR」といった具体的な例を挙げるまでもなく、存在したとしても非常に少ないゆえ、公道での印象があまりにも乏しい。レーシングカーであるということと、その数の少なさゆえ、スーパーカーと呼ぶには、あまりにも遠い存在になってしまっていることもまた事実である。

 いつかは「カレラGT」(コイツもかなりレーシーだがレース目的ではない)に乗りたい! という人は沢山いても、いつかはGT1という人にはお目にかかったことがない。そういうことだ。

 そういう意味で、このジャガー「XJR-15」というクルマも、スーパーカー好きには少し遠い存在であるのかもしれない。レースに近いから遠い、というならば、ほぼ同時期に登場し、レースには遠いけれど後にレースにも出場した同じジャガーのスーパーカー「XJ220」は近い存在なのかと問われると答に窮してしまうが、そっちも含めて、ジャガーというブランドそのものがスーパーカー乗りの気持ちから遠い存在、ということなのだろう。

 もっともそのことと、このクルマ(XJ220も合わせて)の魅力とは、まったく次元の違う話である。純レーシングカーの、本物のライドフィールを公道でも味わえるという点で、XJR-15の魅力は今なお、まったく色あせない。

 本当にこのまま一般道を駆け巡っていいの? と思わず叫びたくなるほどに、ほとんど丸ごと、レーシングカーだ。

 スタイリングはこののちマクラーレンF1を担当することになるピーター・スティーブンスの手によるものだが、キャビンスペースをいくらか拡げたとはいえロングテールのXJ220の方がまだ、GTカーに見えるほど、である。

 実際、このクルマの中身はCカーそのものと言ってよかった。「ハナからサーキットを目指した」というよりはむしろ、「サーキットから公道を目指した」と言う方が正しい。

■いうなれば公道走行可能なレーシングカー「XJR-15」とは?

 当時のジャガーといえば、XJRシリーズでプロトタイプレーシングカー界を席巻していた。なかでも1988年の「XJR-9」の大成功が、このXJR-15誕生への布石となったのである。

古き良きスポーツカーを彷彿させる低く流麗なプロポーション古き良きスポーツカーを彷彿させる低く流麗なプロポーション

 それは、XJR-9ベースのロードカーを造る、という途方もない企画。けれども、アノ時代、モータースポーツ界にて暗躍するビッグネームたちの脳ミソに、不可能の三文字を見つけることの方が、不可能に近かった。

 加えて、その企画がXJ220とほぼ同時進行していたことを思い出して欲しい。ジャガーとジャガースポーツ、そしてレース界の錬金術士TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)という三つ巴の構造が、「日本がアメリカすべてを買うかも」という驚天動地の時代にあって、激しく脈動した。

 事実上、カーボンコンポジット製のロードカーとしては世界初ということになる。そりゃそうだろう。ベースは何と言ってもル・マンウィナーのXJR-9である。

 床下は完全にフラット。背後にはジャガー製6リッターV12が積まれていた。車両重量は、XJR-9に加えること、およそ150kgの1050kgというから、いかにこのクルマが「最小限」のロードカー化ですませていたかが伺える。

 生産台数、わずかに50台。実際に走る姿を見ることはもちろん、座るチャンスなどめったにないと思うが、もしこのクルマに運良く遭遇するなんてことがあったとしたら、是非、オーナーに、土下座して頼んででも、乗り込んでみて欲しい。レーシングカーがベースになっていることを、即座に、身体で感じることができるはずだ。

 まず、カウンタックなど比じゃないサイドシルに戸惑うだろう。ちょっとしたベンチのようである。

 なんとか身体を折り曲げて乗り込んではみたものの、アシを伸ばして一息つく、というわけにはいかない。身体の向きだって、なんだか妙だ。脚は完全に車体の中央線を目指している。足下はタイトこの上なく、隣の小さなシートに人が乗ろうものなら、互いの脚が絡まってしまうんじゃないか? と思ってしまうほど。

 これでもXJR-9より7.5cm室内はワイドだという。レーシングカーよりルーフを4cm高めたため、頭上はそれなりに広いが、完全なるキャノピースタイルで、左右の幅は上にいくに従ってすぼめられている。乗ってしまえば大いにリラックスできたXJ220とは、大違いだ。

 右に座って、右のシフトを動かす。これもまたレーシングカーの流儀。

 以前、TWR製6速ノンシンクロミッションとカーボントリプルクラッチのコンペティションモデルに試乗したことがあった。あいにくの雨の中、精神的にも、そして肉体的にも、これほど乗りづらいスーパーカーはほかにない、と思ったものだ。

 けれども、ひとたびアクセルを踏み込んでゆけば、ウルトラシルキーなジャガー製V12が徐々に唸りをあげて、乗り手の背骨を刺激する。それは、まさに痺れるような快感だった。

 あくまでもドライバーの意志に忠実な前脚の動きと、車両バランスの良さは、やはりロードカーのものじゃない。速く走るためだけに造られた、レーシングカーそのものの動きである。

 これが、ただの高速道路ではなく、現金1億円をかけて戦った、XJR-15によるワンメイクレースのサーキットであったなら……。そのまま加速を続けていくうちに、意識がすーっと薄れだし、みるみる悪くなる視界の向こうに、モナコやシルバーストーン、そしてスパフランコルシャンが見えた気がした。

 走りのレベルはロードカーのそれではなく、古き良きレーシングカーそのもの。何しろ、XJRといえば、当時の純スポーツプロトタイプのための呼称であり、事実、XJR-15の前後、14と16は紛れもなくCカーであった。

 12気筒エンジンを積む、ミドシップのレーシングカーを公道で楽しむ。しかもマニュアルミッションで。この時代、もはや二度と実現しない企画であることは明らかであろう。

 一度は、試しておきたい。

* * *

●JAGUAR XJR-150
ジャガーXJR-15
・全長×全幅×全高:4800×1900×1100mm
・ホイールベース:2780mm
・エンジン:V型12気筒SOHC
・総排気量:5993cc
・最高出力:450ps/6250rpm
・最大トルク:569Nm/4500rpm
・トランスミッション:6速MT

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